meru2408
2026-05-28 20:56:38
13473文字
Public モンギル
 

クラベル(クラウド×ベルナ)

貴女の心と体はもう既に、



ーーーーーーーー
side:とある青年:ジーン


「こんにちはー!」
「はい、ようこそ!モンスターギラーズ、ニシキヘビへ!」

とある建物の中へ入ると、早速掲示板でお目当ての人を見つけた。………やっぱり彼女は綺麗だなぁ。

「あの……こんにちは」
「ん……あら?こんにちは。どこかで会ったかしら?」

そう返事をした彼女はベルナという名前である。名前も可愛いなんて本当にこの人は天使だ。

「こないだお世話になったジーンです!本当にありがとうございました!」
……ああ!あの時の!よく私を覚えてたわね?」

だって、僕は貴女に……一目惚れをしたんだから。でもそんなことをまだ会って間もない人に話しても怖がられるだけだ。
あと緊張もするし。

「モンスターと戦ってる時、かっこよかったからですかね?」

取ってつけたような返答だったが、間違ってはいない。現に今のベルナさんはしっかり腰に武器を携えているんだから。

「まぁ……そんなこと言ったって何も出ないわよ」

そんなことを言ってもふふんと嬉しそうにするベルナさん。そんな顔も可愛いなぁ。

「今から依頼をこなしに行くんですか?」
「ええ。今日は5件くらいあるかしらね」
「えっ5件も?!」
「そうよ。……もちろん一人でじゃないわ。ちゃんと連れがいるわよ」

僕の表情を見て取ったのか、付け加えられる。

「そっかぁ良かったです!やっぱり一人だと危ないですから」
「もうそんなこと言ってたらキリがないわよ?私だって一人前の冒険者なんだから」
「確かに……そうですね」

あの時の戦いぶりは凄まじかった。燃え滾る炎のように軽やかに敵をなぎ倒していくその姿は圧巻だった。

「あ……もう行かなきゃ。じゃ、また!」
「はい!お気をつけて!」

ベルナさんは何かに気が付いたかのように遠くに目をやり、挨拶して颯爽と行ってしまった。



ーーーーーーーー


ベルナさんと再会したのはそれから3日後だった。村の宿屋の前で誰かを待っている様子だった。

「あっ……ベルナさん?」
「あら?……えっと、ジーン?」
「名前覚えててくれたんですか?!」

嬉しくてつい声が大きくなってしまった。まさかベルナさんに名前を呼んでもらえる日が来るなんて

まぁこの間会ったばかりだしね」
「いやまぁそれは確かに」

二人して吹き出した。こんな幸せな空間、邪魔されたくはない。

「ベルナさんは?どうしてここで立っているんですか?」

思わず聞いてしまった。しまったな、そんな愚直に聞いたら怪しまれるかもしれないのに。そう思ったけど当の本人は気にした様子もなく、

「待ち合わせよ。ここで人を待ってるの。……ったくあいつ、どんだけもたもたしてるのよ……
……そうなんですか

そういえばこの前ニシキヘビに行って話した時も「連れ」がいるって話してたな
その連れっていうのは……誰のことなんだろう。

「貴方は?もしかしてここのお客さんってとこ?」
「あ、ああそうなんです。しばらく村に滞在するのでこの宿をお借りしようかと」
「ふーんそうなのね」

そう言って、遠くをちらちらと見ている。その連れが遅れていることにイライラしている様子だ。

「その……ベルナさん?」
「ん、何?」

意を決して頭で考えているプランを実行する。

「あの……出来ればでいいんです!もし、空いてる日があったら……お食事に行きませんか?その、こないだのお礼として」
………え?」

僕の言葉に遠くを見ていた目がこっちを見つめる。……ちょっとドキドキする。

「無理にとは言いません。ですが……お礼はしたくてですね……その……

考えているプランが早々に瓦解しそうだ。緊張してどもってしまう僕はどんどん声が小さくなってしまう。

………いいわよ」
「やっぱりダメですよね………え?ん?なんて?」
「いいって言ってるの。ちょっとの間だったらね」
「いいんですか?!」
「ちょ、声大きいわよ」

なんと!!!!まさかのOKを貰えた!!これほどまでに嬉しいことはない!!!いやあるけど。

「んで?いつにするの?」
「あ、………じゃあ、」

二人で食事の予定を決める。その時間がなんと愛おしい時間であるか。

「ん、じゃあその時にね」
「ありがとうございます!!本当に!!」
「大げさねぇ

そう言って僕たちは別れた。ああ、なんていい日なんだ!


ーーーーーーーー


そして数日後。

「あっベルナさん!」
「ジーン、来たのね」

待ち合わせ場所に行くともうベルナさんは待っていた。

「ごめんなさいちょっと遅くなってしまって」
「全然大丈夫よ。さ、行きましょ」
「はい!」

さっと歩き出すベルナさんはいつもハキハキとしていてちょっと戸惑ってしまうこともある。……僕が一応リードしたかったんだけど、人の前を歩くタイプなんだろう。現に今もベルナさんが前を歩いて僕が後ろをついていくみたいな感じになっている。

「ベルナさんはその、人混みは苦手ですか?」

歩きながらそう問いかける。

「うーん……別に苦手ではないけど……気にはなるわね」

そう言いながらしきりに周りを見ている。……何が気になるんだろう。

「じゃあ、そんなに人通りが多くない店に行きましょうか?」
「え、あー……うん、そうね。その方がいいかも」
「分かりました!」

僕が考えていたプランを変更し、別の店に向かう足を進める。そうして歩いているうちに目的の店に着いた。

「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「はい!二人です!」

二人という言葉に嬉しくなる。店の中もほとんど人がいないし、これは……二人きりって捉えた方がいいのでは

「こちらへどうぞ!」

店員さんに案内され、座席につく。

「ふぅ……

ベルナさんがため息を漏らす。どうしたのかな。

「疲れましたか?結構歩きましたもんね」
「ん……いや、ちょっと警戒してただけよ。ただの気疲れ」
「え、警戒?」

警戒って。何かに追われてるとか?ここは店の中だしモンスターだっていないはず

「んで、何食べるの?」
「あぁ、えっと

さっそくメニューを開き、食べるものを注文する。

「あー私結構食べるタイプなのよね。大丈夫かしら?」
「え?全然いいですよ!食べるの、好きなんですね」
「私は基本的に好き嫌いがあんまりないのよ。あるのはあっち」
「あっち?」

あっち?とは。もしかして”連れ”のことを言っているのだろうか。
注文が終わり、しばらく二人で待つ。

「あー……、私の連れよ。あいつ好き嫌い結構あるの」
「連れ……

やっぱりその”連れ”っていう人がいるんだ……それも好き嫌いとかを知っている仲で。

連れっていうのは……どんな人なんですか?」

当たり障りのないように質問をする。あまり根掘り葉掘り聞いてたら怪しまれる。

「結構おっちょこちょいでだらしがない人よ。モンスターが好きすぎる性格だけど」
「なるほど……楽しそうな方なんですね!」
……あいつのことを楽しそうって思うのはジーンだけよ……

ちょっとげっそりした顔で言われると、なんだか大変そうな人だなあとも思ってしまった。

「お待たせしました~」

料理が来た。

「ん、美味しそう
「いただきます!」

二人で料理を食べていく。その間ベルナさんは幸せそうにしながらパンや野菜を食んでいた。……とても可愛い。

「あの……、」
「ん?」
「その連れっていうのは……女の人ですか?」

この前から常々気になっていた。その”連れ”という人はどういう人物なのか。男なのか女なのか。そこがとても気になって聞いてしまった。

………
………

しばらく沈黙。

………男よ」
……………

ああやっぱり。薄々感づいてはいた。その人のことを話すたびに「あいつ」だとか「あのバカ」とか言ってたな……

「名前は……?」
……クラウド」
「クラウド……

名前を聞いてどうするのか。さすがにここまで聞いてしまったら警戒されるだろうか。

……性格はお調子者よ。それもドが付くぐらい」
「お、お調子者って

さっきからベルナさんはそのクラウドという連れのことをけなしているように思えるんだけど

「でもいいところもあるんじゃないですか?優しかったり、気遣いとか見せてくれたりはしませんか?」

そこまで言って、なんだか急に落ち込んでしまう。……知らない男の事情を知って僕はどうするんだろう。

……まぁそこそこ優しいわよ。気遣いもまあ、する時はするし」
そうなんですね、いいじゃないですか!」

努めて明るく振る舞う。じゃないと表情で訝しんだりされるとちょっと困るから。

まぁ、いいのかしらね」

そうぽつりとつぶやくベルナさんは窓の外をぼんやりと眺めている。既に食事は終わっていた。早。
その表情は穏やかだったが、そこに僕の知らない感情があるのを感じて、……そっとその顔から視線を外した。


ーーーーーーーー


宿屋の前にて。

「今日はありがとう、ご馳走になったわ」
「いいえ!お礼ですから!こちらこそありがとうですよ!」
「ほんとに大げさね。これじゃあどっちがお礼してるのか分からないくらいね」

二人してまた笑いあう。ああ、こういう時がずーっと続けばいいのにな……

「じゃあ……もし、宿の中で会うことがあったら、また声かけてもいいですか?」
いいわよ。……大方連れと一緒にいるから、そいつがうるさいけど。それでもいいなら」
「あ……そうですよね!大丈夫ですよ!では……また!」
「ええ、また会えたらよろしくね」

そういって僕たちは別れた。ふぅ………心地いい疲れが残っている。
ベルナさんの”連れ”、か……名前はクラウドって言ってたな…………
しかも今一緒にいることが多いって言ってなかったか?……どんな関係なんだろう。なんだかぞわりとして体が身震いした。

「あてっ」
「わっ、」

考え事をしながら前を見ずに歩いていたらしい。前から来た男と肩がぶつかってしまった。

「悪い、大丈夫か?」
「あっ、大丈夫です!こちらこそすみません!」

そう言ってその男を見やる。黒髪に黒い服を着て背中には弓を背負っている。僕と同じくらいの背丈かな。
さも心配した様子でこちらを見ていたが、

「とりあえず大丈夫そうで良かった。でも気を付けてな!」
「はい!ありがとうございます!」

にこやかに言われ、颯爽と宿の中へ入っていった。


ーーーーーーーー


ベルナさんと会ったのはそれからまた4日後。
とある部屋の前で誰かと話をしている。………ん?あの人は確か……

「ベルナさん……?」
「あっえ、ジーン?!」
……知ってる人なのか?」

声をかけるとびっくりしたように体を跳ねさせ、こちらを振り向いた。ベルナさんの側にいる男も振り向く。

「別に……こないだ用事の時に助けた人よ」
「へぇ……

……なんだかちょっと不穏な空気である。側の男はこの前の僕の顔をよく見ていなかったのか不思議そうな顔をしている。
まあ外がちょっと暗くなってたし、分からないのも無理はないかも。

「ベルナさん……あの、その人は?」
「ああ………この前言ってた、連れよ」
「なんだ連れって。俺はお前のこ、むぐっ」

何かを言いかけたその連れの口を押えるベルナさん。何言いかけたんだろう。

「ああ……その人が……

確か名前はクラウド。この人だったのか。ベルナさんと食事に行った帰り、この男とぶつかった。

「ベルナー?こないだの用事ってなんだったんだ?」
「ぐ、ぅ………ただの……道案内よ……
「嘘だね」
……っ、」

その男から怒りのオーラが湧き出ている。あのハキハキとしたベルナさんが縮こまっている。
……そんなに怒らなくても。

「あ、あの……すみません。僕が……その、食事をしたいと我儘を言ったから、ついてきてもらっただけ、なんです……
………

そのクラウドからの無言が怖い。食事の時、ベルナさんはこの人のことおっちょこちょいとかお調子者とか言ってなかった?
全然そんな雰囲気ではないように見えるんだけど。

「ふーん……そっかぁ……ベルナは俺に嘘ついたってわけなんだな?」
「ちっ、ちがっ、ぁっ」

ベルナさんの手首をがしりと捕まえるその男。あまりにもベルナさんが可哀想なので口を挟んでしまった。

……クラウドさん、ベルナさんが嫌がってますよ。離してあげてください」
「お前は本当に嫌がってるように見えるのか?」
……っ、」

人を射る目とはまさにこういうことである。無表情なその顔は何を考えているか分からない。……この人、本当にお調子者なんですか、ベルナさん。

もう!クラウドは心配性すぎる!なんでそんなに怒るのよ!」
「何って………ベルナが浮気したから?」
「浮気じゃない!ご飯食べに行っただけ!お礼として!」
……え、うわき?」

たまらずベルナさんが声を張り上げる。……というか浮気って。

「あの、ベルナさん……その人とは……何の関係で……?」
……幼馴染よ」
「+恋人かな」
「ちょっと!そんな人前でペラペラ喋らないでくれる?」

幼馴染。恋人。………浮気。それらを反芻する。

「浮気した悪い子にはお仕置きが必要だからなー?じゃあ部屋の中に入るか」
「ちょ、まっ、あ!ええとジーン?その、こいつただ寂しがり屋なだけだから!!気にしなくていいわ!……こらちょっと!」

あれよあれよという間にベルナさんとその幼馴染+恋人であろう男は一緒に同じ部屋に入っていった。
……気にしなくていいってどう気にしないようにすればいいんだろう。


ーーーーーーーー


数日後の夜。


幼馴染の上に恋人同士。僕は一体何をしていたんだろう。ベルナさんにはちゃんとパートナーがいたのに、僕は何も知らないまま……食事に誘って。
でもベルナさんはいいよって言ってくれた。それだけで嬉しかった。……でも今は。
そんなことを食堂でご飯を食べながら考える。今の時間はもうみんな部屋に入っている人がほとんどで、食堂は僕一人だった。

「はぁ………

一人でため息をついていると、「あ、」と小さく声が聞こえた。……この声は。

「ジーン?」
ベルナさん?」
……今の時間こんなところにいるのね?」
……ベルナさんこそ」

なんだか目を合わせづらい。うろうろと視線を彷徨わせていると。

「こないだは悪かったわね……何にも話してなかったし、その、中途半端に終わっちゃったし
「あ、……いえ」

僕のテーブルの反対にベルナさんが座る。………え?

「あ、え?……あの、こ………クラウドさんは?」

恋人って言うのも気が引ける。………本当は僕がなりたかったのに。

「クラウドは今お風呂中。だからついでに私もご飯食べようと思って」

そう言って持ってきたパンを一口齧る。……やっぱり食べるベルナさん、可愛いな
クラウドという男は……ベルナさんのこと……どこまで見てるんだろうか……

「むぐ、ほれおいひいわね」
……はは、ベルナさん何言ってるか分からないですよ」

しばらく無言で食べる。

「そういえばベルナさん、大丈夫でしたか?あの後強引に部屋に引きずり込まれてましたけど……
……別に大丈夫よ。あいつはちょっと……まあ、頭のネジが飛んでるだけだから」

そう言うベルナさんの顔は困った様子、ではなく、……なんだか、しょうがない奴、みたいな、そんな顔だった。

………そんなにクラウドさんのことが、好きなんですね……
「えっ」
「あ……

思わず声に出てしまった。あまりの表情の緩さについ……

「その、すみません、なんていうか……そんな顔をしておられたもので……
………私ってそんなに分かりやすいかしら……

その言葉は肯定ということになるだろう。そう思った僕は、今後、ベルナさんとどう接していいか分からないでいた。
現にクラウドという男があんなに執着心を見せつけてくるのだから。
………ん?

ベルナさん、その首……どうしたんですか?」
「え?」
「首、包帯巻いてますよね?この前は無かったはず……

そういえば下を向きながら話していたのでそんな状態のベルナさんに気が付かなかった。
包帯。……もしかしてあのクラウドとやらに、傷つけられているのでは

……これはちょっと怪我したものよ。そんな顔をしないでちょうだい」
「あ……、怪我、ですか……
「そう。モンスターとか討伐する時にいろんなところ怪我することあるじゃない?それで包帯してるの。ちゃんと診療所には行ってるわ」
そういうことでしたか。安心しました

ただの怪我なのか。幾分ほっとした。ただ話している時にベルナさんがあまり僕を見ないようにして喋っていたのが気にかかるけど。

………また浮気か?」

「うわっ!?」
「ひゃっ!!」

いつの間にか、幼馴染兼恋人の男が側に来ていたので二人とも吃驚仰天である。

「浮気じゃないって言ってるでしょ!お風呂は終わったの!?」
「終わったよ。ベルナ、部屋に戻ろう」
「私はまだご飯食べてるの!………もう!心配ならあんたもここにいれば?」
「えっ」

そんなベルナさんの言葉に驚いたのは僕である。……えぇ……この男も一緒に……

……ふーん?そうだな、じゃあ一緒に食べようかな?」

決定らしい。うぅ……隣から突き刺さる視線が痛い……
椅子を一つ増やし、テーブルに向かい一緒になってご飯を食べる。

「何話してたんだ?」
……あんたのことよ」
「えっ俺?」
「あんたの頭のネジが外れてるって話よ」

ベルナさんの口からそんな言葉が飛び出し、思わずむせるところだった。

「俺そんな頭悪いかなぁ
「いや悪いんじゃなくてネジが外れてるって話ね?」
「ネジが外れてる……ってなんだ?」
………はぁ」

いつもこうやって会話してるんだろうか。さっきのピリついた雰囲気は無くなってベルナさんと話すその男は柔和な顔をしている。……もしかしなくても僕、お邪魔なんだろうか。

「ベルナ、こいつにどこまで話してるんだ?」
「は?」
「俺たちのこと」

急に隣の幼馴染から言われ、固まるベルナさん。……どこまで、って……

……別にそんなに話してないわよ。私にはあんたという連れがいるってだけ」
「連れじゃなくて恋人な?またお仕置きが欲しくなったんだ?」
もう!あんたはお仕置きが好きなのね?」

そんな言葉を交わしながら二人は距離を縮めていっている……特に幼馴染の方から。

……ちょっと、近い」
「別に減るもんじゃないだろ?いつも近いじゃないか」
「人の前なんだから!ちょっとは自制して!」
「むぅ………

不貞腐れたように元の位置に戻る幼馴染。こないだはこの男が優勢になっていたような気がするけどベルナさんもベルナさんで気が強い性格なようで、隣の男をあしらい続けている。

とても仲がいいんですね

ぽつりとそんな言葉が口から出た。あ……しまった。二人がぽかんとこちらを見ている。

まあ、そこそこよ」
「だろ??俺とベルナは昔からの幼馴染だからな!いてっ」
「だっからペラペラ喋るなっての!」

幼馴染。二人にはこういう言葉がよく似合うと思った。確かにこの男は今お調子者になっているかもしれない。その頭を小突くベルナさん。………いいなあ、こういう関係。……僕も、ベルナさんと幼馴染だったらな……

「ふぅ……ごちそうさま。じゃ、おやすみ、ジーン」
「あ……おやすみなさい、ベルナさん」

席を立ち、部屋に戻ろうとする。……が、男は動かなかった。

……クラウド?帰るわよ?」
「んー、ちょっとまだ用事がある」
……なんの」
「こいつと少しお話したいなぁ、なんて」
「え…………、」
………あんたね……、はぁ……ほどほどにしときなさいよ?」
「えっいや、僕もかえっ、」
「じゃあもう少しここでなんか食べようか?」

にこにことこっちを向きながら話す男。僕は冷や汗が止まらなかった。

ジーン?こいつに何言われても気にしなくていいからね?」

そう言ってベルナさんは一人で部屋に帰って行ってしまった。




………
………

終始無言。僕は俯きながらご飯を食べている……が、全然喉を通らない。射るような視線が刺さる。

………あの、僕、なんかしました……?」

恐る恐る尋ねる。

「んー……そうだなぁ……

のんびりとした口調ではあるが、僕はその声が最早地獄の鬼みたいな感じがして身震いしてしまう。

ちょっと警告したくて」
……警告?」

警告とは。もしかして僕の恋心がバレている……とか。いやまさか。でもこないだ食事に誘ったのはあるし、ベルナさんに会うために偶然を装いながら出かけているし。

「お前、ベルナのこと好きなんだろ?」

バレていた。やっぱりこの男は侮れない。人畜無害な顔して自分のパートナーのこととなると暴走するタイプだ多分。

「いや……別にそんなんじゃ、」
「ベルナを見るお前のそういう目。その表情。俺が分からないとでも思ったのか?」
………

何も言えなかった。というより言わせない雰囲気がすごい。男が今どんな顔をしているのか……想像に難くない。

「だから警告しておく。ベルナには関わらないでくれ。……じゃないと俺、何するか分からない」

何するか分からない。そこまでしてベルナさんを守るのか。……そこまで守ろうとする、原動力とは。

……どうしてそこまでするんですか。会って話すくらい、いいじゃないですか。他の人だってベルナさんと話してるんだし」

精一杯の抵抗を持って口に出す。……この男には、負けたくない。

「会って話す、か。お前、この前ベルナとご飯食べたよな?」
………食べましたけど」

次に何を言われるのか。戦々恐々としながら言葉を待つ。

「楽しかったか?」
………
「なあ?聞いてる?」
……楽しかったですよ」

あまりの威圧感にもうここから飛び出して逃げてしまいたくなる。でもそんなことをしたら負け確定なのだ。

「ふーん……

今何を思っているんだろう。

「じゃあ、また約束を取り付けるのか?」
……約束?」
「ご飯食べたり、一緒に出掛けたり。……するのか?」
……したいって言ったら、クラウドさんはどうするんですか」

僕も男である。好きな女の子の側にいたいと思うのは普通のことである。……でも。

「どうするんだろうなぁー?」

また間延びした返事。でも確かに敵意を感じるその声色。

……そんなに独占欲が強いと、嫌われちゃいますよ?ベルナさんに」
……嫌われるのか?俺が?」

まるでそんなことは絶対にありえないという言い方だ。自信満々なその態度。

「ふーん……?じゃあ、俺といるベルナがどうなのか、見てみるか?」
……え?」
「明日の夜、10時頃。部屋は西の廊下の突き当たり。外に出てその部屋がある窓の下で待ってるといいよ」
「な、何を、」

「来るのも来ないのもお前次第だ。じゃ、また明日な?」

そんな約束を取り付けて、男は帰っていってしまった。


ーーーーーーーー


次の日の夜、10時前。


……来てしまった」

なんで来てしまったんだろう。約束なんか放り出して何事もなかったかのようにベルナさんと話をすればいいのに。
でもすごく気になる。ベルナさんは一体どんな感じで、クラウドという男と過ごしているのだろう。
というか、前部屋に強引に連れ込まれている時はわたわたとしていて何も思わなかったのだけど、もしかしなくても、二人は同室なのか……

外から窓の様子を窺う。カーテンは閉められていたが、隙間が空いていてそこから少しだけ中の様子が見える。声もくぐもってはいるが、はっきり聞こえる。
テーブルの側の椅子に座っているベルナさんが見えた。

「うーん……、このモンスターは……闇属性で……、」

テーブルの上で何かをしている。時折、誰かに話しかける様子も見られた。

「クラウド?このモンスターのことなんだけど、」
「んー?ああ、ちょっと待ってな」

至って普通の会話だ。ベルナさんの側に来た男も距離はとても近いが、ただ話をしているだけだった。
しばらくそれを見ていたが、

「っうーん……
「疲れた?」
「うぅん……ちょっとね……

ベルナさんが伸びをして、ペンや紙をテーブルに置いてある鞄にしまう。側の男はベルナさんの背中を撫でている。
……羨ましいな。そう思ったその時、

バキッ。

「あ、」

慌てて窓の下に身を隠す。結構大きな音を出してしまった。足元を見ると大きめの木の枝を踏んづけていた。

「ん……?なんか音がしなかった?」
……そうか?気のせいじゃないか?」

訝しむ声を出すベルナさんと……窓に近づく足音。やばいやばいやばい。もし見つかったら、
シャッと音がする。カーテンが開けられたみたいだ。がらりと音がして思わず上を向いてしまった。
……その男と目が合う。

………
………ふ、」

意味ありげに笑われた。

……何、どうしたの?何かいるの?」
「いや、風の音だったみたいだ。やっぱり気のせいだったな」

また窓を閉められ………なかった。少しの隙間を空けて、カーテンもまた隙間を残して閉められた。
……今のは。

しばらくじっとする。さっきの意味ありげな笑いは……なんだったんだろう。もしかして、今から。

「んー、ベルナぁー
「ちょっと何よもう……

男の甘えるような声が聞こえてそろそろと窓に近づく。カーテンの隙間から見えるベルナさんは、
………後ろから抱きしめられていた。

「疲れてるんでしょ?癒してあげようか?」
「いーやーよ。明日早いんだからもう寝る!」
「ダーメ。俺がしたい」
「だからそれはあんたの願望なんだってば……

恋人同士の甘い甘い触れ合い。ベルナさんとクラウドから目が離せなかった。
クラウドと二人きりで過ごしている時のベルナさんて……こんなに可愛く甘えた声で喋るんだな……
そう思っていると、

「わっ、ちょっと!」
「んふふーイチャイチャしたいからベッドに行きたいなー?」
「もう行ってるじゃないの!わ、ふ、」

ベルナさんを横抱きにした男は窓の近くのベッドまで足を運んで、ぽすりとその体を降ろしていた。

「あんたは子供か!」
「子供じゃないですー大人ですぅー」

声が近いので更にはっきり聞こえる。クラウドはベッドの上でベルナさんを後ろから抱きかかえ、その頭に頬ずりをしていた。
……ベルナさんは抵抗もせず、なされるがままになっている。

「んっ……こら、手!」
「んんーふわふわだなぁベルナの胸は
……お行儀が悪い子は誰かしら?」

おもむろにベルナさんの胸をすりすりと撫で始めるクラウド。そんな男をさも愛おしいものを見るかのように見上げるベルナさんは、男の頬に手をやる。

「俺って行儀悪い?」
「いつも行儀悪いわよ、特に私の前じゃ」
「ええー?」

顔を覗き込んだその頬にキスをするベルナさん。

……口にもして?」
……私から?」
「そう。ベルナからもたまにはしてほしいなぁ?」
………んもう。じゃあ目、閉じて」
「うん!」

そう言ってそっと口づける。その途端、

「ん……、んぅうっ、ふ、」

ベルナさんはしっかり腰と頭に手を回され、深い深いキスを送り込まれる。そのままベルナさんの腕がクラウドの首に巻きついた。

「んく、ん、ぅ、」

ちゅくちゅくと音まで聞こえてくる。

「んっ……ぷは、はぁ……はぁ
「ん、美味しかった!」
「はぁ…………クラウドのえっち」
「えっちなのはベルナもでしょ?」
「うぅー……

涙目で息を整えながらクラウドを睨むベルナさんは、今まで見たこともないくらい、官能的で可愛かった。

「愛してるよ、ベルナ」
………私も、愛してる」

そう言いながら抱き合う二人。ちらり、とクラウドと窓の外にいた僕の視線が合う。ふ、と目で笑われた気がした。
……完敗した。元から二人の間に割り込める隙は無かったんだ。
そう確信した僕は、そっと窓から顔を離し、その場を後にした。


ーーーーーーーー


5日後。


………あ」
あら?ジーン?5日ぶりね?」
……そうですね」

村のはずれでベルナさんと鉢合わせしてしまった。……どんな顔をすればいいのだろう。

?元気ないわね?どうしたの?」
「あーいや、ちょっと体調崩してて……
「あらそうなの?気を付けてね。最近特に暑いから」
「はは、ありがとうございます……

僕の態度に気にした様子もなく、話しかけてくれるベルナさん。
………周りにあの男の気配はない。

………、」
……どうしたのよ?本当に具合悪いなら帰って休んだ方がいいわ」
「あー、まあでもだいぶ回復したんで大丈夫です
「そう?ならいいけど

さすがに僕の様子がおかしいことに気づいたのか、訝し気に顔を覗き込まれる。
…………言うなら今しかない。

……あの!ベルナさん!」
「ふぁ?!はい?何?!」

急に大声を出したもんだからベルナさんも素っ頓狂な声を上げた。やっぱり可愛い。

……その、こないだの話を聞いた後で言うのもなんですけど……
「こないだの話?」
………僕は!ベルナさんのことが好きです!!」
……え、」

固まるベルナさん。

………でも、」
「分かっています。無理だと。でも……気持ちだけは伝えておきたくて……
………
………明日、この村を出るんです」
「え?」
「もうだいぶ滞在期間を過ぎたので、そろそろ次の場所へ行こうかと」
……そうなの」
……はい」

その表情はどんな感情なのか。もう僕にはわからない。

「最後に、………手を握ってもいいですか?」
……えっ、それは、」
「今まで僕はずーっとベルナさんのことを見ていたんです。けれど、これで諦めますから」
………
「お願い、聞いていただけませんか」
………

長い沈黙。その肌に触れ合えたら、もう思い残すことはないから。

………ごめんなさい」

ぽつりと漏れる声。

……手は、……握れないわ」
………
……この手は、クラウドの為にあるの」
………
「もう、身も心も、あいつに捧げてしまったから」
………そうですか」

最後に、手も触れ合えないなんて。嗚呼、ベルナさん……

……本当にごめんなさい」
いいんです。ただの僕の我儘ですから」
………
……すみません、時間を潰してしまって」
………
「じゃあ、僕、もう行きますね………さようなら、ベルナさん」
……さようなら、ジーン」




僕の恋はあっけなく終わってしまった。



ーーーーーーーー
side:ベルナ


「はぁ………

彼が行った後、私は大きくため息をついた。

「なんか………悪いこと、しちゃったかしら……

去り際に見せた彼の顔が浮かぶ。寂しそうな、それでいて、後ろ髪を引かれるような。

「私のこと、好きだったのね

もう見えなくなった彼の姿を思い出す。でももう、朧気だった。だって。

……私には、クラウドしかいないから」

そう思って、彼が最後に、と手を握らせてほしいと言ったのを拒んだ。……あとちょっと恥ずかしいことも言ってしまった気がする。

「うぅ……

何よ、身も心も捧げてしまったって。そりゃ……心を交わし合って、体も……
かっと顔が熱くなる。思わず手で両頬を抑えていると、

「何してるんだ?ベルナ」
「わひゃ!?」
なんだわひゃって」

後ろからクラウドの声がかかる。

「だから!いる時はいるって言いなさいよ!」
「そんな無茶な

ばっと振り向き、愛しの恋人に文句を言う。

ん?ベルナ、顔が赤いぞ?……また熱があるのか?」

そう言って手のひらをぴとりと額にくっつけられる。

「別に熱なんかないわよ!大丈夫だから!」
……じゃあなんで赤いんだ?」

じとりと見られる。……この男に、身も心も、捧げた。

「ちょっと暑いだけ!早く行くわよ!」
「あっ、ちょっと待てって!」


私は更に顔が熱くなるのをごまかそうと、前を向き、早足で歩きだした。