河童の皿箱
2026-05-28 22:17:09
1465文字
Public 遊戯王:短め(2026年)
 

蜘蛛の意図

ワールド・ワイド・ウェブで見かける虫の群体について

 チカチカと、サーバールームの明滅の奥。電子と数字に表されたるアバターたちが、これまた仮初、見掛け倒しの間と間を行ったり来たり。中空のネオンが照らしては、ぎっちり詰まったその通り。話題は実に、実に多かった。
 例えば、今日の朝刊の見出し。どこかの街である組織によってテロが発生。街は壊滅的な被害を受けた。けれど、救急出動した救助部隊の尽力によって、既に鎮火されているだとか。
 例えば、あの有名な配信者のタッグのこと。最近ひとりでずっと配信しているけれど、片割れの赤いのは一体どこに行ったんだろうとか。喧嘩とか方向性の違いじゃない? とか。
 例えば、裏路地のミュータント警察のお手柄。例えば、ちょっとだけ時計が後ろに進んだこと。例えば。例えば。例えば。
 人々は実に、たくさんの表題を立てては、議論し、詰り合い、暴言を交わした。それはある意味、ネタとしての受容、或いは唯の拒絶でもあり。

 ネオンの影に、小さな影、無数。それはまるで虫の群れのようであった。大して作り込まれたわけでもない、ローポリの虫の群れ。路地裏の汚物に集い、うろつく人ならざる者に集い、跡形もなく綺麗に平らげては、そして次へと。人々はそんな様子に、眉ひとつすら動かさず。
 ネット上のスカベンジャー。或いはデフラグのためのbot。群れであることから或いはスウォームと呼ばれるそれは、見てくれこそ蜘蛛のようで気色が悪いが、けれどもあちこちをよく掃除し、円滑な通信を支援している益虫であると人々は認識していた。それをひとつひとつ、追いかけて回す暇人も、居るには居たり。
 スウォームの制作者、或いは出所は不明である。とっ捕まえて解析しようとしたが、まるで技術が及ばないのだ。捕まえることだけはできた。だが中身をバラすことはできなかった。一応、1つの群体で1つのユーザーとしては認められているようだが、かといって管理者権限によって許可されているわけでもない。けれどこれを駆除しまうと処理が重くなる。まるで、黎明期に発生した電子光虫のようで。
 けれど、自然発生したそれらとこのスウォームは違った。明らかに何ものかが作ったものであると、それだけはわかっていた。

 電子光虫の機能を模倣した何か。結局、発生の原因もわからなかった虫たちに、似た何か。今のところそれは不要なデータを平らげては、時折に蜘蛛らしく糸を紡ぐ。ただそれだけの、居るとちょっとだけ良い物。
 べつにそれならそれでいいと。人々は最早慣れっこで、空虚な探索botを食らう虫の群れを、見て見ぬふりした。



 その正体を知る、ひとりを除いては。



 世界規模に張り巡らされた蜘蛛の巣の上。人々は糸の上に議題と議論を乗せては、我が物顔で闊歩する。不要な獲物は削除し、必要な情報を拾い上げては、ビッグデータを蓄積させていく。
 それは人々の噂話であり。それはbotの機能であり。それは打ち捨てられた技術でありそして、暗号でもある。黒い手袋はそれを、ひとつ拾い上げては、またひとつ。
 近いうちに、またテロが起きる。予告状だ。これはあのミュータントたちに提供しよう。コンプライアンスから零れ落ちた秘密、企業の奥深くに封じられた禁忌。これは交渉材料として役に立つだろうか。いや、むしろあっちに売った方が高値になるか。アンダーグラウンドを彷徨うアリスたち。あれはまだ、泳がせておこう。その方が役に立つ。

 蜘蛛の巣の上、黒き母蜘蛛は糸を手繰った。全ては、そう。我らと友が、生き残るために。