紫よか
2026-05-29 18:44:06
1337文字
Public 刀剣乱舞
 

あになるもの

二振りの乱藤四郎と蕚

 この本丸に乱藤四郎は二振りいる。

 一振り目は今は亡き先代の審神者を支えて、力を極める修行までしてきたもの。もう一振りは、今本丸の主を務める審神者の少女が初めて鍛刀した、まだ人の姿を得たばかりのもの。
 二振りの乱藤四郎は、けしてどちらが優れているとか、どちらがより主に愛されているかとか、そういった競い合うことはしたことがない。むしろ主を守る面に関して気が合い、同じ顔のふたりはよく一緒にいる。

 そしてよく一緒にいる仲良しのふたりは、あるいたずらを思いついた。

「あるじさーん」
「あーるじさん」
「? あ! ……あれ?」

 呼ばれた少女は振り返ると、ぱちくりと目を瞬かせた。内番着姿のふたりの乱藤四郎は、同じ髪型をしていたのだ。
 ふたりは二振り目の乱藤四郎が来てから、なんとなく内番着を来ていても戦の時と同じ、下ろした髪型と三つ編みに結った髪型をして周りに区別をつかせていたのだが、久々に一つに結んでみたのだ。なので、ふたりは今、全く同じ姿形をしている。同じ粟田口の兄弟たちにはすぐにバレてしまうような。けれど、この審神者の少女はどうだろう? どちらが、どちらだと区別できるだろうか? そう、本当にちょっとしたいたずら。

「あるじさん、どっちがあるじさんの初めてのボクでしょうか!」

 ふたりで声音も合わせて、ステレオ。
 審神者の少女がたとえ間違えても可愛らしく、当てたら何となく嬉しい。乱藤四郎たちはそう思っていた。

 すると少女は、躊躇いもなく──

「こっち! こっちがうてなの乱!」

 と、片方の乱藤四郎の腰に抱きついた。大正解である。

「わあ、正解正解!」
「よくわかったね?」
「えへへ、なんとなく! でもわかるよー!」

 ぱっと審神者は体を離すと、もう片方の乱藤四郎にも抱きつく。幼い少女の頬はいつだってばら色に染まっており、嬉しそうであった。

「こっちは乱お兄ちゃん。ママの乱藤四郎」
「えー、どうしてわかるの? あるじさん」
「だってお兄ちゃんって感じがするもん」
「あっ、ボクはお兄ちゃんじゃないの? あるじさんよりずーっとお兄ちゃんだよ?」
「乱は乱〜」
「ふふ。こらっ」

 つんと額をつつかれて、少女はえへへと笑った。

「でもどっちも、うてなのたいせつなお兄ちゃんだよ」
……うん、なんか嬉しいな」
「ボクも。嬉しい。あるじさんはボクたちの妹かもね」
「いもうと〜」
「ボクたちのこと、ずっとあるじさんのお兄ちゃんでいさせてね」
……? うん!」

 いつかこの少女も成長するだろう、大人になるだろう。もしかしたら、先代のように早くに亡くなってしまうかもしれない。早くても遅くても、その時が来る時まで、ふたりはこの審神者の兄でいたかった。一緒に遊んでふざけあって、時に守って。兄という守護者でありたいのだ。
 だから、このいたずらは、ほんのひと時の興味心。それだけだ。

「乱、乱お兄ちゃん、あそぼ!」
「うん! 遊ぼう」
「何して遊ぶ?」
「んーと、おてだま! かけっこ!」
「いいね」
「ぜーんぶしよう!」

 兄なるふたりは、妹なる少女に手を引かれ、今日も彼女と共に在る。花を支える、蕚のように。