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ritsuritsuka
2026-05-26 18:26:38
5483文字
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交際ゼロ日婚決定!
現パロジュナヨダ♀
ジュの様子がおかしい
原作のことは潔く無視しています
「親族と同じ人を好きになってしまったら、貴女ならどうしますか」
突然なに、知らんし、と思ったがドゥリーヨダナは沈黙を守った。目の前の真顔アルジュナが怖かったからだ。アルジュナはドゥリーヨダナの前だとだいたい真顔だったし、目が真っ黒で夜中の猫みたいで何を考えているか昔からずっとわからないし、あのビーマの実弟だ。
ビーマはドゥリーヨダナの幼馴染で、洒落にならないレベルでドゥリーヨダナと仲が悪く、なのに半分婚約者だった。
家の事情でドゥリーヨダナはビーマ含むパーンダヴァ一族から婿を取らねばならず、パーンダヴァ長子のユディシュティラは跡継ぎ故に除外され、すぐ下の次男坊であるビーマが抜擢されたのだが彼はかつてドゥリーヨダナに殺されかけている。更に言うなら幼少のドゥリーヨダナとその弟達もビーマに結構な怪我を負わされたことがあり、ドゥリーヨダナは未だにそれを酷く恨んで「ビーマと番うくらいならやつを川に沈める」と公言して憚らない。
それゆえに半分婚約者なのだった。双方が嫌がっているため破綻しかけだが周囲の大人たちはまだ諦めていない。そうこうしているうちにドゥリーヨダナは酒が飲める年齢になり、彼女の2つ年下のアルジュナもつい先日成人した。それを記念した祝賀会にドゥリーヨダナは嫌々出席し、ビーマと盛大に舌打ちをし合い周囲の空気を悪くしたりした。
パーンダヴァ三男坊という、兄らに比べれば気楽な立場であるはずのアルジュナは、何をどう間違ってか兄弟のうち最も生真面目に育ってしまったようだった。今もドゥリーヨダナをじっと感情の読めない目で見つめており、ドゥリーヨダナが先の質問に答えるまで逃がしませんよという気概を感じる。二人きりだしここは会員制のカフェテリアだしスタッフも近くにいないしで、ドゥリーヨダナに逃げ場はなかった。
なぜ妾様はアルジュナにのこのこついてきてしまったのか。まだぎりぎりパーンダヴァとドゥリーヨダナのカウラヴァ一族がギスついていない頃、平和だった幼少期に遊んでやった記憶は微かにあるが、最近は碌に会話すらしていなかった。そんなアルジュナに「私と話しませんか、ドゥリーヨダナ」と誘い出され、てっきり兄への態度への文句でも言われるかと思ったのに。
アルジュナがドゥリーヨダナから一切目を離さないので、諦めた彼女は「
……
あー、恋バナか?」と言った。
アルジュナは「恋」と呟いた。ドゥリーヨダナの帰りたさが三倍になった。
「そう、ですね。恋です。私は恋をしている」
ドゥリーヨダナは返事とも溜息ともつかない唸りを発した。全身をかきむしりたい。持ちっぱなしのティーカップに注がれた琥珀色の液体が揺れる。
妾様に言うな! 友人に言え! あんまり友達いなさそうだなおまえはだとしても妾様に言うな!!
実際のところアルジュナはドゥリーヨダナが思うほど陰の者ではなく友人も結構多いし、その友人にそれとなく相談もしており、その上でドゥリーヨダナはアルジュナに呼び出されているのだが彼女には与り知らないことであった。
「それで
……
親族と同じ人を好きになったら? 惚れた相手が身内と被ったからどうしようと」
「はい」
これがユディシュティラないしビーマからの相談であったら──彼らは死んでもドゥリーヨダナには相談しないだろうが──パーンダヴァの利権を奪うチャンスと前のめりにもなっただろうが、三男坊からこんなことを言われてもリアクションに困る。完全に無視しようにも巡り巡ってこちらに被害が及びそうな予感もし、ドゥリーヨダナは大きく息をついてティーカップを置いた。
「どうしようもこうしようもないわ。おまえはどうしたいのだアルジュナ」
「私は
……
」
これまでに散々自問自答を繰り返してきたらしい顔で、三男は「諦められそうにありません」と言った。
「彼女が
……
私が身を引いたとして、幸福になるかわからないんです」
「ほお。男なしに身も立てられん女なのか」
「いいえ全く。彼女は私の知る全ての女性の中で最も気が強く、最も性格が悪い」
「趣味が悪いなあおまえ!」
ドゥリーヨダナはのけぞった。アルジュナはええ本当にそうですよね困りましたねみたいな顏でこちらを見てくる。やめろ、見るな、その真っ黒な目で!
「ちょっと待て、おまえの身内のなかに少なくともあとひとり、その女に惚れている男がいるのか」
「はい」
「ヤバ」
放っておいてもパーンダヴァは衰退するかもしれない。
わたあめだと思って食べたら真綿だったみたいな顔をしてドゥリーヨダナはアルジュナを凝視した。何を考えているかいまいちわからなかった少年が、全然わからない青年に成長してしまっている。一応アルジュナもドゥリーヨダナの幼馴染といえば幼馴染なので少々ショックではあった。
「まあ
……
その
……
なんだ。その身内とやらとよくよく話し合い、後顧の憂いのないようにしてからだな、その女に愛を告げるなりすればよいのではないか」
ドゥリーヨダナらしからぬマジレスにアルジュナは無言の瞬きで返す。なんだ何が不満だと軽めにキレそうになる彼女に、アルジュナはふっと息を吐いてから話し始める。
「恋敵にあたる人に、私も彼女が好きなのですと伝えたとして」
「はあ」
「それで、その彼に恋心を自覚させてしまいそうで」
「はあ?」
「無自覚であろう今のうちに奪ってしまえばと
……
醜い考えが頭から離れず」
ドゥリーヨダナは天を仰ぎ、きっかり三秒経ってからテーブルをひっ叩いた。手が痛い。これも全てパーンダヴァのせいだ、おのれビーマ。
「真面目に聞いた妾様が愚かであったわ。いいや妾様は一ミリも悪くない。ぜーんぜん悪くない! おまえ妾様をからかったか? 返答次第ではただではおかんが」
からかってなんかいませんと途端におろおろし始めたアルジュナにやや溜飲が下がる。ドゥリーヨダナは六秒黙り(アンガーマネジメント)、やはり自分は間違っていないと確信を深めた。
「おまえがいうところの世界一性格が悪い女を、恋敵も好きだというのはおまえの妄想なのだな」
「流石に世界一では
……
。いえ、はい、妄想と言われればそうなのですが、そうと片付けるには兄
……
彼は彼女のことをかなり気にかけているのです」
「気にかけるったって色々あるだろう」
「会うたびに無視するでもなく、傍まで行って舌打ちをしますし」
「嫌いなんじゃない!?」
「本当に嫌いな人間は視界にも入れないタイプなんですその人は。なのに必ず近くまで行って、らしからぬ口調で文句を言ったりするのですよ」
「するのですよではないわ、それで惚れているなら怖すぎるぞ。情緒が五歳児なのかその男は」
好きな子ほどいじめちゃうとか好き避けとか。それが許されるのは未就学児までであり成人男性がするにはキツすぎるムーブだ。
「というかその女もその男のこと嫌いだろうよ」
「彼女も彼に会うたび舌打ちをしてとんでもない目つきで睨んでいますし、語彙を尽くして罵倒することもあります」
ドゥリーヨダナは反応に困って目頭を押さえた。
「さっきから要領を得ん。おまえの恋敵は恋敵じゃないし、女もその男のことが嫌いだしで何を気にすることがある? さっさとおまえの女にすればいいだろうが。おまえの家柄と顔なら大体の女はどうにかなるだろ」
「彼と彼女は婚約者同士なんです」
「なんなのよもう」
珍しく女性言葉がこぼれたドゥリーヨダナを、アルジュナが妙に嬉しそうに見ている。ドゥリーヨダナは気づかなかった。
「この2人、結ばれて幸せになると思いますか」
「無理だろ。即離婚だわ。──しかしやるではないか、婚約者がいる女を奪おうなど
……
見直したぞ。よく考えたら面白すぎる。俄然応援してやりたくなってきた」
目に見えてウキウキしはじめるドゥリーヨダナだった。痴情のもつれなど厄介極まりないが他人事なら話は別だ。しかもパーンダヴァ。
「弟がろくでもない女を略奪したと知ったユディシュティラとビーマの顔はさぞ見ものであろうなぁ〜!」
「ドゥリーヨダナ、全部口に出ています」
「おっとお口に閂、と」
ドゥリーヨダナは可愛い顔で唇に指を当てた。瞳が悪辣に歪んでいる。
「奪え奪え、今日にでも奪ってしまえ! 何をためらうことがある? 婚約者とはいえ嫌い合っているのであろう? おまえが手を出さなければその女は不幸になるのでは?」
「大人しく不幸になるような女性ではないので、何かしら事件になると思います。軽く見て流血沙汰には」
「うーん妾様おまえの女の趣味マジでわからんわ。それともそんなに顔がいいのかその女は」
「美しいのは確かです。しかし内面の悪辣さが滲み出ているタイプで」
「
……
本当に恋しいのかその女が?」
「困ったことに
……
」
「まぁ元気を出すがいい。妾様はおまえの兄二人は大嫌いだがおまえのことはなかなか見どころのあるやつだと思っている。というか今日思った。欲のまま動く人間は好ましいぞ! 妾様の思い通りになりやすいし」
その点ビーマは最悪だった。幼少期からドゥリーヨダナの好きにできた瞬間が一度もない。ドゥリーヨダナを嫌うくせに婚約者という立場を完全に手放すわけでもなく、弟にお鉢が回らないようにと考えているのだろうが──
「ドゥリーヨダナ」
「あん?」
「私は私の好きにすればいいと、本当にそう思いますか」
「思うが」
「それで兄達に迷惑をかけたり悲しませたりしても?」
「ガンガンにかけていけ。おまえの行動をおまえの兄がどう受け止めるかは、あやつらの課題であっておまえは関係ない」
そもそもその女を嫌ってるらしい男より、何か知らんがベタ惚れのおまえに攫われた方が女も幸せだろうよ。知らんけど。
「ドゥリーヨダナ」
アルジュナが唐突に手を握ってきたのでドゥリーヨダナは結構ビビった。女に許可もなく触れる男ではないと思っていたが違ったか。あとなんか手、熱くない? 焼きたてのパンみたいな温度をしている。
「ありがとうございます。勇気をもらいました」
「う、うむ。感謝ならいくらでもしてよいぞ。だがユディシュティラ達に妾様に唆されたとか絶対に言うなよ。女にちょっかい出すなら独断でやれ」
「はい。勿論」
「ならばよい。兄が度肝抜かれるくらいに派手に女を攫ってやるがいい。なに事後承諾でも構わんだろう。なんとかなるなる。やっちゃえやっちゃえ」
やらかしたアルジュナの被害がパーンダヴァに及べばいいなぁと完全に他人事モードのドゥリーヨダナの手をアルジュナは離さない。
感謝の気持ちはわかったからいい加減に離さんかいと思ったそのとき、気配もなかったカフェテリアのスタッフ達がぬるっと部屋の隅から生えてきた(ように見えた)のでドゥリーヨダナは悲鳴をあげた。
そして鳴り響くムーディなBGM。不自然に絞られる照明。薄暗い店内で完璧な笑顔を装備したスタッフ複数人が歌い出す。妙に美声だ。
「
……
フラッシュモブ!? は? 妾様今日誕生日とかじゃないが?」
「ドゥリーヨダナ」
やっと手を離したアルジュナの手の中には指輪が。
差し出されたその装飾の見事さ、豪奢でありながらぎりぎり下品にならずうまくまとめたデザインと石の輝きに目を奪われる。ドゥリーヨダナは宝石の目利きに自信があった。
「差し上げます。貴女に」
「なんで!?」
「いりませんか」
「いるが!? 絶対に返さんぞ一度妾様のものになったものは永劫妾様のものだ!」
さぁ寄越せと差し出した手をひっくり返され指輪をはめられる。妾様にあらゆる意味でぴったりであるし、いやマジでいい指輪だなこいつどこでこの石を手に入れた? 明らかに一品ものだが職人は誰だ? こういうのが得意なのはパーンダヴァでなくカウラヴァのはずだが。
利権について考えはじめたドゥリーヨダナの付近ではスタッフたちが歌うに飽きたらず踊りはじめ、インド映画の様相になってきた。
「ドゥリーヨダナ。ドゥリーヨダナ」
「なんだ、いま妾様、パーンダヴァからどう富を奪ってやろうかと考えるのに忙しい」
「こちらを向いてください。はい、ピース」
「ん?」
女優がカメラに結婚指輪を見せつけるポーズをさせられ写真を撮られた。反射的にキメ顔。同じ画角にアルジュナも入っており、観光地ではしゃぐ女子ふたりみたいな写真が撮れたと思われる。
そのままスマホを操作し何かを送信したらしいアルジュナは、用済みのスマホを脇に置き、ドゥリーヨダナを見てニッコリした。
「
……
今、誰かに何か連絡したか」
「貴女との写真を家族LINEに流しました。プロポーズを受け入れてもらいましたと」
「は?」
「ガンガンに行けとのことでしたので。ええ、一度決めたら全力なところがおまえの良いところだと家族にも言われているこの私ですので」
本能的に危機を感じたドゥリーヨダナは音を立てて席を立った。左手の指輪に目をやる。左手の──左手薬指の?
「おま──」
「返品は受け付けていません」
アルジュナのスマートフォンから通知音が鳴り止まない。賭けてもいいがドゥリーヨダナのスマホ通知欄も凄いことになっているだろう。
「永劫、貴女のものなのですよね?」
やっぱこいつ怖い。
サビに突入したラブソングと増え続ける踊るスタッフに囲まれながら、ドゥリーヨダナは己が何かやらかしたことにやっと気がついた。
おしまい
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