ortensia
2026-05-28 15:54:06
594文字
Public その他てて
 

ノトルキ


 鱗の手が繊細にピンセットを扱って、鱗の口に餌を運んでいる楽しげな後ろ姿をぼんやりと眺める。広い背中からは鱗の尻尾まで伸びている。この人の部屋に通うようになってから、自分を放って飼育ケースに構う姿は、もう慣れたものだった。
 それでも。
「相も変わらずこんなところ、見ていてもつまらないだろう。なのに飽きもせず。」
 振り向いたトカゲの瞳は人とは似ても似付かぬものだが、人のそれなんかよりずっと宝石のように美しい。そこに確かな価値を感じる。
 そこで何か気付いたような顔をした。表情が決して分かり易い相手ではない。それを分かるようになるまでの時間と意識は、鉱脈を探し当てる感覚に似ている。得た物は大きい。
「トカゲがトカゲを餌付けしているサマが面白いのか?」
 悪戯に舌を出すように、揶揄うみたいな目をして言われた。
「確かにトカゲに他の個体の世話を焼くような習性は見られない。珍しく感じるのも当然か……。」
「トカゲのことは知らないけど。」
 そばに寄って向かい合う。その顔を見るには、見上げなければならない。
 大きな人だ。こんなに大きな宝石があったら、一生に困らない。
「というか普通の人の家族とかも知らないけど、子供の世話焼く母親みたいだね。」
……ハァッ!?」
 ピンセットが飛んできた。危ないな。
 けれど、ピンセットがきらりと光を反射したのは、鱗のようで綺麗だった。


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