くこ
2026-05-28 00:03:28
2883文字
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とある一家の御茶会議(王最)

歌ってて何故か思い浮かんだ監禁ねた
解決策が思い浮かんでいないので、これでおしまい





甲高い、金属音が鳴る。
陶器のこすれる音は、どこか耳にこそばゆい。

「最原ちゃーん、まだー?」

催促をするように、両足をばたばたと上下に動かす。テーブルクロスが腿に当たる感触がした。

……キミ、そんなに食いしん坊だったっけ?」
「もちろん! 育ち盛り真っ盛りだよ? 軽く最原ちゃんの3倍は必要だよ!」
「あながち嘘でもなさそうなのが嫌だな……

軽口を叩けば、吐息交じりの返答がある。思わず笑みがこぼれた。
カチャリ、もう一度、硬い音がする。その音の原因、つまり、銀製のフォークが、唇に触れた。大きく口を開けて、それに乗っていたものを咀嚼する。

甘い。
生クリーム。スポンジ。苺。

「ショートケーキだ」
「そうだよ。わざわざ、隣町まで買いに行った」

キミが食べたいってうるさいから、と続けられた声は、内容ほどには刺々しくなかった。ふふん、と笑う。一口だけのケーキなど、一瞬で腹の中だ。もっとちょーだい、と声には出さず口を開けると、ため息とともに再びフォークが差し入れられた。もぐもぐ。生クリームの甘さに品があっていいね。
しばらく、その動作を繰り返す。お互いに、まるでそれがひとつのセットであるかのように、規則正しく、繰り返す。オレたち、餅つきもうまくやれるんじゃない?

「なんで餅をつく必要があるんだよ……
「息がぴったりだね! っていう比喩じゃん! 情緒がないなー」
「そんなに詩的な表現でもないだろ」

ぐい、と、今までよりも強めにフォークが引き上げられる。これでおしまい。ケーキはすべて皿から姿を消したらしい。

「最原ちゃんって、苺を最後に残すタイプなんだ」
……どうだろ。自分で食べるときは、最初かもな」

どうでもいい会話をする。
がたん。皿にフォークを置いた最原が、テーブルから立ち上がった音だ。

「もちろん食後の一杯もあるんだよね?」
「あるよ……これもキミがうるさいから……ちょっと待ってて」

若干すり足のような音をさせながら、最原がキッチンへ引っ込んでいく。見た目にそぐわず、案外と怠惰な男だ、足を大きく上げることもサボリ気味なのに違いない。
数分後、またカチャカチャと金属音をさせながら、最原が戻ってくる。律儀にカップをソーサーに乗せてきたようだ。

「これもキミが言ったんだからな」
「なーに、オレ何も言ってないじゃーん」

じとりと睨む顔が目に浮かぶようだ。からからと笑い飛ばした。
最原とともに囲んでいるテーブルは、丸い。右腕あたりに、彼が息づいている気配がする。四角いテーブルより、距離が近くなるように思えて、気に入っている。

「じっとしててよ」
「さすがにオレも懲りたからね、このときばかりはおとなしくしてるよ」

ふざけて熱々の紅茶を盛大にぶちまけられたときのことを思い出す。最原の手元は、そんなに器用ではなかった。わかっていても、やりたくなってしまう、さがというものはある。
とはいえ、それなりに痕の残る火傷となったので、あれ一回きりだ。

「最原ちゃんがフーフーしてくれればいいんじゃないの?」
……だから、少しは冷ましてあげてるだろ」

本来であれば、茶を淹れるときに適温とすべきなのだが、まあ、彼にそれを望むのも酷だろう。
ゆっくりと、カップの縁が唇にあてがわれる。慎重に嚥下した。

「今日はコーヒーなんだ」
「ケーキが甘いから」
「そーだけどー。もう食べ終わってるんだし、砂糖入れてよ。3つくらい」
「糖尿病になるぞ……

指摘はするものの、予測していたのか、ちゃぽちゃぽと角砂糖を入れる音がする。あはは、と笑った。
くるくる、スプーンでかき回される、音がする。

「さすが! 手厚いねー。甲斐甲斐しいねー」

むっとした気配。最原は、おっとりしているようでいて、短気なときがある。
顎に指が添えられて、カップを口に押し付けられる。黙って飲め。声なく告げられる。はいはい。
今度のコーヒーは、ちゃんと甘かった。




ベッドが揺れる。

ぜえぜえと、荒い息が暗闇に響いている。
最原の夢見は悪い。だいたい毎日、夜中に目を覚ます。汗が頬を伝い、首筋に落ちる。

「最原ちゃん」

呼吸が少し落ち着いてきた頃を見計らい、名前を呼ぶ。

「だいじょうぶだよ」

音の意味を理解できるようになるまで、根気強く、諭す。
そうして、しばらくすると、掻き抱かれる。背中に置かれた、手のひらが熱い。だいじょうぶだよ。もう一度、言う。

「もう、誰も、傷つけないから」




最原が再び寝息を立て始めたのは、空が白んできた頃だった。これも、毎日のことである。別に困りはしない。生計を立てるためにあくせく働く必要などなく、衣食住はすべて揃っている。もっとも、買い物以外に出かけることなど滅多にないので、衣類はさほど持ち合わせていないが。
この生活を始めてから、どれくらいが経過したのだろう。毎日、似たような、否、同じようなことの繰り返しで、日付の感覚を失って久しい。それでも、やめるわけにはいかない。

「ごめん……僕、また……
「えー? なに? 最原ちゃんの寝付きが悪いって話? 半身浴でもしてから寝るようにしてみたらー?」

茶化すが、返事はない。
好きで付き合ってやっているのだから、気にしなくていいのに。

「僕のこと……嫌いになった……?」
「は。こんなんで嫌いになるんなら、とっくのとうに見捨ててるね!」
……

お疑いの模様。
やれやれ。このオレがここまで付き合ってやってるっていうのに、いったい何がご不満なんだか。

……ごめん。買い物、行ってくる……

のろのろとベッドから起き上がる気配がする。
これから、よろよろと着替えをして、よたよたと外に出ていくのだろう。たまには連れて行ってほしいものだ。

「おみやげ忘れないでねー。今日はフルーツケーキがいいなー」
「またケーキ食べるの……太るよ」
「オレの楽しみを奪うだなんて! 最原ちゃんの鬼畜生!」
……

ベッドの上から喚いてやれば、反論ができずに最原は口をつぐむ。多少なりとも、この状況を理解はしているがゆえの、沈黙だろう。だが、実際、当てこすりはしたが、そんなに気にしていない。目的は別だからだ。それでいうと、目的の進捗は芳しくないので、どちらかといえば、頑張るべきは自分である。
いってきます、と言い残して、最原は寝室のドアを閉めた。つかの間の自由時間に、策を練っておかねばならない。




兆候がなかった、とまでは言えなかった。
ただ、相手が最原であるということと、そういう状況に陥った経験がなかったので、判断がつかなかった。それは、現時点での行動を決定することができていない理由でもある。

とにかく、乱暴にするのがまずいことだけ、わかる。

息を吐いた。
ひとまず、この服を脱いで、目を開けよう。
一日ぶりの陽の光は目に染みそうだ、慎重に目を慣らしながら、王馬は白い服を畳んだ。