mohu09
2026-05-30 13:25:23
1739文字
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6/6MPぷちMIX3 新刊サンプル

新刊サンプル

「なんかさ、頻度高くない?」
 ある日の静かな午後、スティーヴンは僅かに頬を膨らませながら言い放った。それを聞いたジェイクとマークが首を傾げている。
「何が?」
「キスだよキス! 最近多すぎる気がする」
「そうかぁ?」
「そうか? じゃないよ! 今だってしてきたじゃないか」
 たった今もジェイクにキスされたばかりだった。スティーヴンは静かに夢中で本を読んでいたのに、突然頬を鷲掴まれて顔の向きを変えさせられ、キスを落とされたのだ。それも、軽く唇を重ね合うだけのものではなくて深く舌を絡め合わせるやつ。急にされるキスにしては重すぎる。
「別に多くても良いだろ。減るもんじゃなしに」
「減るとか減らないとかじゃないの。僕が嫌なの」
「そうだぞジェイク。スティーヴンが嫌がってるんだからやめろ」
「マークも人のこと言えないからね?」
「えっ」
 短く声を出してマークが固まる。自覚なしだった。
 マークもマークでキスが多い。寝る前のキスだったり行ってらっしゃいやおかえりのキスだったり、兎に角何かにつけてキスをしたがる。ジェイクと違って唐突だったり無理矢理だったりではないが、回数が多いのだ。しかも、何だかねちっこい。しつこく唇を喰んできたりするし、何度も角度を変えてキスされる。いつまでも終わらない。
 最近、二人からされるキスの頻度が高まっている気がする。まあマークは元々そういう傾向にあったが更に増えている気がするし、ジェイクは唐突なキスが増えた。こうやって何気なく読書をしていたり夕食の準備をしていたりする時に突然キスをされたと思うと、無言で去っていく。そんなことが多い。読書の時はまだしも、夕食の準備中は危険だからやめて欲しい。
 スティーヴンは、キスがあまり得意じゃない。下手とかそういう意味ではなくて――下手ではないと思いたい――キスをされるのが元々そんなに好きじゃないのだ。だってキスをされると心臓が痛くなるほど緊張する。これだけキスをしているというのに、いまだに慣れない。特にジェイクがしてくるような、深いやつは苦手だ。どう受け入れるのが正解なのかわからないから。ただただ呆然としながら受け身になるしかない。あと突然キスをされるのも嫌だ。心の準備が出来ない。
 兎に角今のスティーヴンには不満が溜まりに溜まっているのだ。
「マークはキスがねちっこいし、ジェイクはいつも激しすぎ! 僕はどっちも嫌なわけ!」
「ねちっ……そんな風に思ってたのかスティーヴン……
「激しいの気持ち良いから好きだと思ってた。気持ち良いこと好きじゃん、お前」
「好きじゃない……こともないけどさ! 気持ち良ければ良いってわけでもないでしょ」
「あ、好きなのは否定しないんだ」
 うるさいなぁ、とジェイクの言葉を制して、スティーヴンはソファから立ち上がる。精一杯睨みつけるような鋭い眼差しをしてジェイクとマークを見下ろせば、二人は目を丸くしてスティーヴンを見上げていた。
「今日からしばらくキス禁止です!」
「えー」
「そんなの酷いぞスティーヴン!」
「そうだそうだ」
「うるさい! 禁止ったら禁止なの!」
 一方的に言い放ってリビングを去ろうとした時、ジェイクが背後でボソリと呟いたのをスティーヴンは聞き逃さなかった。
「キス、好きなくせに」
「好きじゃないよ!」
「好きだろ。いつも追い縋ってくるじゃん」
「なっ……そ、そんなことしてない!」
「してるよ。今に見てな、精々一週間も続かないぜ、これ」
 聞き捨てならない。スティーヴンはキスの際に追い縋ったりなんてしないし、たったの一週間で禁止令を解除するつもりもない。一ヶ月くらいは続けるつもりである。
 スティーヴンはジェイクをキッと睨みつけてから、荒い足取りでキッチンへと向かった。言いがかりをつけられて腹が立つ。こんな時は紅茶を飲んで心を落ち着かせるに限る。
 紅茶のためのお湯を沸かしながら、一点を見つめて苛立ちに貧乏ゆすりをした。ジェイクの得意げな表情が頭から離れない。絶対にあの男の言う通りになんてなるものか。一週間でギブアップなんてしてやらない。そう決意を新たにして、紅茶のパックの包み紙を荒く破ったのだった。