カーンダヴァの塔の最上階。
その夜も外では凍てつくような冷たい風が吹き荒れていた。
だが厚い石壁に囲まれたこの部屋の中だけは、暖炉の火が赤々と燃え、静かで穏やかな時間が流れている。
主君であるシヴァ様は、寝台の上で退屈そうに寝返りを打ち、ふう、と深いため息をついた。
「
……インドラ。退屈だ」
「はっ」
「何か面白い話でもないか。それとも
……そうだな、歌でも歌ってみせろ」
その突然の気まぐれな命令に、私は思わず眉をひそめた。
「
……歌、でございますか」
「そうだ。ルドラの民はよく歌を歌うのだろう? お前も知っているはずだ」
「
……存じてはおりますが、私は、その
……歌は少々不得手でして
……」
正直に言うと不得手どころではない。
候補生時代、宴の席で歌わされた時、ミトラに「お前の歌は魔獣の雄叫びより恐ろしい」と真顔で言われたほどだ。
だがシヴァ様は私の困惑を面白がるように目を細めた。
「構わん。命令だ。歌え」
「
…………」
主君の命とあらば仕方がない。
私は覚悟を決め、寝台の傍らに跪いた。
そして幼い頃に長老がよく歌ってくれた、カーンダヴァに古くから伝わる子守唄をゆっくりと口ずさみ始めた。
「
……眠れ、眠れ
小さな花よ
冷たい風が吹く夜も」
自分の声が静かな部屋に響くのが、ひどく気恥ずかしい。
音程が外れているのが自分でもわかる。
「硬い岩のその陰で
静かに根を張り眠りなさい」
シヴァ様は私の歌声を聞きながら、くすくすと喉の奥で笑った。
「
……ふふ。確かに、これはひどいな」
「
……申し訳ございません」
「やめろとは言っていない。続けろ」
彼はそう言うと寝台から少しだけ身体を乗り出し、私の肩にその頭をこてんと預けてきた。
まるで甘える子供のように。
「月が空から見ているよ
銀の光で包んでる
……」
私は肩に伝わる主君の微かな体温を感じながら、歌い続けた。
「明日もきっと花咲くように
今は静かにおやすみ」
一番を歌い終えると、シヴァ様は満足げに目を閉じていた。
「
……下手な歌だが」
彼は目を閉じたままぽつりと言った。
「
……お前の声は妙に落ち着く。
……悪くない」
その言葉に私の胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「
……恐縮に存じます」
「
……インドラ。その歌に出てくる花は、月光華のことか?」
「その通りでございます。カーンダヴァの民にとって、馴染み深い花でございます」
「月光華、か
……」
彼は少しだけ目を開け、窓の外の闇をじっと見つめた。
「
……いつか、咲いているところを見てみたいな」
そのあまりにささやかな願い。
この塔から一生出ることを許されない彼が、外の世界の小さな花を見たいと願う。
その事実が私の心をどうしようもなく締め付けた。
「
……はい。いつか、必ず」
私は叶わぬ約束だと知りながらも、そう答えるしかなかった。
「
……続きがあるのだろう?」
「はい」
「
……歌え。私が眠るまで」
「眠れ、眠れ
小さな花よ
冷たい風が吹く夜も
……」
私は再び歌い始めた。
彼の寝息が規則正しくなるまで。
「明日はきっと良い日になるよ
今は静かにおやすみ
……」
歌い終える頃には、彼は完全に深い眠りに落ちていた。
その無防備で穏やかな寝顔を見つめながら、私はそっと彼の肩に毛布を掛け直した。
(
……もう少し、練習しておかねばな)
明日も明後日も、このお方が穏やかな眠りにつけるように。
私は心の中で、こっそりと歌の練習を始めることを決意するのだった。
この塔の中の静かな日々が、いつまでも続くことを祈りながら。
タイトル【眠れ小さな花】
作詞 Gemini3.1pro
作曲・歌 SUNO v5.5
眠れ 眠れ
小さな花よ
冷たい風が 吹く夜も
硬い岩の その陰で
静かに 根を張り 眠りなさい
月が 空から 見ているよ
銀の光で 包んでる
明日も きっと 花咲くように
今は 静かに おやすみ
眠れ 眠れ
小さな花よ
冷たい風が 吹く夜も
硬い岩の その陰で
静かに 根を張り 眠りなさい
星が 空から 見ているよ
銀の光は どこまでも
明日は きっと 良い日になるよ
今は 静かに おやすみ
眠れ 眠れ
小さな花よ
冷たい風が 吹く夜も
硬い岩の その陰で
静かに 根を張り 眠りなさい
月が 空から 見ているよ
銀の光で 包んでる
明日も きっと 花咲くように
今は 静かに おやすみ
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