燈 ともしび
2026-05-27 22:41:52
2176文字
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リクエスト14:ぎゆさね【自覚】前編

現役軸の二人です。
長くなりそうなので分けます🙇‍♀️

リクエスト:現役軸の🌊🍃(付き合ってても付き合う前でも可です!)が潜入任務して🍃がモブおじに厭らしい目で見られてセクハラされるのにブチ切れる🌊がみたいです

 あそこの診療所から若い男女がよく消える。そんな噂が立ったのは山の麓にある小さな村でのこと。
 そう、消えるのだ。文字通り。跡形もなく。
 具合を悪くして診療所へくる。普通に医師が診察する。そして診療所からの帰り道に忽然と姿を消してしまうのだと。

 さて、ならばこの診療所が怪しいのだが、ちゃんと帰ってくる者もいる。
 歳を重ねた老人、乳飲み子、孕んでいる娘。それらはちゃんと帰ってきた。話を聞いても特に奇異なところはなく、見た目も凡庸な医師が診察をして薬を処方されて帰されている。処方された薬も毒ではなく、飲めばきちんと病が治っている。なのに、若い男女だけは帰り道に姿を消してしまっていた。
 鬼が食うためであるならばむしろ孕んだ娘や乳飲み子は獲物になりやすいと思われるが、ここは無事なのだ。
 ならば、他に何か狙いがあるのではないか。
 どうにも鬼の可能性を消せないため鬼殺隊から潜入調査に向かわせることになった。
 本来なら下級隊士が指名されるのだが、行方知れずの人数が多いために上級隊士、柱が今回の任務に当たることが決まった。
「病弱な白子のふりをして診療所へ入り込みます」
 風柱が名乗りを上げ、村に向かう。
 
 風柱なら安心だ。
 そう柱含め隊士達も思ったが、唯一水柱だけは苦い顔をしていた。
 出立の準備をする時になってもまだ苦い顔のままだったので、昼間のうちに水柱を自邸に招き、風柱はその額に強めの指弾きを見舞わせる。
「テメエはよォ、俺のことが信用出来ねェってのか」
「ッ、……そ、うではない」
 よほど痛かったのか額を押さえて涙目であったが、それでも風柱の任務は嫌だと言う。
「不死川は自分の魅力を分かっていないから」と。

「ア? 俺に魅力なんざあるかよ。テメエの目がおかしいだけだ」
「だからそういうところだ! 何度言っても白く豊かな胸元は開けたままだし、自分では厳ついと言っているが、寝ている顔は赤ん坊か女神のごとく柔らかく美しいんだぞ!」
……いや、どう考えても冨岡の目がおかしいわァ」
 そもそもこの男は自分なんかに懸想してくるような変わった奴だ。そんな奴に色々言われても説得力なんてある訳がない。
「もうお館様の許可が出ているんだ。止められる訳がないだろうが」
……分かっている」
 そこまで言ってやっと冨岡は引いてくれたので、先ほど指弾きをした額に唇を押し当てた。
「安心しろよ。俺は強いんだ」
……それも分かっている」
 ぎゅっと引き寄せられて強く抱きしめられたが、抵抗はしないでおいた。
 心を通わせ、身体を重ねるようになってから冨岡はよくこうなる。とにかく俺が潜入するのが気に入らないらしい。気に入らないというよりも心配になるのだと。
「不死川は俺のなのに」
 とよく言っているが、鬼殺隊に入った時点で俺の身体も命もお館様のものだ。冨岡のものにはならないし、なれない。
 だから最近は必ずこう言う。
「俺の心はテメエのもんだ」と。

「だから、信じて待っていろ」
……不死川はずるい。そう言われたら俺はそれ以上何も言えなくなる」
「ふふ。良い子で待ってろよ」
 もう一度、唇を重ねておいた。


 蝶屋敷で具合の悪そうに見える化粧を施してもらい、顔の傷も塗り粉で厚く隠す。普段は開けている胸元はしっかりと隠し、後ろにかき上げている髪の毛はわざと降ろして目元が見えないようにした。
 果たしてどうなるかと思われたが、胸元の筋肉さえ隠れていれば風柱は腰も細いためにか弱そうに見える。これなら、と付き添い家族役の隊士と共に噂のある診療所へ向かう。
 あの村のある辺りの山道は有名な神社への参拝客も使うため村人でもない者が診療所を訪ねてもおかしくない。今回はそれを狙った。病弱な兄とそれを支えながら参拝しようとする弟。途中で兄の体調が悪くなり、村の診療所へきたと。
 時々咳き込みつつ、弟役の隊士に肩を借りて診療所の扉を潜る。
 特に変わったところは見当たらない。手入れはされているが古ぼけた普通の建物だ。中には受付兼看護役の老婆がおり、あれこれと尋ねてくるがそれにもおかしな点は見当たらない。
 老婆との問診を終え、勧められるまま奥の部屋へと向かえば白衣の医師が椅子に座るよう勧めてくる。口を開けさせて中を覗き込み、その後指で首元を触られたがその手つきに性的なものは感じない。蝶屋敷でいつもされるのと同じような扱いでしかない。
「少し喉が赤いので薬を出します。それを飲んで、まあ、あまり無理をせずに」
「はい」
「お大事に」
 特におかしなこともなく診察が終わり、先ほどの老婆にお代を払う。
「お大事に」
「はい。ありがとうございました」
 ここまでもおかしなことは何もない。
 診察所を出て山道へ向かう。後をついて来る気配もない。
……診療所ではないのでしょうか」
 弟役の隊士がそう言ってくるが、俺はまだ警戒を解かずにいた。
 なんせ『普通』過ぎるのだ。
 あれほどあそこを訪れた若い男女が消えているというのに、医師も老婆もどちらも何もない。普通過ぎることがかえって怪しいと思っていた。
「まだ警戒は解くな」
……はい」
 そう忠告した時だった。
 弟役の隊士の身体が一瞬で宙に舞った。