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限界馬鹿夢女
2026-05-27 05:26:48
18124文字
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たからもの その3
タイトル通りです
うちよそ前提
⚠️ヤツフサくん視点
前回までのあらすじ
ヤツフサくんが同期組の様子を見てモヤモヤしている
「ダ〜リン!今日はコライドンくんとケンカしないでね
……
?」
「わかってるって、アイツが暴れなければな」
「ビビちゃん、今日はカイリューのお兄さんとコライドンくんに渡すプレゼントがあるんだよね?」
「はい!今日は更に親睦を深めようと思いまして
……
とても美味しい秘蔵のダイヤモンドを持ってきましたわ!」
「「 それ
ダーリン
コライドン
は食えないって! 」」
「へぇ、ビビはこういうのが好きなのか」
「ぐるる」←手に取って眺めてる
(
……
)
クソガキさまに連れられ、俺はこんな夜遅くにアカデミーのエントランスに来ていた。
クソガキさまの“たからもの”に紹介される為だけに。
先日、アカデミーでのクソガキさまの様子が気になって俺は潜入捜査まがいなことをした。
その結果得られたものは
……
クソガキさまが特定の人物2人に対して酷くご執心であり、その相手2人は己の瞳に誰1人映すことのない人物だということ。
クソガキさまの瞳の中に映ってるあいつらは、その瞳にクソガキさまを映そうとしない。
あいつらにとってクソガキさまはその他の生き物たちとなんら変わらない、道端の石ころだという事実を知った。
それ以外にも、俺にとってはとても暖かく優しい事実を知ることが出来たりしたけど
……
それでも相変わらず心の靄はこの一点に酷く集中してしまって晴れぬままで。
そのことをずっと考えていたら、とうとうこの日がやってきてしまった。
俺にとっては
……
いや、なんであの2人に対して俺が悪い感情を抱いてるのかはよくわからないけど、でも、正直あまり真正面からツラを見たくない2人と正面向き合う日が来てしまった。
クソガキさまやあの2人からしたら俺と2人は初対面ではあるけれども、俺からしたらライとセロリのことなんかとっくのとうに知っている上にあまり良い感情を抱いていない。
どんな顔をしてあの2人の前に立てばいいのか、まだわからない。
当日本番の状態なのに、まだあの2人の前に出たくなくてモヤモヤが落ち着かなくて、だからボールの中で静かに様子を伺っていた。
そして、俺の今抱えているモヤモヤの理由はもうひとつある。
コライドンだ。
クソガキさまや他の奴らの様子を伺うに
……
コライドンのやつは、とっくのとうにライやセロリそして2人に付き従うポケモンたちと親睦を深めていたようだ。
シティは身体が小さいしなんの犯罪を犯してないやつだから、アカデミーを勝手に出歩いていても「へえ」でしかなかったし、ライやセロリと面識があっても当然のことだと納得は出来る。
しかしコライドンはどうだ。
コライドンは自他共に認める“荒くれ者”。
他の奴の言うことは絶対に聞かないし、些細なことで癇癪を起こして誰彼構わず襲いかかる奴でそのせいで食事の時以外では口輪が絶対に外せなくて
……
コライドンのトレーナーであるクソガキさまも癇癪を起こすコライドンを前にして何度も危険な目に遭っていた。
そして、クソガキさま以外は気がついていると思うが
……
コライドンからは“血の臭い”がする。
あいつはおそらく
……
過去に“何か”を殺した。
……
俺と同じ、ニフルや姉御と同じ血の臭いがするんだ。
とまぁ、そんな奴なので、そんなコライドンがまさか一般人であるライやセロリとそのポケモンたちにとっくのとうに紹介されてるとは夢にも思わなかったわけで。
シティはともかく、クソガキさまのお世話係な俺より先にコライドンが紹介されてるとは夢にも思わなかったわけで。
コライドンはクソガキさまといっしょに何度もライやセロリに会わせてもらってたとか夢にも思わなかったわけで。
……
別に、拗ねてるわけじゃないけど。
……
それはともかく。
俺はしばらくの間、ボールの中から様子を伺った。
まず意外だったのは、セロリのこと。
セロリのやつ、今日は瞳の中に特定の人物を映している。
(あの“ダーリン”って呼ばれている竜を見る時のセロリの雰囲気と瞳
……
以前アカデミーで見たセロリとは明らかに違う)
今日のセロリはなんというか、本当はこういう顔をするのか、というか。
とてもヒトの子らしい顔をしていた。
以前アカデミーで見た時のセロリは他者との繋がりで己の知的好奇心を満たす以外にも
……
相手が喜ぶような言葉をペラペラと吐き出してはその相手の反応を見て愉しんでいるように思えた。
クソガキさまにも『ユリパイセン』と呼び、クソガキさまがセロリの言葉に一喜一憂する様を眺めてはそれを見て愉しむ。
まるで上位種の生き物のように。
俺はセロリのことを
……
他者を持ち上げるような言葉を言いつつ、本心では己の知的好奇心を満たしつつその様を眺めて愉しむ上位種のようなニンゲンだと思ってた。
だけど、今日のセロリを見て少しだけその考えが変わった。
「ダーリン、見て見て」
「はは、言われなくっても見てるって」
「
……
おれのこと?」
「ん、そう」
「!!ダーリンっ」
(
……
)
(
……
セロリのやつも『特定の誰かの瞳に映りたい』って思うことがあるんだな)
アカデミーのセロリは、誰一人その瞳に映すことがなく、自身もその欲を一切抱いてなさそうな様子だった。
しかし、今日のセロリは違った。
“ダーリン”と呼ばれているカイリュー、あいつに対してセロリは明らかにその欲を抱いていた。
カイリューの瞳に自身の姿を余すことなくを映してほしいと、そして先ほどなんかはカイリューの身を案じる意味でコライドンとカイリューが喧嘩をしないように先手を打って軽く牽制していた。
そして
……
俺視点で見たセロリの相手のカイリューは明らかに“強者”だ。
カイリュー自身の持つ独特な雰囲気、そしてセロリの口ぶりやコライドンの言動を見るに
……
おそらくかなりのやり手だと見受けられた。
コライドンと時折喧嘩をしているという話、そしてあのコライドン自身がどことなくカイリューのことを受け入れている雰囲気からして
……
俺でもわかる。
あいつを前にしたらヒトの子なんかはおそらく一捻り、ポケモン相手でも一般的な奴らでは圧倒的な圧に気押されて足がすくみ手も足も出ないだろう。
現に、彼らの談笑を聞くに、かつてコライドンとカイリューが喧嘩をした際にはお互い本気で殺りあって同時に瀕死状態になったこともあったという。
あのコライドンと互角に渡り合えるほどなら
……
俺でさえ敵うかどうかわからない。
俺は思わずボールの中で身震いをしてしまった。
つまり、並大抵のやつではあのカイリューの隣に立つのは不可能だ。
瞳に映してもらおうとするその欲を抱くこと自体が烏滸がましいことなのだ。
しかし、セロリはどうだ。
カイリューの雰囲気に一切気押されることなく、ただひたすらに自身が抱いている無垢な愛をカイリューにひたすら捧げているように見える。
おそらくセロリは
……
あのカイリューの“個体”という深い部分を見ていて、あのカイリューの持つ“強者としての強さ”とはまた別のところに惹かれている。
クソガキさまと同様に
……
セロリもあのカイリューの“個体”という側面を深く見ていて、そこを愛している。
だからこそ、自身をその瞳に映してほしいというセロリが抱いている欲は
……
相手があのカイリューだからこそなのだと思う。
セロリが他のやつを瞳の中に頑なに映さないのは、きっとそれほどまでにあのカイリューの存在がセロリのなかでとても大きい特別な存在だからだ。
セロリの瞳の中には他のやつが入る隙間がない。
例えば、他のカイリューがセロリの目の前に現れたとしても
……
セロリがその欲を抱くのはおそらくセロリの隣にいる“ダーリン”だけ。
他のやつでは駄目なのだろう。
そして、カイリューに対して欲を抱くことが烏滸がましいことだとは微塵も思わずカイリューの瞳の中に自分を映してもらおうとする堂々としたところが
……
セロリの“強者”としての所以なのだと思う。
自分自身に自信があり、相手がどんな者であれ自分を貫き通し接することのできる強さ。
ふと顔を見上げてみたら、ちょうどセロリがコライドンに気安く近寄って親しげに話しかけていたところだった。
ほら、つまりはこういうところだ。
セロリの強さは
……
相手の種族や身分年齢問わず自分に自信を持った上で、他者を見てくれだけで偏見せずに接することが出来るところなのだと俺は思う。
だから、クソガキさまとセロリがどういった出会いをしたのかもなんとなく想像が出来た。
クソガキさまが懐くのも無理はない。
ほら、今もそうだ。
カイリューと幾度喧嘩を重ねたであろうコライドンのトレーナーであるクソガキさまに対して、セロリはいつもの調子で満面の笑顔で話しかけていた。
普通の奴なら
……
愛しい者を害したポケモンとそのトレーナーに対して嫌悪を示すのが普通だ。
それが当たり前の反応だと思う。
それでも、先日の偵察の時も、今もそうだけれども。
セロリはクソガキさまに対して嫌な顔ひとつせずにただ純粋に“友人”としてクソガキさまと真正面から接している。
本当に楽しそうに、クソガキさまと談笑している。
……
セロリの瞳の中には他のやつが入る隙間はないものの、そんなセロリなりに誠実にクソガキさまのことを“個人”として見て扱って接してくれているように思えた。
セロリがこの集まりに参加したことそのことが
……
まさにセロリの強者としての象徴だと俺は思った。
クソガキさまが惹かれたセロリの輝きというのは、本当はきっとこういう部分なのだろう。
そういう点では
……
意外だったことがもうひとつある。
それは、ライのこと。
今日のライは
……
セロリとは真逆で以前見た時とあまり変わらない印象だった。
相変わらずその瞳の中に誰も映していない。
それこそ、その場に居る者全て、なんなら自身のポケモンすらもその瞳の中に映していないようだった。
ライは自身のポケモンを何体かその場に出していた。
聞き耳を立てるに
……
そのポケモンの多くは他の誰かから譲り受けた者たちらしい。
まばゆい珍しい輝きを持つ、強いポケモンたち。
俺から見ても、ライのポケモンたちは忖度無しにとても強いポケモンたちだと感じられた。
例えば、あの“ビビ”と呼ばれているヤミラミの少女はセロリと同じように一切臆すことなくカイリューとコライドンの仲を取り持っていた。
他のポケモンたちもとても強く堂々とした振る舞いだった。
クソガキさまやセロリそして彼らのポケモンたちに対して一切臆すことなく、ライと彼らの仲を取り持つように動く。
自身のトレーナーの顔を立てていた。
彼女たちは自身の強さに驕ることなくライを『主』として認め、心から慕っているように見えた。
それなのに、そんなとても強いポケモンたちすらも、ライは自身の瞳に映していない。
そのことに対して俺はなんだか無性に腹が立った。
この感情が理不尽な俺のエゴなことなのは頭ではわかってはいるけれども。
それでも、無性にむかついた。
ただ、それと同時に。
そんなライがこの集まりに参加したのが本当に意外だった。
自身のポケモンすらその瞳に映さないライが、なぜこの集まりに参加したのだろうか。
ただ面白そうだったから、それだけなのだろうか。
好奇心を満たすためだけに参加したのか。
はたまた、本能から“誰か”を探すために参加したのだろうか。
セロリはともかくライのことは更によくわからなくなったな、と首を捻りながらうーんと唸っていた。
ライがわからない、というよりも、俺が抱えているこの複雑な感情は一体なんなのだろうか。
すると突然。
「出ておいで、ヤツフサ」
とボールの外から声がした。
え、待って、と声を挙げる間もなく。
俺は突然セロリとライの目の前に引き摺り出された。
▫︎
「わぁ!はじめて見るポケモン!!」
「“ヤツフサくん”って言うの?おれセロリ、ヨロシク!」
「あ、お、おう
……
」
ライとセロリに話しかけられて戸惑っている俺を見て、クソガキさまはとても幸せそうに笑っていた。
クソガキさまはどうも俺が考え事をしている時に「ヤツフサ、そろそろ出ておいで」と何度も声をかけてくれていたらしい。
でも俺からの返事が無かったので心配性のクソガキさまは「何かあったのか」と思い切って俺をボールから出したらしい。
で、今に至る。
「アレ?ヤツフサくん??」
「もしもーし、僕たちのこと見えてる?」
「
……
おう、見え、てる」
『誰かさんたちと違って俺はちゃんと見てるっつーの!』というツッコミは流石に声には出せなかった。
ライとセロリにどう言葉をかければいいのかわからない俺を見てクソガキさまは「ヤツフサでも人見知りするんだな」と苦笑していた。
……
2人と、そして2人と一緒にいるクソガキさまとはじめて真正面から向き合ってみて、わかったことがいくつかある。
まずはセロリ。
セロリは俺の見てくれを上から下まで見て「イカしてんじゃん!」と満面の笑みを浮かべながら俺の背中をバンバンと叩いてきた。
一応、他者の外見に関する関心や興味は人並みにあるみたいだ。
それでも、そこの関心に種族や年齢といった部分は入らないみたいで、歳上の俺に対してもまるで同い年かのように接してきた。
初対面なのにも関わらず。
コライドンに対してのセロリは初対面じゃないからこそ親しげに話しかけていたのかと思っていたけれども、どうも誰彼構わずこんな調子らしい。
アカデミーでも歳上の生徒に対して臆さず交流していたのは何度も目撃してはいたものの、こうして実際に会ってみるとセロリがヒトを惹きつけてやまない理由が少しはわかったのかもしれない。
このような、良い意味でヒトを選ばない人柄にクソガキさまも他の奴らも惹かれたのだ。
次にライ。
ライはというと、口先では「はじめて見るポケモンだ!どこからきたの!?なんていう種族なの!?」とまるで心から興味を示すかのような発言をしてきたが、やはりその瞳の中に俺は入っていなかった。
が、しかし、それは俺という“存在”に関心が無いだけで、好奇心そのものは本物だったようだ。
現に少しだけキタカミの話を出したら少し食いついてきたからな。
そして、ライもセロリと似たような感じで
……
俺に対して全く臆すことなく、初対面なのにも関わらず親しげに話しかけてきた。
これはアカデミーでも同じ様子が見られて、ライは多くの者たちに親しげに話しかけにいっては共にフィールドワークに行ったりと他者と様々なコミュニケーションを取り、クソガキさまをはじめとした多くの者たちがライに惹かれていた。
……
ライは、良くも悪くも“個体”という存在に興味関心が無く、自身の知的好奇心を満たすことが今のライにとって最優先事項なのだと今回改めて気付かされた。
セロリの瞳に“カイリュー”という存在が占めているのなら、それならライの瞳の中に映り占めているのは“好奇心”そのものなのだろう。
だからこそ自身の知らない知識を持つ他者に対してとても友好的に気軽に声をかけたり、日夜勉学に励むのだろう。
しかし“好奇心”が瞳の中を占めているからこそ、他者がライの瞳の中に映ることはない。
他者を瞳の中に映す余裕が、今のライにはないのだろう。
その瞳の中に自身を一時的にでもどうしても映してほしいなら、ライの好奇心を満たすものを持ってくるしかない。
だからこそ、ライに惹きつけられた者たちはこぞってライの気を引こうとあの手この手で行動を取るのだと思う。
好奇心を満たすものを差し出せば、ワンチャンあるかもしれない、と。
ライとまた話したいから、ライに自分という“個人”を見てほしいから。
……
そして、それほどまでに他者の心を惹きつけてやまないライのコミュニケーション能力は、自身の知的好奇心を満たすにあたって最良の能力であり、目的を達成するためのライの武器だ。
現に俺もたった今ライに色々質問され、ライに対する印象が悪いことを忘れて思わず機嫌が良くなり色々と喋ってしまい、そのことに気がついてゾクっとした。
ライも
……
ある意味、自身の瞳に映るものに対してとても誠実であり、そしてそのある種の誠実さこそがライが“強者”たる所以なのだと。
それこそ、好奇心への誠実さから他者を平等に瞳の中に映さない。
好きなものに対するまっすぐな誠実さ。
それがクソガキさまを惹きつけてやまないライの“強さ”なのだと。
そしてその強さを認め、ライのポケモンたちはライのことを『主』として認めているのだと。
ライやライのポケモンたちと色々話をした結果、俺はそう納得せざるを得なかった。
……
。
2人の“強者”のその輝きの理由に納得したのと同時に、俺は途端に酷く恥ずかしくなってきた。
正直な話、俺はだいぶクソガキさまに謎に肩入れしている自覚がある。
だからこそ、俺はこの2人のことを“強者”として認めたくなかった。
クソガキさまにとっての“たからもの”足り得る人物だと思いたくなかった。
この2人のことを
……
“強者”として、クソガキさまの“たからもの”として認めてしまったら、それこそ俺自身の自信喪失に繋がるからだ。
そのことが何故俺自身の自信喪失に繋がるのか、それを言語化してしまえばそれこそ俺は抑えている本能を曝け出して大暴れしてしまうだろう。
だから言語化はしたくない。
……
したくはないけれども。
だって。
今、俺の横に立って2人に向かって微笑んでいるクソガキさまは、“自分の立ち位置に納得している顔”をしていたから。
そんな顔、クソガキさまにはしないでほしかった。
2人に並び立つ“強者”として、“たからもの”になりたいという欲を曝け出して、そう振る舞ってほしかった。
あのカイリューと互角に戦えるコライドンをはじめとした俺たちが側に居てもなお、クソガキさまはあの2人のことを自身よりも“上”だと認識している。
だからこんな顔をするのだ。
だからこそ、あの2人のことを俺は認めたくなかった。
その後のことはぼんやりとしか覚えていない。
少し席を外したくて後退りしたらずっこけてカイリューのマントに顔を突っ込んでしまい青ざめている俺に対してカイリューが「お前面白い奴だなぁ!」と何故かご満悦に肩を組んできて、その様子をライやクソガキさまは子供らしく無邪気にスマホロトムで撮影してきた。
セロリはその横で「あとでおすそ分けして!!」と2人に向かって叫んでいた。
その後、夜も更けてきたから解散となり、3人は「また集まろうね!」と無邪気な笑顔で約束を交わしていた。
まるで親友かのように。
帰路、俺はクソガキさまに誘われてまたあのベンチに2人で座った。
しばしの沈黙が2人を包んだ。
沈黙に我慢できず、俺は何かをクソガキさまに問いかけようとした。
しかしそれよりもクソガキさまの方が一手早くこう言った。
「あの2人、“強い”だろ」
と。
その問いかけに返す言葉が見つからず口篭っていたら、クソガキさまはそんな俺の様子を見て苦笑しつつ、ぽつりぽつりとゆっくり話をしてくれた。
「俺は最初“強さ”に固執し奢っていた」
「ヤツフサも知っての通り、スズランから与えられた強さで慢心していた俺は、間違った強さを奮い大切な人たちを傷つけてしまった」
「何故、どこで間違えたのか
……
後悔ばかりが押し寄せてきて
……
そもそも“強さ”とはなんなのか、全然わからずにいた」
「そんな俺に“強さ”を教えてくれたのがあの2人」
「あの2人は見返りを求めず、偏見の目で俺を見ずに
……
ただ誠実な“情”だけで見ず知らずの俺に声をかけてくれた」
「本当に嬉しかった。ただでさえ俺はあのスズランの兄ってことで色眼鏡で見られがちで、アカデミーに入学したばかりで林間学校に行ったと思ったら泣きながら帰ってきてかなり異質な存在だったろうに、そんな俺のことを偏見も何もなく真正面から見てくれてただ純粋に心配して話しかけてくれたことが」
「あの時からあの2人は俺にとって親友であり俺の憧れなんだ」
「んで、とても嬉しかったから
……
そのあとも
……
“宝探し”開始の時に俺は勇気を出して思い切って2人に声をかけたんだ。『連絡取り合いながらいっしょに宝探しをしないか』って」
「2人は俺にとっての憧れそのもので、そんな2人の姿を間近で学んで勉強すれば
……
俺も2人みたいに強くなれるんじゃないかって思ったのと
……
純粋に“友達”といっしょになにかをしたかったんだ」
「その時2人に声をかけてきてたやつは大勢居た。それでも声をかけたら、2人とも二つ返事で承諾してくれたんだ」
「俺、真っ先にナッペ山ジムを攻略しちゃって、2人を待ってる間に風邪引いちゃったこともあったけど
……
その間2人とも連絡を欠かさずしてくれた。なんで風邪をひいたのかは聞かずにいてくれた」
「それこそあいつらすごいんだぜ!?セロリはジム巡りを全然していない段階で憧れのミニリュウを捕まえて言うことを聞かないミニリュウを根気よく向き合って心を通わせてあのすごいカイリューに育て上げたし!ライ自身もラナ先輩から譲ってもらった強いポケモンたちに臆することなくしっかりと向き合って!だからこそ今あれだけポケモンたちから慕われているんだ!」
「
……
2人が持つ“情”こそが“強さ”なんだと俺は思う」
「他者の立場になって考えて
……
相手の背景や事情を想像しつつもそこに深く追求したりせず、見返りを求めず純粋な気持ちで共に語り合う、その誠実な“情”こそが“強さ”だと、俺はあの2人と出会ったときに、このアカデミー生活で、2人と友情を育んでいくうちにそう思ったんだ」
それは、そうかもしれないけれども。
何か言いたげな俺の様子を見て、クソガキさまは笑って微笑んでこう言った。
「“肝心のライとセロリの視界には俺の姿は映ってないのに”って言いたそうにしてるな、ヤツフサ!」
「なっ__」
気がついていたのか。
あの2人の瞳に自分が映ってないことを。
酷く驚きすぎて開いた口が塞がらない俺を見て、クソガキさまは笑いながら言葉を続けた。
「知ってるよ、最初から」
「そうだな〜
……
それこそ出会った時からだな、それに勘づいていたのは」
「あの2人の視界にはもっとキラキラしているものが映ってる。それこそ俺以外に親友と呼べる存在は山ほどいると思う」
「それを踏まえても尚、あの2人は俺にとっての“
憧れ
たからもの
”なんだ」
そこまで聞いたところで、俺は我慢できずに口を挟んでしまった。
「なんで」
「
……
なんで?」
「何故、クソガキさまはそこまであの2人に固執するんですか
……
」
とうとう言ってしまった。
そこからは口から色々と溢れて止まらなかった。
「自分を見てくれない人が誠実なわけないでしょ」
とか
「そんな一方的なものに対して“強い”だとか“たからもの”って本当に言えるんですか」
とか
「クソガキさまはおかしい」
とか
……
言っちゃいけないことをたくさん言ってしまった。
そんな酷い言葉をたくさん投げかけた俺に対して、クソガキさまは微笑みながら
「“俺が”あいつらと一緒に居たいんだ」
と、酷く優しい声で答えてきた。
▫︎
あれからずいぶんと日が経った。
どういう成り行きか、俺とクソガキさまはライやセロリたちと共にパルデアの侵入禁止区域に入り込んで
……
いつのまにか世界を救っていた。
そしてこれまたどういう風の吹き回しか、ライとセロリがまさかのキタカミへ行った。
それに関してはどうもクソガキさまのことが関係しているらしい。
昨日の夜に俺とクソガキさまで2人を見送ったとき、2人の瞳はあの時からだいぶ変わったように見えて、思わず自分の目を強く擦ってしまった。
そんな2人がキタカミにいるであろうあいつらに会ったらなんて言うだろうか。
まああいつらはもうとっくにキタカミから去っているかもしれないけれども。
それでも、淡い期待を胸に2人を見送った。
その翌朝。
久々にアカデミーの寮で全員で食卓を囲んだ。
コライドンは何故かエリアゼロの一件から憑き物が落ちたかのように大人しくなり、今では口輪を外してみんなでご飯を食べられるようになっていた。
ニフルに関しても、これまでクソガキさまがニフルの癇癪に根気よく付き合ったおかげか食卓を囲むときは静かにご飯を食べることが出来るようになっていた。
俺はというと昨晩のあのときの2人の瞳が何故か忘れることが出来ず、悶々とした感情を抱えながら机に突っ伏すように椅子に座った。
と、机に突っ伏している俺の目の前に、突然見慣れないポケモンフーズが置かれた。
置いたのは当然クソガキさまだ。
「
……
クソガキさま、これはなんです?」
というのも、現代の市販のポケモンフーズでは俺の体質に合ったものはなかなかお目にかかれない。
かつ、俺は苦味のある食い物が好きだから
……
俺がポケモンフーズを食う時は大体固定の同じポケモンフーズばかり。
最近飽きてきてはいたものの、ポケモンフーズは普段食ってる手作り飯では得られない栄養を補うサブとしての役割なのでまあ仕方がないかと割り切っていたところなんだけれども
……
。
「それ新作フーズらしいんだけど、ヤツフサの体質と味の好みにドンピシャで合うと思うから食ってみろよ」
クソガキさまはイタズラ小僧みたいな笑顔を浮かべながら俺の前に置かれたポケモンフーズをビシッと指差した。
「え?なんで俺の体質と味の好みに合うってわかるんですか?」
当然の疑問だった。
俺は訳あって過去から現代にタイムスリップしたような存在なのもあってか、現代のフーズの成分が合わないことがしばしばある。
そのうえ味の好みに関しては、ひとことで苦味といえども多種多様の苦味が存在していて、苦味が強いポケモンフーズのなかにはあまり好きじゃない味も存在していた。
それこそ毒タイプの俺ですら思わず毒状態にでもなるんじゃないかと思えるほどの2度と食いたくないフーズもあった。
そんでもって、そもそもポケモンフーズはヒトの食うもんじゃないし、そういう体質や味の好みを上手く伝えようにもどうしても難しいと思っている。
特に子供のクソガキ相手には。
だからこそ特定の固定のフーズばかり買ってきてもらってたんだけれども。
でも今回のクソガキさまはまるで「絶対にヤツフサに合う」と確信している顔だった。
俺はフーズの封を開け、恐る恐るフーズを口にする。
すると。
「
……
うんっっっま!?!?」
「だろ?」
驚いた。
確かに俺好みの味ドンピシャだった。
しかも身体に不調は今のところ見られない。
「よくわかったな!?新作で俺に合うやつ見つけるとかなんなんだ!?」
思わず敬語が外れるほどに驚いた。
そんな俺を見てクソガキさまはあっけらかんと答えた。
「この前、俺がポケモンフーズを食って体調不良になって迷惑かけたことあっただろ?」
まさか
「あの時、ヤツフサの味の好みとか合うフーズの傾向とかわかったから」
……
。
「えっっっ!?!?まさかあのときのあれで!?!?!?」
「そうだぜ」
驚いて口をぱくぱくとさせている俺を横目に、クソガキさまはまるで当然かのように答えてくれた。
「アカデミーの本棚で色んな本を読んでたときにとある本に『ポケモンの体調管理をするのはポケモントレーナーのお仕事』って書いてあってさ、その中にポケモンフーズを微量食べて自身のポケモンに合ったフーズを把握するトレーナーの話があったんだよ。そのトレーナーのポケモンは他の地方から連れてきたからパルデアで売ってるフーズで合うものを見つけるのに苦労したらしくて
……
ポケモン自身も何度も体調を崩したらしくてさ」
「それを読んでふとヤツフサたちのことが頭に浮かんでさ、そういやシティ以外は故郷がパルデアとは別だからな〜って」
「それこそヤツフサも俺が買ってきたフーズが合わなくて何度か体調崩してたろ、それがずっと頭に残ってて申し訳なかったからあの時ヤツフサが普段リピートしてるフーズを試しに微量食ってみて把握しようとしたんだ」
本に記載されてた量だと俺には多かったみたいだけどな、とクソガキさまは苦笑した。
……
俺がポケモンフーズで体調崩したとき、確かあの時の俺はクソガキさまには「まずい」としか言わずに体調不良を隠し通したはずだったのに。
気がついていたのか。
そしてそれをずっと気にしていたからあの時ポケモンフーズを食ったのか、俺のトレーナーとして。
マメパトが豆鉄砲を喰らったような顔をしている俺を見てクソガキさまは満足げにニコリと微笑むと、今度は別のポケモンフーズをそれぞれコライドンやニフルたちの前に差し出す。
「これ辛口味だけどこのフーズなら口の中や胃腸が火傷状態とかにはならないと思う。俺も味見してみたけど大丈夫そうだったから買ってみたよ」
「このフーズ、サワロ先生やビワにも相談してみたんだけど
……
これならコライドンにとって十分な栄養が取れると思う」
俺たちポケモンは治癒力がヒトより高い。
だからこそ、フーズで体調を崩すなんてこと、ヒトの子の体調不良に比べれば些細なことだ。
そのことはクソガキさま自身も知識として十分に知っていると思う。
それでも、そうだったとしても、クソガキさまは時に身体を張りながら、俺たちの細かい変化を見逃さないくらいには俺たちという“個体”に真正面から誠実に向き合おうとする奴だったな、と。
それこそ、俺を迎えにきたあの時から。
「なんか顔赤くね?ヤツフサ」
「うるせえ、シティ」
▫︎
その日の昼頃、外は曇り空。
今日はアカデミーの休日なのにも関わらずクソガキさまはオモダカという人物に呼び出されたらしくアカデミーの校長室へと出かけて行った。
それを見送って数分後、クソガキさまが忘れ物をしたことに気がついて「まあ持っていってやるか」と俺ははじめてひとりでアカデミーの校舎内を歩き回り校長室の前へと辿り着いた。
この前のシティとの潜入捜査のおかげで楽々と道がわかった。
通りすがりの生徒たちにはドン引きされていたが無視だ。
「失礼します。クソガキさま、忘れ物ですよ」
普通にノックをして普通に声をかけるつもりだった。
だけど、微妙に開いていた扉から聞こえた会話を聞いた瞬間、俺は瞬時に扉の影に隠れ潜み、部屋の中の会話を盗み聞いた。
「ユリさん、貴方はかつてヒトを殺めたポケモンを自身のポケモンにしていますね。それこそニンフィア以外のポケモンは全員そうではないでしょうか?」
バレていた。
俺たちのこと、ぜんぶバレていた。
心臓が痛い。
オモダカと思われる声の主は言葉を続ける。
「このパルデアに生息しているポケモンの中にはヒトを殺めたことのあるポケモンは少なくはないです。けれど、貴方のポケモンはその中でも特に事件性が大きいポケモンばかりですね」
そんなオモダカの問いかけに対し、クソガキさまは「はい」としっかりとした受け答えをしていた。
「ヒトを殺めたポケモンを手持ちのポケモンとして迎え入れることそのものを責めるつもりは一切ありません。問題は
……
バトルの場以外で自身のポケモンたちを他の生徒やそのポケモンに会わせましたね?」
あのことだ。
ライとセロリと会ったあのときのことだ。
オモダカの指摘はそれこそ俺が杞憂していたことそのことだった。
俺たちみたいな前科モンをクソガキさまひとりが抱える分にはそれで何があろうとクソガキさまの自業自得だ。
ただし、他者に会わせたりして相手に大怪我をさせるなんてことは絶対にあってはならない。
ライやセロリは今ではパルデアチャンピオンの1人とはいえども、そもそもクソガキさまと同時期に入学したばかりのアカデミーの生徒。
そしてクソガキさまも今ではパルデアチャンピオンといえどもまだ10歳の子供。
俺たちを心から信じているからこそライやセロリたちに俺たちを会わせたのだろうが、俺たちにはハッキリとした前科がある。
いくら普段どれだけ大人しくしていようが、前科がある俺たちが何かをしでかさないとは
……
正直誰も信じられないし断言出来ないと思う。
それに対して何かあったときにわずか10歳で新入生であるクソガキさまひとりが対処や責任を負えるわけがない。
何か起きてからでは全てが遅いのだ。
オモダカの強めの問いかけに対し、扉の外にいる俺はもう過呼吸寸前だった。
しかし、扉の外の俺の存在に気がついていないはずなのに、まるで俺に発破をかけるかのようなハッキリとした鋭い声で、“ユリ”は堂々とした振る舞いでオモダカに言い返し始めた。
「
……
確かに軽率で迂闊な行動だったかもしれません」
「ですがオモダカさん、その発言はライやセロリ、彼らのポケモンたち、そして俺と俺のポケモンたちをあまりにもみくびっていませんか」
びっくりした。
かつてここまで誰かにハッキリと言い返したことがあっただろうか。
普段は他者に自身の意見を伝えるのが苦手なクソガキさまが。
しかも明らかに目上のニンゲンに対し、はっきりとした声で進言をしている。
オモダカは「
……
続けてください」と少し声に笑みが溢れつつもユリの言葉を促した。
「確かに俺のポケモンたちは一般人に会わせるには少し扱いが難しく危険な部類かもしれません。彼らのことを過信している部分もあります」
「しかし果たしてライとセロリは一般人という枠なのでしょうか。今はともかくとしてあの時は確かに俺たち全員チャンピオンではなかったので一般人と言えば一般人かもしれません」
「ですが、セロリはベテラントレーナーでも扱うのが難しいとされているミニリュウやヨーギラス等のポケモンをバッジをほぼ持っていない状態で捕獲してそこから無事に最終進化まで育成した“強者トレーナー”です」
「俺のポケモンと会わせたときにはセロリのミニリュウはカイリューへと進化していて、俺のポケモンたちに対して互角に戦えるほどの圧倒的な強さを持っていることを俺はあの時点で事前にしっかりと確認をしています」
「そしてライですが、彼もまた熟練の先輩トレーナーから譲り受けた強いポケモンたちからも慕われる“強者トレーナー”です。熟練のベテラントレーナーから新たなトレーナーに譲り渡されるとき、ポケモン自身が強ければ強いほど新たなトレーナーに強く反発します。それは俺も身をもって知っていることです」
「ですが、ライとそのポケモンたちは違った。ライに譲り受けられたポケモンたちはライに対してすぐに心を開き、常に彼の旅路の力になろうと彼の隣を歩んでいた」
「セロリもライも、ポケモンと真っ直ぐに向き合う真の“強さ”がある。だからこそ彼らは『チャンピオン』になり得た」
「彼らのポケモンたちは扱いが難しいのにも関わらず、ライとセロリはそんなこと関係なく真っ直ぐにポケモンと向き合って心を通わして、チャンピオンになれた」
「そして俺自身も、俺のポケモンたちと真正面に向き合ってきた。彼らの性質、本質、個性、気質、言動
……
それら全てを理解出来るのはこの世で俺だけと自負しています」
「コライドン、ヤツフサ、ニフル、シティ、ぽにこのことは俺が1番わかってる」
「あいつらに何かあったときには俺が真っ先に気がついて対処するし、逆にあいつらは俺に何かあったときに真っ先に気がついてくれる」
「
……
視点を変えれば彼らも彼らのポケモンたちも“俺たち”と同じです。彼らは俺と同じく“扱いが難しいポケモンを迎えた新入生”です」
「“一般人”という枠では収まらないでしょう。俺たちも、彼らも」
「扱いを間違えると大事故に繋がる気難しいポケモンを扱っているという点では、俺も彼らもどちらもリスクとしては対等の立場だと思っています」
「そして互いにその危険性や強さを認め合っているから、ライとセロリだから、俺のポケモンたちだから、だから会わせました」
「ライとセロリの強さ、彼らのポケモンたちの強さ、そして
……
俺自身と俺のポケモンの強さを認めているからこそ、会わせました」
「俺たちは“強者”です。パルデアを照らす
光
宝物
」
「ライもセロリも、そして俺と俺のポケモンたちも」
「なので俺たちのことをみくびってもらっては困ります」
……
。
クソガキが語るその理屈は実に穴だらけで、例えば「扱いが難しかろうが前科持ちとカタギじゃ全然違うだろうが!」とか「それなら全員迂闊だったってことだろうが!」とか、そういうツッコミは出そうと思えばいくらでも山ほど出てくる。
でも、そんなことより。
あのクソガキが、自身のことを“強者”として。
ライとセロリのことを、格上ではなく対等な立場として見ていて。
俺たち全員を、パルデアの
光
宝物
だと、自信満々の声でそう叫んだ。
それを聞けて本当に良かった、そう思った。
ふと顔を上げて窓の外を見てみると、曇り空から快晴に変わったというのに、何故かお天気雨が降っていた。
その日の夜。
案の定寝付けないのでボールから飛び出して外の空気でも吸いに行こうとしたら。
「ヤツフサ、眠れないのか?」
クソガキさまがベッドの上に座っていた。
クソガキさまの後ろの開いた窓からは綺麗な星空がきらきらとその輝きでクソガキさまを照らしていた。
「
……
もしかしてクソガキさまも眠れないんですか」
「いや、喉が渇いて目を開けたら空がすごく綺麗だったからそのまま眺めてた」
「
……
そうですか」
クソガキさまから「座れよ」と促され、俺はベッドに乗り上がりクソガキさまの横に座った。
しばしの間、沈黙が訪れる。
思い返せば先日もその前もこうだったか。
ベンチに2人並んで座って
……
語り合って。
あの時と違うのは、座っているのはベンチではなくベッドなこと。
そして、俺の心の中は夏昼間になっていることだ。
俺がライやセロリを認めたくなかったのは
……
嫉妬もあるけれども。
あの2人を“強者”だと、“たからもの”だと認めてしまったら、それなら目の前のクソガキは一体どういう立場なのだろうかと俺自身が混乱してしまうからだったと、今では思う。
俺が『クソガキさま』と一種の敬愛を込めて呼ぶその相手が弱いわけがないと、認めたくなかった。
かつて俺を2度も焼き焦がしたこいつが、ポケモン相手ならまだしも
……
他のニンゲン相手にヘコヘコする姿なんて、他のニンゲンを“強者”として認め自身を“弱者”として称するなんて
……
絶対に認めたくなかったのだろう。
だからこそ、クソガキさまが風邪を引いたときに見せた弱った姿から不安を覚えて、そこからアカデミーの潜入に繋がって
……
そして、クソガキさまが“
強者
たからもの
”と称しているライとセロリに対して醜い感情を抱いた。
俺は良くも悪くも『いぬポケモン』らしい。
いぬポケモンは、自身の“トレーナー”として認めたニンゲンに対して大なり小なり忠誠を誓う性質がある。
そして自身のトレーナーの強い姿を理想とし、その理想が崩れることを恐る。
俺自身もその性質が多少はあったみたいで、このクソガキ相手に勝手な理想を抱いてる自分自身に向かって思わず苦笑した。
……
昼間のことを思い出す。
最初に感じたように、このクソガキの強いところはやはり“個々の持つ輝きを見出し、心から信じる”ところだと思う。
それこそ、クソガキさま自身が俺たちと心を通い合わせることが出来た自分自身を“強者”と称したことも含めて。
自分自身の持つ輝きをクソガキさまなりに見出して信じている。
それが出来るのは並大抵のことではない。
ライやセロリは自身の輝きを自覚しているけれどもあれはあの2人が特異側であり、本来なら一般人にとって自身の持つ輝きを自覚しそれを信じようとすることは並大抵のことではない。
ましてや自身が自覚している輝きを人前で堂々と宣言するなんて一般的なやつならその前に羞恥心が働いてしまう。
その難しさを俺自身もよく知っているからこそ
……
他者が持つ個々の輝きや強さを見出すのが得意なクソガキさまが自身の輝き強さをしっかりと自覚して、それを歳上相手にも臆することなく自分の言葉でしっかりと発言したことが、今の俺にはとても誇らしい。
その内容に穴があるかないかはさておいて。
他者の強さも、自身の強さも。
輝きも。
それを認めること見出すこと褒め称えること。
それを信じること。
俺個人としてはそれらが出来る者こそが“強者”だと思うし、そう思うと大なり小なりそれが出来るクソガキさまはやはり“強者”なのだと再認識した。
ライとセロリとそのポケモンたちの強さも、クソガキさまと俺たちも、“対等の強さを持つ強者”だとクソガキさまは信じ認めている。
だからこそクソガキさまなりの誠実と誠意で俺たちを会わせた。
そして、ライとセロリの本心は本当のところはどうなのかわからないけれど、クソガキさまのこういう部分をどこかしらで感じ取ったからこそ彼らはあの時自身のポケモンを連れ寄って集まったのだとしたら。
彼らの間に何かしらの信頼や自信が存在していたから、だから俺やコライドンに対しても臆さずに接してきたのだとしたら。
それこそ、キタカミに旅立った2人の瞳が違っていたのも、それが理由のひとつだとしたら。
とても嬉しいと、俺は思う。
「ヤツフサ、夜食たべるか?」
突然クソガキさまはそう言ってにんまりと微笑みながら懐から新作のポケモンフーズを出してきた。
もちろん俺が好きなやつ。
「えぇ?クソガキさまもそれ食うんですか?」
「んなわけないだろ。食ったら前みたいに体調崩してヤツフサたちにまた迷惑かけるだろ。流石に俺は別のやつ食うよ」
「はは、そりゃそうですよね」
行儀が悪いけれども、2人仲良く並んでベッドの上で夜食を食った。
「クソガキさまって意外と俺たちのこと滅茶苦茶好きなんですね〜」
「そうだぜ、知らなかったか?」
「ここ最近まで全然知らなかったですね〜」
「へへ、そうか」
「
……
ヤツフサにも、俺の知らない一面があるんだろうな」
「さぁ、どうでしょうかね」
「お前だけ俺のあれこれを勝手に知ったの不公平だと思わないか?」
「それでもまだ全部じゃないでしょう」
「さぁ、どうだろうな」
「それを全部見せてくれたら考えます〜」
「
……
ヤツフサ、言ったな?」
その時のクソガキさまの瞳は
……
星明かりに照らされてまるで蒼い黄玉かのようにキラキラと輝いていた。
その時か、俺がその宝物を心の底から「欲しい」と欲している己の心をはじめて自覚したのは。
おわり
与太話
オモダカさんはユリ兄さんの発言に対して「“一般人”とは一言も言ってませんよ、チャンピオンユリ」とニコニコご満悦でした。
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