燈 ともしび
2026-05-26 21:34:05
1840文字
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ぎゆさね【仲良し日和】

キ学軸。仲良しする日

 マジか。
 少しだけそう思ったが、明日は久しぶりに二人揃って完全休みだから二日酔いになっても何も問題などなかった。
 ワインに日本酒、ウイスキーと果実酒。
 綺麗に並べられた酒のボトルはどれも別々に頂いたものだ。いつか飲もう。そのうち飲もう。そう思いながらも突然休日出勤になるわ、体調を悪くするわでいつもそのうちも来ないまま、気付いたら今日になっていたもの。
 冨岡も俺も飲むのは好きだ。でも若い時と違って酒が抜けるのに時間がかかるようになってきたし、休みが休みでは無いことが増えて気軽に飲めなくなっていた。酒を飲むのも体力が要る。そんなことに気付きたくなかったが仕方ない。
 完全休みと美味い酒。ならば今日は色々忘れて美味しく飲むしかない。二人の意見が一致したので、まずは少し離れた単価高めのスーパーへ買い出しに行くことにした。
 普段はお手軽価格のスーパーを利用しているが、ここのスーパーは近所ではあまり見かけない食材などが揃っているので店内を回るだけでも楽しい。毎日買い物をしていたら食費がえらいことになるが、こうして特別な日になら好きに選んで買うことにしていた。
 お互いカゴをひとつずつ持って解散。魚介好きな冨岡は真っ直ぐ鮮魚コーナーへ向かっていたが、俺は野菜コーナーを優先する。この店の野菜は鮮度がとても良い。あと店内に野菜ソムリエが常駐しているので珍しい野菜の調理法などが聞けるのが楽しい。料理をするのは割と好きだからこうしてメニューの幅が広がるのも嬉しい。
 その後はオリーブオイルやチーズも追加する。肉を選ぶのは合流してからにしておいたが、魚介と野菜だけでつまみは充分かもしれない。
 そして案の定、冨岡はカゴにどっさりと魚介を詰め込んできたので大笑いした。分かりやすいやつ。この前、新しくフリーザールームの大きな冷蔵庫に買い替えておいて良かったなァと頭をぐしゃぐしゃに撫でておく。魚介を選ぶのは俺より上手いから任せて良かった。

 後部座席に積んでおいたクーラーボックスに買ったものを氷と共に押し込み、帰る。
 今気付いたがドライブするのも久しぶりだ。
 普段は電車通勤だし、あまり使わないからと一緒に暮らす時に冨岡が愛車を手放そうとしていたのを止めたのは俺だった。学生時代に買ったという国産車。高級車ではない。古いから乗り心地もあんまり良くないし、故障も多い。
 でも、冨岡が初めて買って、ずっと大切にしてきた車。冨岡の思い出をずっと一緒に見てきた車だ。手放したら駄目だと思った。
 だって乗る時の冨岡はいつも優しい顔をしているから。
 今使っているクーラーボックスも昔から大切にしているもの。物持ちが良い。物を大切にする冨岡らしい。そういうところも好きなところだから、そのままでいて欲しいと思う。

「なァ」
「うん?」
 スーパーから出てすぐ赤信号で停まった。この信号は長いから間に合うかな。
「少し遠回りして海沿いで帰ろうぜ」
 買ったものは氷と一緒にクーラーボックスに入れた。なら少しくらい遠回りしても大丈夫なはず。昔ながらのちゃんとしたクーラーボックスは見た目が古くても性能が高い。
「それはデートのお誘いだろうか」
「もちろん。デートしようぜ冨岡ァ」
 まだ赤信号だから冨岡はこっちを嬉しそうに見て笑う。
 今日は天気も良いし、海も綺麗だろう。どうせ帰ったら酒盛りするだけだ。ならドライブデートするのも悪くないだろうよ。
「仲良し日和か」
 珍しく冨岡の言い方が可愛かったので、まだ信号が変わってないのを良いことにその頬にキスしておいた。
「仲良し日和らしいことしとくわァ」
 冨岡はキスされた頬に手をやって口をパクパクさせていたけれど、残念。信号は青になったから反撃は出来ずにおしまい。
「帰ったら覚えてろ」
 前を向く横顔の目元が赤い。可愛いやつ。そこも好きだ。
「なァ、帰ったら二人でたくさんつまみ作ってたくさん飲もうなァ。でもなァ、俺がめちゃくちゃ酔ったらどうする?」
 いつもより甘めな声を意識して。運転を邪魔しない程度に近付いて言えば、冨岡は
「バッ!」
 と叫んてもう前しか見なくなってしまった。
 可愛い。可愛い。ほんと、そういうところなァ。
 ゲラゲラと笑いたくなったけれど、これ以上揶揄うと本当に明日立てなくなることを知っていたのでその後は黙ってドライブデートを楽しんだ。
 今日も明日も、絶好の仲良し日和だった。