梶間
2026-05-28 06:37:13
2844文字
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28日誕生日の人おめでとう🎉

5月28日誕生日の人たちのお祝いSS


歓楽街。それは美しい女が歌い踊る舞台を眺めながら酒と美食を飽きるまで味わう甘美の園。酒池肉林を極めた園では、様々な思惑が乱れ飛び日夜人々を狂わせている。

「やだ、オッタさんたら」
「ふふ、美しい私の雛鳥。君を閉じ込めておきたいと言ったら困らせてしまうだろうか」
「オッタさん、私は?」
「君のような可憐な蝶も手元に閉じ込めてしまいたい。けれど鳥も蝶も飛んでいる姿が一番美しいから困ってしまうな」
きゃいきゃいと鈴を転がすような笑い声が響く。
「ドニさんはもうお酒いいの?」
「えっはいっ大丈夫ですっ」
「ハムがお好きなんでしょう?どれか食べます?」
「えっそのっはいっ」
「オッタさーん、あたしもちょっと飲んでいいかなあ?」
「そうだね、そろそろフルーツの盛り合わせもお願いしようかな。楽園の花園にいる妖精たちは果物と花の蜜しか食べられないんだろう?」
「キャ、オッタさんたら。ぶどう多めでお願いしておきますね」

後輩冒険者だったドニが緊張でガチガチになりながらちびちびと酒を煽り、手慣れた様子で楽しむオッタと花娘たちの様子を横目で伺いながら、カブルーはメニュー表を片手に脱出の算段を練っていた。


 カブルーとドニは同じ5月28日生まれである。冒険者の頃から前日祝いに酒を飲みに行くことがあり、今晩もその予定だった。当日はそれぞれの仲間たちと祝うので、前日に二人で軽く飲むのが恒例となっていた。
 カブルーとドニが共に酒場へ向かう途中、オッタと偶然出会った。一人でいたのでどうしたのかとカブルーがオッタに尋ねると、行きつけの店へ行く途中なのだという。自分たちも誕生日祝いで一杯飲みに行くところなのだと世間話をしたところ、オッタも同じ誕生日だということが発覚した。それを聞いたオッタが、ならば行きつけの店に連れていってやろうと言い出したので二人は御相伴に預かったのだが。
 まさかホールスタッフにハーフフットしかいない酒場だとは思いもしなかったカブルーは天を仰いだ。
 しかも娼館に併設された酒場。宿屋が食事提供のために作った食堂に利用者が増えるうちに酒場も兼任している、ということが多いので宿屋兼酒場、なんて店も島では珍しくない。
 しかしここは宿屋という名目で作られた娼館に合わせて建てられた酒場だ。酒場で盛り上がったらお気に入りの花娘とともに宿屋で一晩お楽しみ、そのために作られた欲望の坩堝。
 カブルーには花娘の知り合いも何人かいるが、きちんとした客として店を利用したことはない。冒険者の頃から今までだってわざわざ娼館を利用しなくても他の酒場で話を聞くことはできるからだ。
 花娘がドニとオッタの二人を構っている間にカブルーはさりげなく店内の様子を伺う。舞台上ではハーフフットの女性たちが歌ったり踊ったり華やかな舞台を広げている。
 広いホールはろうそくと魔法の灯りで作られた豪勢なシャンデリアで照らされており、悠々と寛げる布張りのソファで何組かの客が花娘と酒を酌み交わしながら会話を楽しんでいた。
 
 花娘たちは常連のオッタにかわいらしい声で話しかけながら、こういう場所に不慣れなドニをからかって楽しんでいた。初めはカブルーにも愛想良く接していたのだが、卒なくかわしていたらあまり上客にならないと早々に見切りをつけられたらしい。今は場を盛り下げない程度に話を続けている。

 百戦錬磨の花娘たちの人間観察眼は鍛え抜かれており、カブルーのことを一言二言交わした会話からある判断を下していた。
 こいつは同類だ。己の魅力を理解し、それを武器にする術を知っているタイプの人間だと。
自分が客の立場で接待されたり、あるいは本気で付き合うならば魅力的な人間であろう。
 しかし今の娼婦という立場からするとライバル。早めに帰りたげな素振りをしているのは察するが、大客のオッタの気分を盛り上げるためにはなるべくいてもらいたい。盛り上げすごいうまいし。あと純朴そうな青年がとても良い清涼剤になる。できれば長くいてほしい。
 彼女たちはアイコンタクトですべてを伝え合い結託していた。

こうして大客+αから賃金をなるべくいただきたい花娘vs日付が変わるまでにはフィオニルの元へドニを帰してやりたいカブルーの幕が切って落とされた。


切って落とされたものの結果としてはカブルーの惜敗であった。
花娘たちの手練手管に乗せられたドニが、日付が変わる前に明日が誕生日であること、恋人がいること、日付が変わるまでには帰りたいことを吐露させられ、それなら、とドニとカブルーは早めに開放された。
本当ならもっと早くに帰りたかったのだが、完全に花娘に主導権を握られ会話のタイミングから何から何まで乗せられてしまった。

「恐ろしい場所だった……
「かうるーさあん、飲んでましゅかあ?」
「ドニ、フィオニルに会う前に酔いを醒まさないと」
「ふぃお、ふぃおー!明日たんじょーびいわいしよー!」
「一緒に謝ってやるから明日がんばれよ……

無事にドニをフィオニルの元へ帰したはいいが、すっかりへべれけになったドニを見てフィオニルは大層驚いた。
カブルーは二人で飲みに行こうとしたら知り合いに会ったこと、その知り合いが行きつけの店に連れていってくれると言うのでついていったら娼館酒場だったことを素直に話した。
娼館と聞いて一瞬ムッとした顔をしたフィオニルだったが、カブルーが止めらなれくて申し訳ないと何度も頭を下げるのと、ドニがフィオ、フィオ、と名前を呼び続けるので仕方ないなと受け入れた。

「カブルーさんも大変だったでしょうにすみません、連れて帰ってきてくれてありがとうございます」

フィオニルと協力してドニをベッドまで運んでやり、お礼にお茶でもと引き留めるフィオニルに、今日はもう遅いから、と断りを入れてカブルーは二人の棲家から立ち去った。
 ぽつぽつと灯りがともる城下町の大通りを、大きく深呼吸をしてからカブルーは穏やかな気持ちで歩き始める。恒例の前日祝いも終わり、後は家に帰って明日の誕生日祝いに備えるだけだ。

 例年、カブルーから仲間たちへと誕生日を祝うときは、『プレゼントが的確すぎて気持ち悪い』『自分でも欲しいと思っていなかったのにこれが欲しかったと思えるものが出てきて怖い』『センスが良すぎて彼氏が私の買ったものだと思って褒めてくるから消え物とかのが良い』『悪くないけど金か家!』『あまりカブルーから物を貰うとミックベルが不安になる。申し訳ないが辞退させてほしい』など批判の嵐なので物をあげるのは辞めている。

 そんなことを言う割に仲間たち自身はカブルーの誕生日にはいつも世話になっているから、とそれぞれが考え抜いたものをプレゼントしてくれるのだ。馴染みの酒場で準備しているだろう仲間たちに思いを馳せながら、カブルーは星空の中に浮かぶ黄金城を見つめてひとつ大きな伸びをした。