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雨鶴
2026-05-28 21:51:37
1857文字
Public
小話
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狐の窓(不穏ver)
お題話没ネタ昇華小話③です。
長次が一年生の頃である。
「『狐の窓』と云う術印があってな」
そう教えてくれたのは、当時六年生の図書委員長だった。
「あやかし、物の怪、現し世と隠り世、それらを見極められる物だ。昔から狐狸の類いは化かすと云うから覚えているが、私は出会ったことがない。いつか会いたいものだが」
──そんな妙な先輩が教えてくれた術印を長次は今、思い出していた。
何故なら、現在進行形で化かされているからだ。
「
……
」
「迎えにきた!一緒に帰ろう!」
目の前に『一年生の頃の小平太』が居る。この時点で化生の類いだと分かった。
「早く早く」と、実際の小平太さながら慌ただしい。くるりと背を向けている人物へ教わった『窓』を長次は作って指の隙間を覗く。すると、そこに見えた姿はコギツネだった。
(狐、か)
術印を解いた長次は唇へ指を掛けて、暫し考え込む仕草を取る。
「どうした?早く行こう」
付いて来る素振りの無い長次に気付いて、戻ってきた小さな手が長次の服の裾を引っ張って、深い森の奥へ誘おうとする。
(困ったな)
明から様な山賊ならば問答無用で退治するのだが、こういった物の怪は悪意と云うより悪戯心が強いから質が悪い。
──何よりも。
(少し面白そうだ)
長次の好奇心の虫が疼いて仕方がない。
「
…
ああ」
長次が小平太の手を繋ぐと、少し驚いた顔をしたが直ぐに笑って森へ入って行った。
小さな小平太モドキに連れて来られてやって来たのは、不思議な事に【忍術学園】だった。
(これもマヤカシの類いなんだろうか)
ある意味すごいな、と長次は感心する。
そっと術印を組んで覗けば、其処は廃寺の様だ。
さすがに小松田さんは居ないが、門扉をくぐると出迎えてくれたのは、これまた一年生の姿の同級生。
「
…
もそ」
よくまあ、集めたものである。もしかしたら物の怪は、化かす相手の懐かしいと思う部分を見透かすのだろうか。
長屋の濡れ縁に腰掛ければ、伊作の姿を模したモノが茶と菓子を持ってきた。
「疲れたでしょう」
「
…
まあ、そうでもない。お前達と鍛え方が違うから」
「さあ食べて」
勧めてくるが、物の怪が勧める物ほど恐ろしい物はない。良くて馬糞。悪ければ怪異の仲間入りである。
「いや、腹は減っていない。それより
…
」
長次が懐に手を差し入れれば、ビクッと警戒した様な顔つきを五人はして見せる。
「良かったら
…
食べるか?」
取り出した包みを広げた、長次の手の中を覗きこんで顔付きがパアッと明るく変わった。
「軟落雁だ!」
「私、これ好き」
「オレも!」
「横取りするなよ!」
わあわあと長次が広げた包みの上から、小さな手が伸びて取ってゆく。
「
……
」
夢中で食べる同級達の姿を模したモノ達にも、長次は『窓』を作って覗くとやはり其処に居たのはコギツネ達だった。
(
…
兄弟なのか?親は居ないのだろうか)
どれくらい、その場所に居たのだろう。
物の怪と分かっていても、昔日の同級生たちと語るのが心地好すぎた。
しかし、これ以上長居する訳にはいかないと長次は帰り支度を始めた。
するとコギツネ達が悲しげな顔をしながら、聞いてくる。
「帰るのか?」
「
…
私には私の場所があるから」
「そうか、仕方がない」
「また会えるかな」
「
…
悪さをしなければ」
「じゃあ約束する!」
「その時はまた、軟落雁持ってきて」
小さな者達に見送られ、長次は門を後にした。
何処をどう歩いたのだろう。気が付けば学園の前だった。
「不思議な体験をしたな
…
」
そう呟き、長次は学園の門扉をくぐった。
「──
…
そうして五人の主様方は、その人間を大層気に入ってしまい、次に訪れた時に人間を妖気を紡いだ《迷い家》へ閉じ込めてしまわれたとさ」
尾が二本ある古狐は、小さな狐達へ語り聞かせる。
「ねえ、とと様。私も、そのお菓子食べてみたい」
「オレも!人間に頼んだら作ってくれる?」
「そうだなあ
…
人間はずうっと。年も取らずに夢を視ておられるからなあ」
「じゃあもう、食べられないの?」
しょんぼりするコギツネ達に古狐は。
「春になると主様方が妖気を紡ぎ直しなさるから、人間も起きる。その時に菓子が食えるよ」
そう、言って高く高く続く山の上に作られた【忍者学園】と書かれた建物に顔を向けたのだった。
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例のお題話の没ネタ昇華小話です。
『狐の窓』ネタだけで3本あります。これの没理由は『終わりが不穏』と云うこと。
普通に書くんならいいんですけどね。
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