河童の皿箱
2026-05-28 22:24:07
1025文字
Public 遊戯王:短め(2026年)
 

芽吹きの時期の

ニニが水門の水を追いかけるだけ

 桜の木々が緑に隠れ、青々に影がくっきりと落ちる頃。今年も良き舞を奉納できたと、子らが散り散りになるそのさなか。青き髪の子もまた、散り散りの先へと足を向けた。
 もうすっかり暖かくなった里には色とりどりの花々が満ち満ちに咲き誇り、その間に体を押し込める男たちが、水路に溜まった泥やれなんやれを掘り出している。猫車にたっぷりと乗せられた肥沃な泥には、小さな羽虫が群がっていて。あぁ、良い肥料になる。だからこれは畑に撒くんだよと、そう父は教えてくれた。子はまた、ずいと山を登り続ける。
 里中が、春を待ち侘びていた。田畑を耕し、水路を片付け、苗を育てて、肥やしを集める。はるか昔からの繰り返しのその1つとして、子らは舞った。豊穣の祈りを、神々に届けるために。
 ずいずい登る山の道。大きな石をどかしては、倒れた木を切っては。さてたどり着いた大池と、大きな大きな水門と。父の姿はそこにあり。掛け声合わせてエンヤコラと唱えりゃ、大水門からドッパリと、溶けた雪崩が流れ出た。河に流れ込めば、大きく渦が巻く。たっぷりと注がれ、高くなった水位が水門に達すれば、男らがそれぞれを開いていく。
 ひとつ、水路を追いかける。すいすい枯れ葉のくだり流れは濁り、けれど立ち止まれば清らかに。でもでも追いかけ、追いかけて。
 田畑にさあと流れ込む。濁りもまた清らかなりと。水が来たぞと早速に、苗を1つ、また1つと植えていく。
 子はさらにくだる、くだる。里中に水が巡り廻っていく。あっちの家にも、こっちの家にも。水路をぐるり、囲い込んだら、もっと下の畑へと。先頭の木の葉を見失っても、まだまだ。まだまだ。

 最後にたどり着いた合流地点。あちこちの水路から、旅をしてきた濁りはまた山の下まで下る川に注がれて、あぁ、きっと遠くへ行くのだろう。茶に染まり、草木がこぼれ、小川の魚がぴょんと跳ねる。山の上から降って来たそれに潜り込んでは、口をパクパクとさせている。ぼうっと眺めていれば、すっかり散った花筏の終端で。もう河はいつも通りに、透明で、さらさらに戻っていた。

 さあ、今年もまた、忙しくなる。里のそれももちろんの事。川を遡るかのお祭りに、親友を連れて、里の外で暮らすあの子に会いに行こう。きっと、元気にしているはずだ。
 今はまだ、雨の濁りがあるかもしれないけれど。それでもきっと、またいつか。この里を巡る水を、広がる田畑を、あの子が好きになってくれたらいいな。