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Ykanokawa
2026-05-26 02:00:43
7593文字
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クリテメ
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【オクトラⅡクリテメ】八分は足らず、たとえ十分がこぼれても
・pixiv掲載「君とあなたの廻り道」
https://www.pixiv.net/novel/series/15590322
・こぼれ話その3 本編その後の小話(本編を読了済みでないと不明な設定があります)
・ロイとテメノスと羊の話
・現パロの国柄や世界観は雰囲気
以上を承知の方のみお通りください。自衛ご注意。
血の繋がらない弟は
――
テメノスは、昔から大人びた子どもだった。
物心がついた頃には、ロイとテメノスは既に養父のイェルクのもとで暮らしていた。今も壮健な養父だが、当時はさらに働き者で、二人はよく養父が経営に携わる学童保育に預けられていた。
学童保育でのテメノスは、大人にも年下の子どもにも重宝される存在だった。
弟は同年代の子どもより頭一つ分賢く、文字を憶えるのが早かった。だから、よく自分より小さな子どもたちに絵本を読んであげていた。読み方もちょっとしたユーモアを交えて読むものだから、どんなに幼い子どもでも飽きないのだ。玩具の取り合いもしない。おやつが足りないときは誰かに譲る。
ロイだって運動が好きで活動的な子どもたちには慕われていたが、弟ほど無私にはなれなかった。自分だって年頃の子どもだ。玩具で遊びたいし、おやつだって食べたい。泣いている子がいたら、半分こにして渡すくらいはするけれど。
大人びていて、優しい子。それが弟にかけられていた褒め言葉だ。その褒め言葉とて、それほど嬉しくなさそうだった。
ロイも、そして養父も。弟のそれを優しさと呼びたくはなかった。優しいというより、頓着や執着がないように見えたのだ。いいことだとは思えなかった。
好きなものを譲りたくない意地も、嫌なことを嫌だと言える素直さも。許される子どものうちに、許されておくべきだ。何より、特別に好きなものがない、というのは悲しく聞こえる。まったく健全じゃない。
何か、ひとつでもテメノスに譲りたくないほどの何かがあれば、と願っていた。ロイも、養父も。心配していた。
そう、心配していたのだが。
あれが発覚したのはいつの頃だったろうか。正確な時分は憶えていないのだが、テメノスが愛着を示したものがひとつだけあった。それも、普段の彼とは信じられないくらいに強く。
とある日のことだ。その日は養父が休日で、ロイとテメノスは学童に預けられることなく、自宅で過ごしていた。日頃は忙しい養父に存分に遊んでもらい、二人ともはしゃいでいた。おやつは冷たい牛乳と動物を象ったクッキー。遊んで動き回ったものだから、小腹の空いたロイは速攻で手洗いを済ませてダイニングに向かったのだ。
バスケットに積まれたクッキーから甘い匂いがして、食欲がますます刺激される。
行儀の悪さを自覚しながら、ロイはバスケットからクッキーを一枚、拝借した。純然たる無作為で、形なんて気にしていなかった。あえて選ぶなら、ライオンだとかウマだとか、格好いい動物が好きだったが、わざわざクッキーの山から探し出すほどではない。空いた小腹を満たせれば、何でもよかったのだ。
ロイがその一枚を口にしようとしたとき、あ、と大きく高い声が上がった。聞き馴れているはずなのに、聞き馴れていない声量だった。手を止めてダイニングの入り口を見れば、手洗いを終えた弟が零れそうな翠色の目を見開いてこちらを、こちらの手を見つめている。
首を傾げて自分の手元を見たロイは、はっとして口を閉じた。
無作為に選んでしまったクッキーは〝羊〟の形をしていた。硬直している間に翠色の目にみるみる水の膜が張っていく。ロイは慌てて〝羊〟をバスケットに戻し、両手をぶんぶんと振り回した。何も持っていないというアピールだ。
「大丈夫、大丈夫だから! テメノス、僕は羊を食べていない!」
「
……
別に、何も言っていないだろう」
何も言っていなくとも、膝元に揃えられた両手は服の裾をぎゅうと握っているし、両目は潤んでいるし、眉は下がり切っている。下手な文句より如実に悲哀と非難が伝わってくる。
そう。何にも固執を見せなかった弟が、唯一、拘りを見せたのが〝羊〟という動物だった。
抱き枕も羊なら、貯金箱も羊。冬場の毛布の柄はともかく、夏場のブランケットまでもこもことした羊の柄を選ぶので目に暑い。その拘りは、無論のこと、動物の形のクッキーにも表れる。ロイと養父の間で、羊の形をしたものはテメノスに譲る、という掟が結ばれたくらいだ。そもそも、〝羊〟という好みが局所的なので喧嘩になることもないのだけれど。喧嘩にはならないが、困ることはある。
「お腹が空いていたんだろう。ロイは好きなものを食べたらいい」
当のテメノスが、何故か羊が好きなのだとなかなか認めないことである。理由は未だ以って不明なのだが。
仕方なく、ロイは小皿に羊のクッキーを乗せた。白い皿に黄金色の可愛らしい羊がころん、と転がった。小皿を持って椅子を下り、両手で弟へと突き出した。
「これはテメノスの分だ。テメノスも好きなものを食べたらいいだろう」
「でも」
「僕が好きなのはライオンやウマだから」
翠色の目がじい、と皿の上の羊を見つめる。眉間に皺を寄せ、ちらちらと目線を泳がせ、深く逡巡し。おそるおそる手を伸ばして、ようやくこの弟は好きなものを受け取るのだ。
「
……
ありがとう」
零れそうだった涙が引っ込んだのを見て、安堵の息を吐く。
「早く食べよう。テメノスだってお腹が空いただろう」
「うん」
養父もダイニングにやってきて、三人でおやつを食べた。ああ言っていたものの、テメノスは羊のクッキーに手をつけない。これもいつものことだ。養父に「そろそろ食べてあげないと、羊さんも元気をなくしてしまうよ」と諭されて、やっと弟は子リスのように端からクッキーを齧り出す。渋々と。
――
なんだろうなぁ。
弟の羊好きは少し変わっている。どこがどう、と言われると些か難しいのだが。
この〝羊〟という好みが発覚してから、養父は喜んでテメノスを羊が飼育されている牧場へ遊びに連れて行った。動物との触れ合いや牧場仕事の体験ができるテーマパークのような牧場だ。もちろん、ロイも一緒に。
夏になる前、ちょうど羊たちは換毛期で、羊の毛刈り体験が人気だった。冬を超えてもこもこと育った毛を剃られた羊たちが、さっぱりした姿で柵の中を闊歩していた。
養父はテメノスへ、やってみないか、と声をかけた。彼は羊たちが順番にばりばりと毛を刈られていく様子を眺めて、唇を引き締め、くしゃりと顔をしかめた。
「寒くは、ないのでしょうか」
ロイは麗らかな日差しがさす青空を見た。それこそ羊の刈られた毛のようなもくもくした夏雲がある。袖がある服だとやや汗ばむくらいの気温だ。ロイの目には毛を刈られた羊たちは、涼しそうに牧場を駆けているように見える。
だが、弟にはそうは見えていないようだった。養父も困ったように弟の頭を撫でている。
それから柔らかな声で、羊の毛刈りがどうして必要なことなのか語り聞かせている。羊は自力で冬の間の毛を落とせないだとか、手を入れてあげなければ熱中症や病気になってしまうだとか。頭の良い弟だ。きちんと説明されてわからないはずはない。
養父の教えを受けて、テメノスは一応、納得はしたようだった。が、やはり気が進まなかったらしく、結局は毛刈りの体験には参加しなかった。
代わりに、と言うのもおかしな話だが、羊たちを撫でられる餌遣り体験は気に入ったようだ。もしゃもしゃと生野菜を食べる羊を見つめる弟の目は、いつになくきらきらしていた。
――
なんというか、可愛がりたい動物
……
いや、庇護したいような〝好き〟なんだよな。
もし、羊が家で飼育できる動物であったなら、飼いたいと言い出していただろう。弟の羊に向ける愛情は、そういった〝好き〟に見える。ただのクッキーの型だとしても、保護して食べづらそうにしているくらいなのだ。
「なんだ、ロイ」
「いや、何でもないよ」
これはこれで偏っているな、とは思いつつ養父もロイも温かな目でテメノスを見守ることにした。やっと見つけられた好きなものを、どこか不器用な弟から取り上げる気にはならなかった。
大人になるにつれて、そのような極端な部分はなくなっていったし、明確に将来の夢を持つ年頃になるとそんな側面は鳴りを潜めていった。変わらず羊のモチーフは好んでいるし、動物の中で何が好きかと問えば〝羊〟と返ってくるのだろうけれど。
どんなに好きだったものに対しても、歳を重ねれば何かしらの分別がついて愛し方を憶えるものだ。動物の場合は愛で方、と言うべきだろうか。弟もそういうふうに大人になったのだろう。
そう思っていた。少なくとも、今日までのロイ・ミストラルは。
そうして大人になったはずの弟が、満面の笑顔を浮かべて立っている。
笑顔、と言ったが、笑っているのは頬と口元だけ。色白の額には薄っすらと青筋が浮いている。細められた目は合わせただけで、どこかがすぱっと切れてしまいそうだ。
「ロイ。さっきから、話を聞いていないようだが?」
「いやいや、聞いている。聞いているから落ち着いてくれ、テメノス」
「失礼だな。私は落ち着いているつもりだが」
――
全然、落ち着いていないじゃないか。
どこをどう見たって怒っている。殺気立っている、と言ってもいい。ロイの弁護士事務所に所属する他の弁護士や事務員は、この弟とも顔見知りだが、今は誰一人として顔を上げようとしない。伏せた面の下でアイコンタクトを取り合っている。誰も彼も、所長であるはずのロイを助ける気がない。薄情な部下たちである。
じろりと翠色の瞳がロイを睨み上げる。その鋭さは、羊のクッキーを食べてしまいそうになったあの頃とは比べようもない。端的に背筋が凍る。あの頃は可愛い子どもだったというのに。いや、可愛い弟には変わりはないけれど。
こうなったテメノスを宥められるのは、養父くらいだ。ロイが𠮟りつけても、涼しい顔で聞き流すか、不貞腐れるかのどちらかだというのに。立場が逆転すると、途端に舌鋒鋭く、ざくざくと太い釘を刺してくる。可愛いが可愛くない。
ふう、とテメノスは深々と聞こえよがしに息を吐いた。憤慨の原因である〝彼〟が寝転ぶ事務所のソファに目を遣る。
仮眠室の頼りない毛布に巻かれ、小麦色の癖毛がくるりと飛び出ている。赤みが差した顔で浅い呼吸を繰り返す。そこそこハンサムで整った顔立ちは、今は分厚いマスクに隠されていた。額には弟がここに来る道中で購入したらしい冷却シートがぺたりと貼られている。澄んだ色をした青い目は、今は朦朧として、閉じたり、細く開いたりを繰り返していた。
ロイにとっては可愛い後輩で現従業員、テメノスにとっては経営しているシェアハウスの入居人。光る物を内に秘めてはいるが、まだまだひよこであるクリック青年だ。風邪っぴきの。
ロイを睨むのをやめたテメノスは、ソファの傍らに膝をつくと、彼の首元に手を当てた。渋面がますますしかめられる。熱が上がってきているらしい。
「私は君に、もし彼が出勤してきたら帰るように言ってくれ、と伝えたはずだが」
「忘れていたわけではないさ。僕だって、帰るようにと説得したとも」
「説得している暇があるなら、有無を言わさずタクシーにでも詰めて送ってくれたらいいんだ」
そんな荷物みたいに。弟は入居者の中でも特にこの子を可愛がっている様子だったのだが。
「変な無茶をするお馬鹿さんには、それくらいの扱いでちょうどいい」
ああ、そうか。この毒舌はロイやクリック青年へのものだけでなく、自分自身への苛立ちも含まれている。相変わらず、わかりにくくわかりやすい弟だ。
彼は今日の朝方、彼は喉を気にしていたらしい。咳も何度かしていたとか。
この地方の冬はそれなりに寒い。クリックにとっては環境が変わってから初めて迎える冬だ。学業に励む傍ら、アルバイトにも精を出し、加えてあのような騒動に巻き込まれ。体調のひとつやふたつ、崩しても仕方がないことだろう。
なまじ、根から真面目なものだから、クリックは適度に手を抜くということを知らなかった。
テメノスはよっぽど休みを取ることを薦めたが、運悪く外せない大学の必須授業が入っていたらしい。ならば、せめてアルバイトは休め、と言った。しかし、事務所もまた未曾有の忙しさに追われている最中。
彼らのような苦学生にとっては、必須授業の単位を落とすことも、アルバイト代が減ることも、死活問題だ。喉の痛みくらいで休めない、という心理は理解できる。できたからこそ、止めきれなかったテメノスの判断も間違っていると言い切れない。
一応、大学の空き時間に厄介な冬場の感染症ではないことは調べてもらったようだ。だが、それで崩れた体調が元に戻るわけでもなく。
授業を終え、職場であるロイの事務所に着く頃にはすっかり悪化してしまっていた。折しも外は空っ風が吹く真冬。気温は一桁だ。出勤してきた彼は赤い顔をして、がらがらの声で挨拶をしてきた。
テメノスから電話で厳命を受けていたロイは、当然、彼を帰らせようとした。が、彼はテメノスに負けず劣らず頑固者だった。最低限のお手伝いだけは、と譲ろうとしなかった。今の忙しさの発端が、彼自身にもあることが理由のひとつかもしれない。
それでもロイは粘ったのだ。テメノスが、あの愛情深い弟が、目をかけている子に何かがあれば怒髪天を突くことくらい察せられたから。健闘虚しく、その問答をしている途中で彼はぐらりと体幹を崩し、限界を迎えてしまったわけだが。
事務所に詰めていた従業員と協力して彼を寝かせ、緊急連絡先となっているテメノスへ急ぎ連絡し。
怒り狂いつつ笑顔を貼り付けた弟と対面したのが今、というわけだ。
「心配なら心配だと、そう言えばいいものを」
連絡を受けるや否や、タクシーを飛ばして半刻もかからずに到着した弟にぽつりと呟く。その半刻の間に、病院へ掛かる準備を整え、薬局で必要なものを調達しているのだから手厚いものだ。
今だって首元の汗を拭いながら、経口補水液を飲ませようとしている。ぶつくさ言いながらその手つきは至極、優しく丁寧なもの。
……
青年の方だって、この難儀な性格をした弟のことを憎からず想っているだろうに。率直にそう言っていたなら、聞く耳を持ったかもしれないのに。
ぽつり、と溢してしまった一言を拾い上げたテメノスが、じとりとロイをねめつけた。
「
……
言うようには、している。ロイこそ、後輩の前で格好をつけているとか。大人を気取って珈琲をブラックで飲んでいるんだって? 実家ではあれだけ砂糖もミルクもどぼどぼと入れるくせに?」
「な
……
っ! 今、それは関係ないだろう!」
一言も二言も多い弟だ。自分を慕ってこの世界に入ってきた後輩相手に、少しばかり見栄を張ったとて、罰は当たらないではないか。先輩としても、上司としても。時折、本当にこの口の減らない弟がシェアハウスの管理人などやれているのか。不安に思う瞬間がある。
はあ、と大きく息を吐き、緩やかに首を振る。
「とにかく。彼を病院に連れて行くんだろう? タクシーを待たせているなら、早い方がいい」
「
……
それは、そうだが」
言い足りないという顔をしていたが、もっともな言い分にテメノスは矛を収めた。くるりと向き直り、青年の頬をぺちぺちと叩き始める。体格の良い彼を意識がない状態で運ぶのは骨が折れる。
どうしても手が必要なら言ってくるだろう。そう踏んだロイは自らの仕事に戻るべく背を向けて。
「クリック君、おーい? 〝子羊〟くーん、起きられますか?」
テメノスの発した呼びかけに、首だけで振り返った。頬を叩かれた青年が薄目を開けた。
「ん
……
あれ
……
。テメノス、さん?」
「だから、今日は休みなさいと言ったのに。帰りますよ。立てますか?」
「え、あ
……
僕、もしかして
……
? あ
……
す、すみません」
「そういうのは後で聞きます。ほら、コートを着て」
ふらつきながらも上半身を起こした青年に、新品のコートを被せる。素地がいい温かそうなダッフルコート。ついでとばかりにぐるぐると首元に毛糸のマフラーを巻き付ける。市販のものより若干、目が粗い。
んん、と咳払いをして、ロイは改めてクリックの容姿を頭の先から観察した。
ふわふわとした金色の巻き毛、体格は〝子〟とは言えないが目は相応の純心さを残している。コートとマフラーを装備させられた姿はもこもこと表現できなくもない。あれなら寒くはないだろうな。そういえば金色の羊毛がどうこう、という神話がなかったか、とぼんやり考えた。
――
なるほど?
反省のない弟を揶揄する言葉が二つ、三つと脳裏に浮かんだが、飲み込んだ。今、言うべきではないと思ったのだ。力仕事は不得手だと公言する弟が、重いと文句を垂れつつ体躯の良い男を支えている最中には。
「では、これで。お邪魔しましたね、皆さん」
「すみません、ロイさん、皆さん
……
」
「
……
ああ、うん。ゆっくり休んでね」
考え事をしていたものだから、反応が遅れた。テメノスは特に気にすることもなく、クリックは気にする余裕もなく。連れ立って事務所を後にする。並んだ背中を眺めながら、エレベーターのあるビルでよかったなと思う。弟では彼を背負って階段を下りるなんてできないだろうから。
デスクに戻ったロイは、珈琲を掻き混ぜつつ宙を見た。
この国の法律上、問題はないし。兄としては複雑な心境になるかと思えば、驚くほど戸惑いが少ない。まったくない、と言えば嘘になるけれども。謎が解けてすっきりした、という気持ちの方が強い。
これは幸い、と言っていいかわからないが。ロイにもテメノスにも継がなければならない家というものはない。強いて言えば、ミストラルという姓になるのかもしれないが、養父が義息子の幸せと引き換えにしても欲するものだとは思えない。大きな問題は、やはりクリック青年の家庭環境だろうか。両親とは不仲だそうだし、彼は長男であったはずだから。何の障害もなく、というわけにはいかないだろう。
――
まあ、でも。
家族以外の特別なものを見つけられなかった弟が、長くかけて見つけた〝子羊〟だ。
家の中で毛刈りもできるし、同じ食卓で同じものを食べられる。おそらくは、世界に一匹しかいない羊。二人の人間が一緒になろうとするときに、何も障害がない方がおかしいのだから。
ならば、ロイにできることと言えば。
――
差し当たって〝子羊〟をちゃんと大人の〝羊〟に育て上げること、かな。
どうか愛すべき二人の弟に幸福を。祈りも幸福も、八分と言わず、たとえ十分がこぼれても足りないのだから。
そうして気合いを入れた結果、同じく気合いを入れた子羊が同じような状況に陥り、二度目の雷が落ちることを、ロイはまだ知らなかった。
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