望月 鏡翠
2026-05-29 12:39:02
872文字
Public 日課
 

#2099 萬木3

#毎日最低800文字のSSを書く/とわの道行ついの国まで


 客の姿を見回す。以前に出会った客と再会できることはほとんどない。あればかなり幸運だ。
 最近気がついたが、よくこの酒場にいるのを見かける人間は大抵がやばいやつだ。人間ではない可能性がかなり高い。それは望んだ夢を狙った通りのタイミングで見るに等しい行為で、人外の領域に足を踏み込んでいる。
 例えば、最初に出会った魔女。ただの肌の黒い女に見えたが、あれは恐ろしいものだ。実際、とても長く生きている大妖怪か仙人か、あるいは神に片足を突っ込んでいるのだろう。
 それでもこの店にいる間は無害だから、こちらから手を出さなければ、危害を加えられることはない。
 そしてそれを知っているということは、一度萬木は彼女に痛い目に遭わされたということだ。旅を始めた最初の頃だ。結果として旅の心得を聞かざるを得ない状態で教えてもらえたのは助かったのだが、命があるのは店が揉め事を禁じていて、彼女が面倒ごとを嫌ったからに他ならない。
 今だに体が恐怖を覚えているので、店で見かけると体が反応してしまう。
 今日はその姿は店内に見えなかったので安堵した。
 一人一人に声をかけるのが面倒なので、手を挙げて声を上げる。
「取引がしたいんだが、匠があるやつは今日来てるか?」
 客はいきなり大声を出した客を、うるさそうに一瞥しテーブルに視線を戻した。自分のテーブルや椅子に取引したい品物をかけておけば、興味があるか仕事をしたい人間が話しかけてくる。
 待っている間に、料理が出てきた。
 串焼きは鶏肉だろう。旨みが濃い。雉肉だろうか。脂身が香ばしくパリパリと焼けている。汁物は魚の味がした。時間を合わせるようにして、酒も出てくる。
 旅の中にいると、椅子に座って食事をできるというだけでもありがたい。
 食事が終わるのを待っていたように、テーブルの対面の置かれていた椅子に旅人が座った。
「何の匠が必要だ」
「火薬を探している。あとは刃物の研ぎを頼みたい」
「火薬か……何に使うんだ」
「これの矢だな」
 萬木は、荷物の中で特に厳重に包んである荷物を手に取った。