三毛田
2026-05-28 21:23:48
1079文字
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71 【71/さよならなんて言わせない】

71日目
絶対に言わせない

「俺はここまでだ」
「なに、言ってるんだよ。丹恒」
 さまざまな土産話を手に、久しぶりに羅浮へ立ち寄り。二人で鱗淵境を歩いていたら、とある卵の前で丹恒は立ち止まり。
「もう、ギリギリだった。白露の処方してくれた薬がなければ、ここまでもたなかった。俺はとっくに脱鱗しなければいけなかったんだ」
「でも、だからって」
「ここでさよならだ、穹。愛していた」
「丹恒!」
 飲月の姿になり、微笑みながら俺を突き飛ばす。
 手を伸ばすけれど、景元に止められて。
「丹恒!」
 飛び起きる。
 つまり、さっきまでは夢。
 心臓が早鐘を打つ。
 痛い。
 それに、とても怖くてシーツをぎゅっと握る。
 無事かどうかを確かめたくて今から丹恒に会いに行きたいのに、動けない。
「穹」
「たんこぉ」
 列車にいなかったらどうしよう。そう思っていたら、声をかけられて。
 涙声で、名前を呼ぶ。
「どうした」
 顔を見たら安心して、ボロボロと涙が零れ落ち。止まらない。
 それを見て、彼は焦ったようにこちらへ来て抱きしめてくれる。
「丹恒、丹恒……
「大丈夫だ。俺は今、お前の前にいる」
 丹恒のぬくもりに触れ、優しく抱きしめられ、頭を撫でられて。
 今ってとても贅沢な状態なのに、ゆっくりとそれを享受する暇はなく。
「それで?」
 濡れタオルで目元を冷やしつつ、先ほどまで見ていた夢の内容をぽつぽつと告げると。
「いつか訪れるかもしれない未来だが、それは今じゃない」
「やだぁ」
 しゃくりを上げて泣き出した俺を、丹恒は心配そうに見つめてくる。
 濡れタオル? とっくにベッドの上です。
「さよならはやだぁ」
 丹恒にしがみついて、胸に顔を擦りつける。涙で服がぐしょぐしょになっているのに、頭から背中にかけてそっと撫でてくれる。
 そういうことするから、俺は調子に乗るんです。
「もし、お前が見た夢の通りのことが起きるとしても、事前に伝える。約束だ」
 だから、泣き止んでくれ。
 丹恒の声の方が、悲痛だ。
 だから泣き止もうとするけれど、鼻水は止まらないし、胸は苦しいし。
「落ち着け。ゆっくり吸え。そして、ゆっくり吐け。そうだ。いい子だ、穹」
 丹恒の胸に顔を寄せたまま、ゆっくり深呼吸。
 速くて苦しかった呼吸だけど、言われたとおりにやったら楽になってきて。
「丹恒はすごい」
「そうか?」
「うん。今、すごい楽。鼻の奥は痛いけど」
「泣きながら鼻をすすっていたからな。ほら、鼻をかめ」
 ティッシュを渡され、それで鼻をかむ。
「俺はお前が大切だ」
「うん知ってる」