手を引かれ、潜ればからり、鐘が鳴る。ふわり広がる小麦の焼ける匂いに、こぽりと蒸されたコーヒー豆に。何名様ですかと問われ、4人と答えれば、広いテーブル席に案内され、そこにちょこり、ちょこちょこり。3人の小さな能楽師たちは肩を並べて座った。
絵師もまた、その正面に相対し、座る。3人がメニュー表を覗いてうんうん唸る中、絵師はモーニングセットをひとつと、それだけだと腹が減ってしまうから、他に何を頼もうかと。
「ねえ」。ぼんやり顔が問いかけた。絵師が顔を上げれば、メニューのひとつを指さした。たっぷりたまごのサンドイッチ。「これ、食べたい。ちょっと多いから、半分こしたいの」と。すると、今度はしゃっきり顔も「あ、ずるい。わたしも!」と指さした。こだわりのふわふわプリンアラモード。「それも半分こするのか?」と問いかければ、照れ臭そうに首を横に振った。「大丈夫、食べきれるから」と。絵師はふっと微笑んでは、最後の小さなおこりんぼにも問いかけた。「お前も、何か追加で頼むか?」と。ジトッと睨む不機嫌顔は、ちょっぴり視線を外しては、おずおず指さした。「モーニング、カレーにしたい。コーヒーはつけて」と。なるほど、今日はがっつり行きたい日か。絵師はまた小さく頷いては、ひとまずの注文を店員に伝えた。
じっと待つ、早朝5時。外はまだ暗く、けれど果てからは陽が昇りつつあり。薄く明け始めた空の下、もうこんな時間からせわしない人々も居る。ホテルに備え付けられたこのチェーン店は、旅先で度々に入り、こうして朝食の世話になっている。朝早くからやっていると言えども、ここまで早起きするやつも珍しく。がらんどうの店内には、自分たちと、まだ少し寝ぼけ顔の店員たち。厨房から聞こえたチーンという音に、能楽師たちは一度振り向いては、むっつり顔はつかない足をパタパタさせた。
ほどなくして、コーヒーが運ばれてきた。白いカップを手に取って、口元に寄せれば、なんとも芳醇な香り。絵師が一口つけてみればあぁ、グッとくる苦みに目が覚める。朝はこれが効くのだと、口の中で少しばかり転がして飲み込んだ。むっつり顔はふう、ふうと。少し、熱かったらしい。その横ではぼんやり顔が、砂糖をぽちょり。もひとつぽちょり。もうひとり、にっこり顔は生クリームをとろり。くるくる混ぜれば、黒は白に僅かに染まって。やっと少しのめたむっつり顔は、ぐっと顔をしかめては、ぼんやりとにっこりは砂糖とミルクのポットを差し出した。そっと隠すようにわきへと引き寄せて、ひっそりぽちょり、ひっそりとろり。なんて。誰もがそれに何かを言うわけではなかったが、緩む口元を隠さねばならなかった。
それからまた、ほどなくして。トーストにパンケーキにサンドイッチ、ウィンナーに目玉焼きにサラダにカレー。そして仕上げにプリン。モーニングセットが食卓に並べられ、皆で手を合わせた。
「いただきます」。
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