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はらす
2026-05-29 17:55:18
1302文字
Public
バチ
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20260529巻墨 炭誕2026
2026/05/29 巻墨 炭ちゃんお誕生日おめでとう
15歳のお誕生日です。
「「炭は誕生日なんだっけ?おめでとう?なんか欲しいものあるの?」
「え?ああ、それは
……
」
答えられないでいると、質問の男は目じりを下げ「相変わらず、炭はクールで美人だね」と微笑んだ。柔らかく笑う顔に釈然としないまま、彼から書類を受け取り、その場を後にする。
少し前、数え年で十五を越えた頃から、忍びの里だけではなく、神奈備の本部にも出入りするようになった。もう修行の身は終わりだ、一人前に任務を引き受ける身になったのだ、と嬉しく思った。同時に世間と里の違いを感じる機会は格段に増えた。書庫で学び、資料から想像していた世界とは違う、実際の社会に戸惑うことばかりだ。挨拶のタイミング、食事中の会話、バスの乗り方、おやつの買い方。どれも思っていたのとは、少しずつ違う。
移動のための公共交通機関は情報の宝庫で、乗り物の中でじっと座りながら、猫みたいに耳と髭をそばだてて、世間の情報を収集するのは面白かった。それに、里にはない色とりどりのお菓子たちを、郎や杢に気づかれないようにチェックするのも楽しい。こっそり、私だけの宝物として。
里で誕生日を祝う習慣はない。忍びに個性は必要ないし、歳は正月に皆一斉に繰り上がった。だから、神奈備へ事務書類を取りに行ったついでに、事務員がなぜか嬉しそうに「おめでとう」と言うのには戸惑った。はじめてだから、そういうの。
文献で知識を知っていることと、実際に声を掛けられるのは違う。おそらく私に下心があるお兄さんが、事務書類から探った個人情報を元に、誕生日を祝うことがあるだなんて、思ってもみなかった。嬉しいとは違う。ちょっと、不思議な感じだ。
今日は、私の誕生日らしい。
「今日、誕生日だったみたいなんだけど」
里に帰ってから、洗濯ものを二人で干しながら、郎に呟く。できるだけなにげなく、なんでもないことのように、「今日はいい天気ね」という雑談と同じ口調で。
「ああ、そうだな」
郎は私の誕生日を覚えていたらしい。「そうだな」の肯定に、神奈備のお兄さんには感じなかった火照りを覚える。たぶん、これは、ちょっと嬉しいのだ。ずっと里で一緒にいて、お互い誕生日なんて祝ったことがない相手が、私の誕生日を覚えていてくれたこそばゆい感情。空気みたいにいるのがあたり前の人が、急に私個人のことを話してくれる恥ずかしくてくすぐったいなにか。
「じゃあ、なんか、ケーキでも食うか?」
「え?」
「好きだろ。すいーつとか言うやつ」
慣れない口調で「すいーつ」と口にする郎が面白い。ふだん、そんなこと言わないから、この人も少し恥ずかしいんだろう。
「なんだ、ばれてたの?」
「そう、それに」
「それに?」
「俺も、誕生日祝いってやつを、一回やってみたかったんだよな」
資料だけじゃ、面白くないだろ。祝うなら、炭ちゃんか杢がいいって、ずっと思っていたんだ。
小さな目を糸目にして、郎は私を見上げながら、頼もしそうに笑った。
「じゃあ、ケーキの、いちごのやつ」
言ったあとで、胸の奥がまたくすぐったくなる。
夜、三人でいちごのケーキを食べる今日は、私の誕生日らしい。
〆
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