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燈 ともしび
2026-05-29 21:55:20
3034文字
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リクエスト14:ぎゆさね【自覚】後編
後編です。
やっぱりね、勝てないのです。
リクエストありがとうございました😊
注意⚠️軽めですがグロい描写があります🙇♀️苦手な方はご注意下さい。
すんでのところで隊士の襟首を掴む。
そして受け身くらい取れるだろうと安全なほうへ放り投げ、刀を振るう。
「ふ、ふふふ。やはり気付いていたか。この動き、やはりお前は病人ではないな。さては柱か」
嗄れた不気味な声が笑いながら話しかけてくる。振るった刀は当たらなかったが、距離をとるのには役立ったようだ。隊士が連れて行かれそうになった時よりは気配が離れたのを感じた。
「さてなァ。俺が柱とかどうでも良いだろうが。テメエはどうせここで首を斬られて消えるんだ」
気配のするほうから視線を離さずに言えば、モヤのような影の中から大きな鬼が現れる。
脚が多い
……
まるで蜘蛛のような姿。けれど異様なのはそれだけではない。蜘蛛の腹にあたる部分から人の顔がのぞいていた。それは先ほど診察してもらった医師の男と受付をしていた老婆の顔に見える。
『た、すけ、て』
腹の顔二つがか細い声で訴えてくるのを目を見開いで見つめた。
「
……
ゲス野郎がァ」
「なにが? ああこれか。これは役に立つ。何もしなくても人間のほうからこちらにやって来る。そしてワシの腹に収まる。なんと楽なこと」
けけけと笑う声と共に腹の顔ふたつがゆらりと宙に浮く。そして顔だけが揺れ続ける。首から下は食われたのか、既に無い。
『ぎゃあ』
『痛い! やめてくれ!』
顔だけになっていても苦痛を感じるようで鬼が揺らすたびに悲鳴が上がる。鬼は気にすることなく、蜘蛛のような脚で揺らし続けていた。
「心地良い。心地良い。人間の悲鳴は心地良い。もっと泣け。喚け」
ゲス野郎。コイツは絶対に斬ってやる。
そう思っても、鬼は医師と老婆の首を己の首回りに持ってきて揺らしているので正面からは斬りにくい。俺が後ろに回り込むにしてもあの蜘蛛鬼を若い隊士一人でどうにか出来そうもない。
どうする。
考えろ。
思案した一瞬。それは隙を生んでしまった。
物音も気配も殺して背後からもう一体、前にいるのよりも一回り小さな蜘蛛鬼に手足を取られてしまう。
「油断したな、柱。ワシは若い男が好きだ。食べるのも弄ぶのもなぁ」
大きなほうの蜘蛛鬼が近付いてきたかと思うと俺の着ている羽織をむしり取ってしまった。そして俺が動けないのを良いことに細かな産毛の生えた脚を隊服の中に潜り込ませてくる。
「クッ!」
さわさわとした産毛の感触と人間とは違う這いずり回るような動きが気持ち悪い。
「なぁに、すぐに気持ち良くさせてやろうなぁ。快楽に歪む顔を見ながら足元から食ってやろう」
蜘蛛鬼は生臭い息を吐き出しながら俺の身体に顔を寄せ、長く真っ赤な舌で胸元を舐め回す。
「や、めろォ」
気持ち悪い、気持ち悪くて仕方ない。
離せ。触るな。俺に触れて良いのはあいつだけだ。クソッタレがァ。
ありったけの呪詛を呟いても蜘蛛鬼はかえって嬉しそうにするだけだ。
あいつは?
なんとか視線を巡らせると、若い隊士は小さい方の蜘蛛鬼の脚で肩を貫かれ、医師や老婆と共に揺らされている。
「安心しろ。そいつは後でゆっくりいたぶりながら食ってやろう」
「安心す、るか、よ、クソッタレ!」
けけけ。俺が喚けば喚くだけ鬼は不愉快な嗄れ声で笑う。
目を閉じる。
気配を探る。
先ほど視線を巡らせたとき、感じたもの。
これが間違いでなかったら。
鬼は俺を舐め回すことに夢中になっている。それならいま。
「水の呼吸拾ノ型。生生流転!」
水がうねるように刀から飛び出し、竜の如く蜘蛛鬼へ何度も攻撃する。
一瞬だ。ほんの瞬きの一瞬。
一度の斬撃が、隙を見せていた蜘蛛鬼の首を見事に斬りとる。
「水の呼吸弐ノ型・水車!」
そしてそのまま休むことなく、小さなほうの蜘蛛鬼の首も斬り捨てた。
『ぎゃあ!』
蜘蛛鬼の腹にくっつけられていた医師と老婆は悲鳴を上げ、そして本体の鬼と共に消えていく。続けて小さなほうの蜘蛛鬼も消えていった。
おそらく下半身を食われた時点でもう人間ではなく鬼の一部となっていたのだろう。だから鬼が斬られたのと同時に消えた。
死してなお、鬼に利用され苦痛を味合わされ続けた哀れな者たち。だが、この医師と老婆がいたから騙され、鬼に食われてしまった人間がいたのも事実。これだから鬼は斬らなければならないのだ。
「無事か」
「は、はい! 水柱様、ありがとうございました!」
冨岡は鬼が消えたのと同時に高いところから落とされた隊士へ声をかけている。
放っておけば良いのに。なんの役にも立ってねェぞ、そいつ。
少し苛ついて頭の中で吐き捨てる。
俺とは一度視線があった。
が、すぐに逸らして無視しやがった。こんのクソッタレがァ。
やがて隠が到着し、若い隊士は手当のために運ばれていった。
「風柱様、ご無事ですか?」
「ご無事だわァ。見りゃ分かんだろうがよ」
苛々が収まらずに隠相手にも吐き捨てていると、突然右手が引っ張られる。
「風柱は無事だ。俺たちはこれからお館様へ報告があるのでこれで失礼する。あとは任せた」
「は、はい!」
ムカついてよそ見をしているから冨岡がどんな表情をしているのか俺からは見えないが、話しかけられた隠は顔を真っ青にして震えている。
大人気ねェ。自分のことは棚に上げてそう思う。
「風柱」
「
……
なんだよ」
「任務の前に俺が話したことを覚えているか?」
「覚えてねェわ、クソッタレが」
「
……
そうか」
ア?
拍子抜けするくらいあっさりと冨岡は引いた。
だから驚いて冨岡の顔を見てしまった。
……
見なければ良かったと思う。
「お館様に報告すんだろ
……
」
「もう爽籟が飛んでる。出来た鎹烏だな」
「そーかい。ありがとさん」
「風柱」
「
……
なんだよ」
「先に言っておくが、俺は猛烈に怒っているぞ」
「はァ?! なんでだよ」
「
……
言わないと分からないか?」
あ、これはヤバい。
冨岡は笑っていない時がヤバいのではない。
笑っている時が一番ヤバいのだ。
顔を寄せてきた冨岡は今まで見たことがないほどの笑顔でこちらを見ている。この笑顔が曲者でヤバいことを俺は身をもって知っているのに。
「先にお館様に報告だ。
……
だが、そのあとは分かっているな?」
分かりたくねェわ。
そう言い返したいが、言えば後で倍になって自分の身に返ってくることをよーく知っているので黙っておいた。
「冨岡さァ」
隠達から離れたので呼びかけてみる。
「なんだ」
「先に風呂入っても良いか? ベロベロ舐め回されたんで気持ち悪ィ」
「
……
分かった」
冨岡はスンとしてる。機嫌は曲がったままだ。
するっと、冨岡と手を繋ぐ。
「そんなことくらいで機嫌は直さないぞ」
「分かってるってのォ」
ただ握りしめていただけの手を指と指が絡まるように繋ぎ直す。ぴくりと少しだけ冨岡の肩が揺れた。
「冨岡ァ」
「
……
なんだ」
「俺のこと舐め回せよ。気持ち悪いの消して。冨岡で上書きして」
下から見上げるように一撃を。
「!」
これはきっと効果あり。やっと冨岡のスン顔が崩れたから俺は面白くなって笑ってしまった。
「自覚はあるんだぜ。冨岡しか触れられても気持ち良くねェって」
更にとどめに一撃を。
繋いでいた冨岡の手が熱くなったので、繋いだままブンブンと振り回しておいた。
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