冨岡があまりにも俺が作る飯を美味そうに食うから何となくまた作ってやろうかなとなり、そのうちにそれが月一から週一になり。気付いた時には恋人として同じ屋根の下で暮らしているのだから人生何が起こるか分からない。
そして恋人になった今も冨岡は相変わらず作った飯を美味そうに食うし、そして言葉を尽くして礼を言ってくれるから俺も悪い気はしない。
「母さんも姉さんもとても料理が上手だった。でも不死川の味付けが一番食が進む」
「そーかよ」
まァ、姉さんと俺との間に歴代の彼女も居るんだろうがあえて口に出さないのはデリカシーがあってよし。俺も進んで聞きたいことでもないし。
ここのところ残業続きで疲れていた様子だったので今日は肉がゴロゴロ入ったビーフシチューにしてやった。ちゃんとルーを使わずに作るやつ。匂いで分かったのか玄関を開けるなり「ビーフシチュー!」と叫んで入ってくるから腹を抱えて大笑いした。
元々冨岡は和食好きだったが、マンネリを避けるために色々作っているうちに洋食でも好きなものが増えた。中でもこの手間をかけたビーフシチューは前回作った時に何回もおかわりするくらい気に入ってくれたので嬉しい。
春の部署異動で俺は割と定時で帰れるようになったのだが、冨岡は更に忙しい部署所属になってしまい、今日も本当は休みなのに休日出勤をさせられていたのだ。疲労からか目の下の隈が濃い。それでも冨岡の顔はイケメンのままだからすげェなぁと感心する。
「手洗いとうがいをしてきた」
「えらいえらい」
シチューを温め直していると部屋着に着替えた冨岡が背中にべったりと張り付いてくる。付き合う前もよく張り付いていたからこれは冨岡の癖なのかもしれないが、この体温が心地良いので抵抗もせずに好きにさせていた。
それでも恋人になった途端、不埒な手がエプロンの下に潜り込もうとしてきたり、うなじに顔を突っ込んで匂いを吸い込もうとしてきたりするから若干の変態度が上がっている気がする。
「なァ」
「うん?」
冨岡は俺のことめちゃくちゃ好きだよなァ、そんな軽口が溢れそうになって慌てて口を閉じた。
いや、それを聞いたら恥ずかしいだろ流石に。自意識過剰。自惚れ過ぎ。そんな言葉が頭をよぎる。
そもそも冨岡は元はノンケだしツラが良いし仕事は出来るしで、なんでわざわざこんな強面ゲイの俺と付き合ってるのか分からない。
俺は入社式以来の片思いをしていたが、冨岡はなんで、いつ俺のことを好きなったのだろう。怖くて聞いたことが無かった。
理由はなんであれ、今は俺のことを好いてくれて恋人になってくれているのだからそれで良いじゃないか。そう言い聞かせてここまできている。今更、怖い扉をこじ開ける必要はない。
でも、時々。冨岡は単に俺のご飯だけが目当てだったりして、なんて思ってしまうこともある。我ながら上手いこと冨岡の胃袋を掴んでしまったから。
あと、家事能力も高いんだよなァ。美味い飯と綺麗な部屋が維持できて、あと欲を発散させるのに向いた頑丈な身体。
あ、だめだ。またちょっと落ち込んでる。
片思いの時も思い詰めたことがあったけれど、両思いになっても不安ってやつは消えないんだなァ。それもこれも冨岡と釣り合ってない自覚があるからかもしれない。
鍋をかき混ぜている手に冨岡の手が重ねられる。
「焦げそうだ」
「あ」
危なかった。暗い思考に引き摺られて唯一かもしれない料理を台無しにするところだった。すぐに火を止め、冨岡に座るように促す。
けれど、冨岡は俺の背中から離れなかった。
「何を考えていたんだ?」
「え?」
「今、何か考えごとをしていたから焦がしそうになっていたんたろう? 不死川にしては珍しい」
「ごめん」
思わず謝罪の言葉がするりと出てきてしまったが、冨岡は何も言わずに俺の身体を反転させると正面からぎゅっと抱きしめてきた。
「妬ける」
「は?」
「不死川が俺以外のことを考えていたのかと思ったらすごく妬ける。とても妬ける。嫉妬する」
「へ?」
口数の少ない冨岡にしてはやけに早口で捲し立ててきたから、一瞬なにを言われたのか分からなかった。
「不死川の頭の中を俺だけにしたい。俺の頭の中はいつだって不死川で一杯なのに」
好きだ。腕の力を強めて、冨岡は子どもみたいに言ってくる。いや、子どもそのものだこれは。駄々を捏ねている。弟や妹で散々見てきたのと似ている。
あれ。もしかしてこれは例の事を聞くチャンスなのでは? そう思ったら聞かずにはいられなかった。
「冨岡はさァ、いつ俺のことを好きになったんだ?」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられたまま、ずっと気になっていた事をようやく口に出来た。
冨岡の顔が見たい。でも腕の力を緩めてくれないせいで顔が見えない。
「……だ」
「え?」
「入社式で、俺のネクタイを不死川が直してくれただろう? あの時の……不死川の笑った顔がとても綺麗で、忘れられなくて。あれ以来ずっとこうやって抱きしめたいと思っていたんだ」
一目惚れだ。人生初めての。
こんなに好きになったのも初めてだ。
好き過ぎてどうしてくれる。
ぎゅっと抱きしめて離してもらえないのは恥ずかしいから? そう思うくらい、ぴったりくっついている冨岡の心臓の音が早くてうるさい。
そして、多分。俺の心臓もすごく早くてうるさいだろう。
だって、こんなに嬉しくて幸せなことってあるか?ない。ないよ。ああもう俺こそどうしてくれようか。
「ばーか」
両腕を冨岡の背中に回す。
「冨岡の頭の中を俺だけにしたい。俺の頭の中はいつだって冨岡で一杯なのに」
言われた言葉をそのまま返してやる。
もうちゃんと恋人同士なのに、俺達はなにをやってんだか。アオハルか。恥ずかしいわ。
せっかく温めたシチュー、冷めちまうなァ。
そう思ったけれど、どうにも止められなくて冨岡の後ろ髪を掴んで噛み付くようなキスをした。
いつも通り不埒な冨岡の手がエプロンの下に伸びてきたけれど、むしろ俺はそのまま入ってくるのを手伝ってやる。
だって無理だから。
ここで止まるなんて、無理。
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