フリンズさんの手袋の中身を暴いた話

あまこい7にて展示しました

――あっ!」
 そうやって声が出た時にはもう遅くて、倒れるソレを捕まえることはできなかった。


 今日は話の流れで、フリンズさんをウチに呼んで二人でお茶会――いわゆる、お家デートを楽しむことになった。
 ヴォイニッチ商会に注文していた数種類の紅茶葉がようやく入荷したと連絡を受け、「僕も荷物持ちとしてご一緒しましょう」という言葉に甘えて、商会へと二人で向かった。他にもいくつか買い物をして、うちまで荷物を届けて貰ったのだ。

「あの……もし良かったら、せっかくなので……うちで紅茶とお茶菓子を頂きませんか?」
「ふふ、なんと魅力的なお誘いなのでしょうか。是非お邪魔させてください」

 そうして二人きりのお茶会準備を進めていたのだが、……やってしまった。私が水差しの瓶を勢い余って倒してしまったのだ。
「ご、ごめんなさい!」
「いえいえ、お怪我はありませんか?」
 幸い、倒れた水差しが割れることはなく、二人とも怪我をすることはなかったのだが――それでも被害はあった。
 フリンズさんの手、というか手袋が水浸しになってしまったのだ。

「うぅ……すみません、責任持って洗濯しますので……
「いえ、結構ですよ。すぐに乾きますから」
「いやいや、すぐ乾く様子は無いですよね……

 皮の色が変わってしまい、水が染み込んでしまっている様子がどうしても見えてしまう。えぇい、これは無理矢理にでも預からねば……
 フリンズさんの手を勢いよく握って、手袋を渡してもらおうと……思ったのだが……、あれ?
 握り込んだ指の付け根に、何か硬い物が……違和感がある。そのままフニフニと触っていると、頭上から――つまりフリンズさんが小さくため息を吐いた。

……バレてしまいましたか」
「フリンズさん、これ……何ですか?」

 触り心地からすると、おそらく……これは…………指輪?意外だけど、フリンズさんって指輪とかするんだ。ちょっとビックリしてしまって、握ったまま手の動きを止めていると、フリンズさんがそっと私の手を掴んで、触っていた手袋から離させた。
 そのまま彼の次の動作を見つめていると、自ら濡れた手袋を外してくれた。そうして現れた薬指と小指の付け根には、一つずつ指輪が収まっていた。
 その指輪を大事そうに撫でるフリンズさんを見て、肌身離さず付けておくアクセサリー。つまり、過去の…………いやいやいや、そんなことは無い、筈……

「仕方ありませんので、白状することにします」
「え! あ、はい‼︎」

 少しだけネガティブな想像をしてしまったところだったので、その秘密を明かされるというのは、正直に言うと……怖かった。それでも、彼が話してくれるというのならば、どんな過去でも受け入れよう。そう思い直し、いつのまにか伏せていた顔を上げ、フリンズさんの目を真っ直ぐに見据えた。

「まず、この指輪は…………貴女の物です」
「はい………………ぇえ⁈」

 覚悟した方向とは全然別のベクトルの内容に、思わず驚いて大きな声を出し、目をパチパチさせてしまった。

「この指輪には、いま僕が『加工』をしているのです」
「加工……?」
「えぇ。僕がアクセサリーを身につける事で、僕の炎を――宿すことができるのです」
「炎を…………?」

 話についていけず、言われた単語を繰り返すだけになってしまった。えぇとつまり、指輪に炎を宿すための加工中ってことで、その指輪は私の物だと言う。

「そうですね……分かりやすく言うと、僕の――フェイの加護を付与していた、という事になりますでしょうか」
……加護?」
「そうですね。……もうすぐ、貴女の誕生日でしょう?」

 ――あっ。
 今は六月で、確かに私は誕生月だ。ということは……
「フリンズさんのサプライズを、暴いてしまった……と言う事?」
「そうなります、ね」

 眉を下げて困った顔をするフリンズを見て、私は大いに慌てた。
「ご、ごめんなさい……?」
「貴女が謝る必要はありませんよ」
「でも……
「ふむ……。それでは、予定を少し早めましょうか」

 そう言ったフリンズさんは、私をソファまで誘導して座らせ、自身は膝を付いて私の左手を取り、私の顔を見上げる。私はこれから何が始まるのかと不思議に思いつつ、フリンズさんを見つめる。
 そして彼は、先ほど小指から外した指輪を手のひらに乗せ、私へと差し出す。

「順番が少し変わりましたが……、よろしいでしょうか?」
……はい、なんでしょうか」
――愛しい貴女。僕と、結婚して下さいますか?」
……! はい‼︎」

 急展開のジェットコースターな気分だったが、本当に嬉しい。私は深く考えるまでもなく返事をしていた。
……ははっ、少しぐらい迷うかと思いましたが」
「フリンズさんの事なら迷いません!」
「おやおや、それは光栄ですね」

 私の左手を軽く持ち上げて、指輪を薬指に通される。彼の左手の薬指にも同じ指輪が光る。
「えへへ、お揃いですね」
「はい。どうぞこれからも、よろしくお願いしますね」
 指輪に埋め込まれた蒼い宝石は、フリンズさんの炎と同じ色をしており、石の中に小さな炎が存在するかのように不思議と揺らめいて見えた。



 改めて用意した紅茶とお菓子を二人で楽しんだ。ふと目 視界に入る度に気になり綺麗な指輪を眺め、思わず口角が上がってしまう。そんな私に気づいたフリンズさんも、私に釣られて優しく微笑んだ。
 
「ところで、フリンズさんの『加護』って、具体的には何を指すのですか?」
「そうですね……では、後ろを向いて貰えますか?」
……? はい」
――さて、僕は今どこにいると思いますか」
…………えっ⁈ な、何故かフリンズさんがいる方向に指輪が惹かれるというか……どこにいるのかが感覚で分かります、ね?」
「ふふ。これでもう、僕とは離れられませんよ」



『妖精さんに囚われる予定の幸せな日々へ』