moto
2026-05-29 17:48:54
1116文字
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冷たいごほうび

さまささワンドロワンライお題「アイスクリーム」


簓の部屋に入ってすぐ、本人から着信があった。
「もうちょい時間かかりそうやわ」
 もう風呂入った?と聞かれたので、今着いたところだと答える。簓はほっと息をついて、「お湯ためてゆっくり入っといて〜」と何故か嬉しそうだ。
「肩まで浸かって十数えるんやで」
「ガキか」
「わはは。風呂上がったらアイスあるで。好きなん食べてな」
「ガキか」
 話しながら湯はりのボタンを押す。湯はり開始の軽やかな電子音を聞いて、簓は再び、わはは、と笑って電話を切った。
 勝手知ったるもので、簓のボディソープ、洗顔料、シャンプー、コンディショナーを使ってゆく。ボディソープが少なくなっていたので、あとで補充しといてやろう。詰め替え用がちゃんとストックしてあったはず。ゆっくりと湯につかり、オオサカの会合での疲労が溶けていく心地にひたる。肩まで湯につかると、十数えるんやで、と簓の声がする。一緒に風呂に入ると、いつも簓が十を数える。しかも数え歌である。自然と左馬刻の頭の中では、簓が「いーちにぃさんまのしっぽ」と十まで数えた。
 風呂から上がり、髪も乾かす。ボディソープの詰め替え用はちゃんとストックしてあり、補充も済ませた。エアコンは効いているが、まだ身体は火照っている。冷凍庫を開けると、様々な種類のアイスでほぼ埋まっていた。
「買いすぎだろ」
 左馬刻は呆れながらも、ごそごそと物色し、ソーダ味の棒アイスに決めた。久しぶりに食べると美味いものだ。
 帰宅した簓は、開口一番「アイス食った?」と聞いてきた。
「食った」
「なんにした?」
 左馬刻の選んだアイスに、やっぱ定番は間違いないよな、と満足気に頷いている。
「つか、買いすぎだろ」
「わは、つい。でもアイスいっぱいあったら嬉しいやん」
 俺は何にしよかな〜、簓は足取り軽く風呂場へ向かう。詰め替えられたボディソープに感激し、天才や!と叫んでいた。

 そんなやり取りをしたことは覚えている。
 左馬刻宅で、風呂上がりの簓に「アイスあるぞ」と左馬刻が声をかけた。簓が、スキップしながら冷凍庫を開けると、左馬刻の冷凍庫では今まで見たことないぐらいの量のアイスが詰まっていた。
「すごいやん、こんなにいっぱい!?」
「おう、好きなやつ選べ」
 なんてことのない左馬刻の返事だった。簓はしばらく物色して、一旦冷凍庫を閉める。
「いっぱいありすぎて選ばれへん。ちょっと休憩」
「なんだそりゃ」
 胸に手を当てて息をついている簓を、左馬刻は笑っている。
 冷凍庫いっぱいのアイスにも、簓が喜ぶからと詰めた左馬刻の気持ちにも、簓の胸はいっぱいになり、この嬉しさをどう左馬刻に伝えようかと、精一杯考える。