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らぎ
2026-05-28 23:17:44
1410文字
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その他
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タカくく習作
皆の前だと久々知くんで二人だと兵助くんなあたりがこだわり
「久々知くん
……
!」
朝靄に紛れて忍務から帰還した五年生たちを出迎えたのは、花火のような色素の薄い髪を結い上げた歳上の後輩。それは五年生きっての秀才の想い人でもあり、しかし今は会いたくなかった人物でもあった。兵助の予感通り、その柔らかい表情は前にいた勘右衛門、雷蔵、三郎と視線を移して八左ヱ門の陰に隠れるように立つ兵助を見た途端に凍りついてしまう。だから会いたくなかったのに、と兵助は半ば八つ当たりのように掌を握りしめた。
「その、髪」
普段の朗らかさは形を潜め、微かに震えてさえいる声が指すのは兵助の頭巾の下、散切りになった黒髪。
「ちょっと、仕損じてしまって」
笑って誤魔化したい所だったが、忍たまたちの命と同じくらいその髪も大事にしているタカ丸に対してすることではない気がして、兵助は俯く。我ながら微妙な顔をしている自覚はあったが、取り繕う余裕はどうやら髪と一緒に落としてきてしまったらしかった。
「兵助」
気まずい沈黙の中、静かな声に呼ばれて兵助が顔を上げると、隣の八左ヱ門に軽く背を押された。
「髪、タカ丸さんに整えてもらったらどうだ」
「報告は俺らでやっておくからさ」
同輩たちに口々に促され、重たい足を一歩踏み出す。タカ丸にそっと取られた手からは、いつもより少し低い体温が伝わってきた。
「
……
怒ってますか」
「うぅん、怒ってはいるけど
……
それは兵助くんに対してじゃなくて」
灯をつける必要はない程度には明るく、しかしまだ陽の上り切らない長屋の一室。切り落とした髪が懐紙に落ちる微かな音と、いつもよりゆっくりとした鋏の音が交互に響く。
「俺、不甲斐無いなって
……
」
「え、何故」
兵助が思わず聞き返すと、タカ丸はゔーんと煮え切らない声を上げた。
「だってさ、兵助くんが無事ならそれでいいんだ、って言い切れるほど腹括れてもないし、じゃあ俺が兵助くんを守るって言えるほど強いわけでもないし
……
」
たまごとは言え忍として生きる以上、髪と言わず常に命の危険はついて回る。タカ丸の悩みは、大なり小なり忍たま達の誰もが持つものであった。勿論、兵助も。
「それは
……
多分、どちらかに割り切れる悩みじゃないと思います。その時々で、折り合いをつけるしかないんじゃないかな」
「うーん、そういうものかぁ」
できたよと声がして、幾分か軽くなった兵助の頭を広い掌が撫でていく。鋏や櫛を箱に戻す聞き慣れた音がしたかと思うと、タカ丸の存外逞しい両手が目の前に回る。背後から抱きしめられたのだと理解したと同時にふわりと薫った優しい香を胸に吸い込んで兵助はようやく、自分がずっと緊張していたらしい事に気がついた。
「俺はさ、」
「うん?」
その腕に兵助を抱いたまま、タカ丸は訥々と言葉を紡ぐ。
「俺はたぶん、兵助くんの隣に立つことはできないけど
……
せめて、きみの帰る場所になれたらって思うよ」
緊張のほどけた身体に沁み入る体温と、波のような優しい声は兵助の意識までも微睡の海にさらっていきそうだったが、ぐっと掌に爪を立てて耐えた。忍務の報告を同輩に任せた挙句、タカ丸の部屋で寝落ちて自室まで運ばせた
……
では流石に情けなさすぎるし、それにまだ、この歳上の後輩に伝えたい事があった。
「タカ丸さん」
「はぁい」
──何ひとつ、確かな約束はできなくとも。
「俺は、あなたが思っているよりあなたの事好きだよ」
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