10008Senya
2026-05-27 18:49:51
2720文字
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n回目の初披露

博士(四十五歳断片)×富者
※虚構に虚構を重ねた話
※異質な樹核含む魔神任務関連ネタバレ全部盛り
※執行官になったばかりの富者(三十歳)をザンディク(四十五歳頃)がエスコートしていたらいいなという妄想が発端
※博士がマイルドで富者がちょっと乙女チックかもしれない
※なんでも食べられる方のみお読み下さい。

……また痩せたのではないか?十分な食事と睡眠は取っているのか?」
「ええ勿論」
 貼り付けたような笑顔のその目元には患者の言葉を肯定するには難しい程度に隈が乗っている。
 眼の前の男は民草の血と涙で出来上がった銀行のトップにいる男であるが、その実誰よりも身を粉にして働いていて、体調管理も兼ねた通院を定期的に行っている。
 その通院先がかの悪名高き博士であるから、やれ怪しい薬で超人的な体力を維持しているだの、通院とみせかけて二人して奸計を練っているのだとか噂されているが、それは噂でしかない。
 たしかに特別な薬は定期的に服薬はしているが、それはパンタローネの体力などとは関係がなく、この場において行われているのはごくごく一般的な健康診断でしかない。
「老いぬとはいえ、お前の身体自体は人間だ。壊れぬように自分でも管理してもらいたいのだが、あまりにも聞き分けが悪いようなら強制的に寝かせてやっても良いのだぞ?」
 そう言って取り出したトレーの上には注射器と麻酔と書かれたアンプルが置かれている。問題に対する処置は一般的ではないかもしれない。
「それは遠慮させて下さい」
「では今夜は残業などせずに早く休息をとることだ」
「そういう訳にもいかないのですよ。明日の夜、どうしても外せない用事があってその準備に追われているんです」
 パンタローネは寛げていた検診衣を直し、主治医、今回であれば四十五歳の断片博士に説明を始めた。
「明日の夜、パーティがあるんです。当行わたくしたちの大切な顧客も大勢いらっしゃるので欠席するわけにはいかないのですよ。ここ最近の寝不足は「やはり寝不足じゃないか」おそらく私の元に来るであろう融資や事業の話ですとか、そういった商談の備えです」
「既に十分すぎるほど財を成したというのに、まだまだ搾り取るつもりか?」
「際限などありませんよ。モラは無限にありますから」
 博士は口の端をピクリと動かすと検診結果にコメントを書き加える。
『生活習慣の見直し。特に業務状況の改善を強く求める。』
「虚しいものだ。これを書いたところで、北国銀行でお前よりも上の者はいない。お前の仕事を強制的に止めることもできない」
「であれば書かなくてもよいのでは?」
「『医者』としての義務は果たさなければならないだろう?これだけ患者思いの主治医がいるのに、少しは報いる気はないのか?」
「そうですねぇ……では明日のパーティが終わったら、半日休みを取ることにしましょう」
「明日は金曜日だ。土曜日はもともと休日だが?」
「研究所に詰めているのに曜日感覚はあるのですね。それに、いつになくしつこいことで」
「今回の血液検査の結果をみれば、小言も言いたくなる。パーティも深夜まであるのだろう?半日休んだところで十分な休息が取れるとは思えない」
「そうですね。クローズはそれほど遅くはないのですが、お話が弾めばあるいは……場所を替えて『お客様』と『飲み直す』こともあるかもしれません」
 薄らと目を開けて笑んで見せる。柔らかな笑顔であるのに瞳の奥には老獪な闇が宿り、暗に夜を伺わせる物言いと相まって妖しげな空気を醸し出す。
「こちらを煽っているのかどうかは知らないが、お前はを取らないことは知っている。私の実験体として、昔から不要なリスクを犯さないからな」
 だがそのような嘘は、長年連れ添った彼の前は霧散する。
「信頼が篤い様で、痛み入ります」
「一緒に禁煙もしてくれれば文句はないのだが……しかし、パーティか」
 ふむ、と博士は顎に手を当てて何かを思い出すような動作をしてみせる。
「なにか懸念点でも?」
「いや。お前がパンタローネ富者になって初めてのパーティを思い出していた。お前を推薦した私がエスコートをしていたな」
……そんな昔のこと」
 嫌な方向に話を振ってきたなと、パンタローネは胸の内を悟られぬように努めたが、残念ながら思い出話は続けられた。
「あの頃のお前はまだ今よりも可愛げがあった。パーティでは執行官らしく振る舞っていたが、終わった後はしばらく私のところに来て休んでいたな」
 そういえば、フェオファンが執行官になった頃のザンディクは、ちょうど目の前にいる断片の年頃だったか。だから、その当時のことは鮮明に覚えているのだろう。
「パーティの空気とお酒に慣れず体調を崩しそうでしたから、予め主治医のところに行っただけですよ。それもたったの数回でしょう?」
「ああ、そうだな……今回のパーティには三十五歳の断片ドットーレは参加するのか?」
「いいえ?執行官であれば他には雄鶏が参加されますね。彼も執行官以外に市長という立場がありますから」
 それがなにか?と問えば。
「いや、久しぶりに参加するのも悪くないと思ってな」
「え、いやしかし。あなたはもうああした場には行かれないのでは……?」
 四十歳を越えたあたりから内向的になり、表舞台には余り出なくなったとパンタローネは記憶していたので、眼の前の彼の申し出に驚いた。
「偶には刺激も必要だ。それに、今の時代ではお前があの場パーティではどのように振る舞うのか少し興味が湧いた」
 推薦者として見たくなったのだ、なんて恩着せがましく言うものだからパンタローネは承諾するしかなかった。
「分かりました。招待状は特に必要ありませんから、明日時間になれば迎えを寄越します。……それでは失礼します」
 椅子から立ち上がり部屋から出ようとしたところで名を呼ばれる。
「フェオファン」
「!はい」
 なんでしょう、と振り返ると赫い目がパンタローネフェオファンを見ていた。
「明日を、楽しみにしている」
「っ、……ええ、分かりました」
 では、と足早に診察室から出て、扉を閉める。
 滅多なことでは動じなくなったというのに、先程の彼の表情に思いがけず心拍数が上がって、パンタローネは大いに動揺した。
 三十五歳の断片ドットーレよりも険が取れ、落ち着いた性格で、断片達の中では見た目が歳近い頃であるから、会話の難は一番低いというのに。
 彼の言う通り執行官になった当初は頼ることも多かったが、それだって数は多くない。
 執行官として今では完全に対等であると自負しているのに、なぜだかという気持ちが湧き始めている。
 銀行家パンタローネが今更そのような振る舞いをするはずがないというのに。
……隈は、できるだけ消していきましょうか」
 血色悪く、すこし皺が出ている目元をパンタローネは確かめるようになぞった。