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燈 ともしび
2026-05-26 21:31:26
3115文字
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ぎゆさね【癒し】
キ学軸。甘め。春の🍃さん🥧祭参加用のお話です。
ダイニングテーブルに向き合って座り、不死川作の美味しい朝食を食べる。
不死川が早出ではない限りこうして作ってくれるのだが、とてもありがたい。お陰で最近肌艶が良くなったと宇髄に褒められた。これは確実に不死川の作ってくれる味も彩りも栄養バランスも良い食事のお陰だと思う。
いつも美味しいが今朝もやっぱり美味しい。不死川の好きなところを上げたらキリがないが、手料理がとても美味しいところも間違いなくランキング上位に入っている。恋人が料理上手で味付けも俺好みだなんて俺は本当に幸せ者だ。
「冨岡はさァ」
「うん?」
ふわふわの焼き鮭を美味しく咀嚼していたら目の前から呼びかけられて慌てて飲み込む。少し勿体無いが不死川との会話も好きなので。
「
……
たくねェのか」
「え?」
いつもハキハキと話すのに今朝は珍しく歯切れが悪い。こんなことは珍しい。いつもは俺がモゴモゴ話して「ちゃんと喋れ」と怒られるのに。
「すまない。何を」
思わず聞き返すと箸を置いた不死川がいきなり立ち上がってこちらまで来る。
え、本当になんだ。分からなくて狼狽えていると着ているジャージの胸元を掴んで引き寄せられてしまった。
「しな」
「だからァ! てめえは俺としたくねェんかよって聞いてんだ!」
「え、したいに決まっているだろう」
初めは何を言われたのか分からなかった。それなのに頭が理解するよりも早く本能が返事をする。
したくないのか、とはつまりその、そういうことだろう。そう言われたら答えは一つしかないのだから即答するしかない。俺があまりにも早く、さも当然のように返事をしたものだから不死川の方が呆気にとられて固まっている。
「え、」
「いや、したいの一択だが」
俺の襟元から手を離してずるずると座り込んで、なんだか深いため息をひとつついて。
見ていたら呆れているのかと思った。でも不死川の耳が真っ赤だからすぐにそれは違うと分かる。
「一年だぞ
……
」
「一年」
「冨岡と恋人になって半年。で、そこから一緒に暮らし始めて半年。合計一年間、てめえは俺に対して抱きしめる以外のアクションを起こしてこなかったんだぞ! もしかして俺と」
不死川と距離があるままにする話ではない気がして、俺も椅子から降りて同じ目線になるようにしゃがみ込む。下を向いていた不死川は顔を上げてくれた。赤い。あとなんか泣きそうな顔をしてる。
「俺と、なんだ?」
泣かせたくないから出来るだけ優しい声で話すように気を付けた。嬉し泣き以外泣かせたくない。
不死川の身体がゆっくり前に倒れ込んでくるので両腕を広げて受け止めた。ハグは大好きだ。落ち着くし、不死川の体温も匂いも気持ちが良い。
「し、たくねェのかなとか、思って
……
」
「そんなわけないだろう! ただ」
「ただ?」
「その、俺は不死川に嫌われたくないからあまりそういった欲を表に出さないようにしていただけだ。不死川が遊びで人と付き合うような人間だとは思わないし、俺と付き合ってくれるというのなら、そういう気持ちになった時まで待てば良いんだと思っていたんだ」
恥ずかしい告白に今度は俺が顔を赤くする番だった。顔や耳が熱い。先ほどの不死川くらい顔が赤くなっているだろう。
でもこの答えは不死川が求めていた正解だったらしい。両腕で俺にしがみついてくる。
「冨岡ァ」
「うん」
「好きだ」
「うん。俺も大好きだ」
ぎゅっと抱きしめあって気持ちを確認する。いや、最高に幸せなんだが。顔がニヤけてしまいそうだ。
「あの、さ」
「うん?」
「冨岡は、その、俺のこと
……
抱きてェの?」
「出来るなら、抱きたい。だが、少し前に調べてみたんだが同性同士で抱き合うには準備が必要だと書いてあった。おまけに慣れないうちはかなりの痛みを伴うと。俺は不死川を抱きたいが苦しませたい訳ではないんだ。だからもし俺に抱かれても良いと思ってくれたら、そこからゆっくり準備をして」
「俺は大丈夫」
「え」
「
……
冨岡の部屋のパソコン、前に借りた時に検索履歴消してなかっただろうがァ。見えちまってたんだよ」
ダラダラと背中に汗が流れる気配がする。
確かに以前、不死川のパソコンの調子が悪くて調べ物をするのに俺のを貸した記憶がある。その前に、確か検索していたのは。
「男の抱きか」
「わぁあああああ! 強欲ですまない!」
先ほどまで見栄を張って紳士的に振る舞ったつもりだったのに、俺の欲は不死川にはすっかりバレていただなんて。
俺の慌てようを見た不死川はケラケラと笑い、
「気にしてないっての。それより」
また俺にしっかりと抱きついて。
「すげえ嬉しかった。冨岡が俺にちゃんとそういう気持ちでいてくれたんだ、って分かって」
俺はこの通り厳つくて傷だらけだからよォ。やっぱり間違いだったって言われるかと。
そんなことを言うから俺も不死川をもう一度抱きしめ返した。
「不死川が大好きだし、愛おしいし、あと抱きたい」
「うん。良いよォ」
へへ、と言葉では笑っていたが不死川は少し泣いていた気がする。怖がらせないように気を遣っていたつもりで恋人を不安にさせていたのか、俺は最低だ。
「冨岡ァ」
「うん」
「今日さァ受け入れるには準備が不足してるし明日も仕事だから抱かれてやれないけと」
「うん」
「帰ってきたら、たくさん触って。俺に」
「うん。たくさん触れたい。ありがとう」
泣き笑いで顔を見合わせて、そして触れるだけのキスをした。
約束のキスだ。
この後、もう出勤しなくてはいけなかったから急いで食事を終わらせて慌てて家を出て。
「約束」
って薬指同士で指切りをした。
それが今朝の話。
仕事のほうもちょうど春のバタバタ忙しい時期が終わったところだったから、お互いほぼ定時で帰宅した。
ただし俺は部活の打ち合わせがあったので不死川よりも少し帰宅が後になってしまったのだが、玄関まで出迎えてきてくれた不死川は風呂を終わらせてほこほこ美味しそうな姿になっていた。
「おかえりィ」
「た、だいま」
今朝、あんなやりとりをしたからか、不死川を見ると一気にあれこれの妄想が頭を過ぎる。
「顔ォ」
「顔?」
「腹ペコの顔ォ」
頬を指で突かれて笑われた。腹の虫もタイミング良く鳴る。確かに腹も空いていた。
「風呂入ってこい。汗かいただろ。その間に温め直すから」
「うん」
返事の後、脳内で『なにより先に不死川を食べたい』と付けてしまったが、声に出すのを堪えられて良かった。
風呂上がりに食べた海鮮の餡がかかった焼きそばはとても美味しかった。美味しすぎて思わずおかわりまで食べてしまったが、俺の頭の中は不死川でいっぱいだった。
「腹ペコの顔ォ」
風呂に入る前と同じことを言われた。でも今度のこれはきっと。
ぎゅっと不死川を抱きしめる。不死川は笑っている。
「ベッド、行こうぜ」
「うん」
返事はしたものの、声は情けなく震えていなかっただろうか。あと、欲が出てしまって怖がらせてないだろうか。
心配になって不死川を見るが、不死川はまだ笑っている。そうして笑ったままベッドに並んで座って。
「冨岡ァ」
「
……
うん」
「触って。好きにして俺のこと」
好きな人に両腕を広げて貰ってそんなことを言われたら、もう色々止められない。
「好きだ」
そう言って不死川にキスをして。一番触りたかったところ。不死川の柔らかそうなふわふわの胸に飛び込んで。
「冨岡ァ、好き」
って頭を抱きしめられたから幸せで泣きたくなった。
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