雨鶴
2026-05-26 19:18:37
981文字
Public 小話
 

狐の窓

没ネタのひとつです。

図書委員会では毎月、金楽寺に赴いて子供達に読み聞かせを行っている。お伽噺、寓話、合戦記、昔話など。
読み聞かせが終わると子供達に菓子を配る。これが目当てで来る子供も居るのだが、それでも話に興味を持ってくれればと昔からしているらしい。
ちなみに長次が一年生の頃には、すでにあった行事らしく。
当時の図書委員長に尋ねても、何時から始まった行事か分からないらしい。もしかしたら委員会創立からあったのかもしれない」
──との事である。

読み聞かせを終えて、雷蔵が菓子を配っている時、部屋の方で妙な手印を組んでいる長次の姿を目にする。
何をしているのか、と長次の側へ行って尋ねれば。
これは『狐の窓』と言ってな。怪異が化けている物を見極める術印だ」
「術印?」
長次の言葉に雷蔵は首を傾げた。
時々、菓子や果物が欲しくて狐や狸が人間に化けてやってくると昔、一年生の時に聞いた」
それは長次が一年生の時、六年生だった当時の図書委員長が教えてくれたこと。

『この辺りは狐が多い。昔から狐狸の類いは人を化かすのが好きだからな。用意した菓子や炊き出しを持っていかぬ様、こうやって覗きこんで姿を見極めるんだ』

歴代の先輩方は、出会った事が無いと仰っていたがな」
術印を解いた長次は腕を組みながら、お堂で菓子を食べる子供達や後輩達へと視線を向ける。
「そうなんですか」
へえ、と初めて聞く話に雷蔵は指を動かした。五年間、図書委員に属していても知らないことがまだまだ沢山あるものだ、と雷蔵は思った。
「中在家先輩~、このお菓子について聞かせて下さい」
子供達に囲まれた中で、きり丸が長次を呼んだ。雷蔵の隣から、長次が子供らの中へと入っていく。

「『狐の窓』かぁ
(これで三郎の素顔とか、見えちゃったりして?)
先程まで長次がしていた指の形を作り雷蔵は、お堂にいる長次を覗きこんで驚いた。
ふわり、ふわりと大きな狐の尻尾が六本。長次の後ろに揺らめいている。
「──っ!」
そんな雷蔵に気付いたか、長次は唇に指を当てて『しぃ』と蠱惑的に口端だけで微笑んだ。

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件のお題話の没ネタのひとつです。
本当は、もっと長かったんですが小話として消化しました。没とした結果は『長次じゃないモノ』が主人公と云うことなので。
妖怪大好物~。