燈 ともしび
2026-05-25 22:37:14
3024文字
Public
 

リクエスト13:ぎゆさね【げんまん】

DKな二人のお話です。

リクエスト: dom🌊、sub🍃でdomsub設定をお願いしたいです。書きやすい設定でお願いできたら嬉しいです。

私が書くとシリアスにはならない😂
リクエストありがとうございました😊

 本当に偶然。いつもなら通らない人気の無い場所を通りがかった。そうしたら見慣れた奴がうずくまっていたから声をかけた。

 冨岡はいけすかない奴ではあるが、具合が悪いのなら声をかけるだろう、人として。だから
「オイ、どうしたァ?」
 って肩に手をやったのだ。
 顔を上げた冨岡は真っ青で、素人目にも体調が良くないのはすぐに分かる。これはいけない。救急車を呼ぶべきだとポケットに手を突っ込み、スマホを取り出そうとした。
 その手を掴まれ視線が交わる。至近距離で真っ直ぐに。こんなにも近くで冨岡の顔を見たのは初めてだった。

「Kneel」

 ガクッと身体から力が抜け、コンクリートの上に崩れ落ちる。一瞬のこと。強く目には見えない力でねじ伏せられてしまった。嫌なのに抗えない。強烈な力だ。
「ッ、て、めェ」
 呼吸も上手くできない。息が吸えない。文句を言ってやろうとしても声が出ない。
 それでも出来る限りなんとか息を整え、冨岡の所までにじり寄る。そうしなければ更に危険なことになるからだ。
「あ、しを広げ、て、座れ」
「え」
 冨岡の顔色は真っ青を通り越して紙のように真っ白になっているし、動くことも出来ずに固まっている。けれど、唯一動く目線で訴えた。俺の言った通りにしろ、と。
 ひどく緩慢な動きで冨岡は足を広げて座り込んだので、俺はその足の間に入るとぺたりと座る。最後の力を振り絞って
「褒めろ」
 と言えば、冨岡は目を見開いて驚いていた。

 なんだよ、それ。
 テメエが始めたんだからちゃんと終わらせろ。

 徐々に息苦しくなっていく中、交わる視線を逸らさずにいれば、冨岡はやっと
「良い、子……良い子だ! 不死川、ごめん、ありがとう」 
 そう言って泣き出したので、俺はやっと楽に呼吸が出来るようになった。
 それが、冨岡と俺との初めてのプレイだった。


 冨岡は俺を抱えるようにして医務室まで連れて行ってくれたが、生まれつき頑丈なのが取り柄の俺はすぐに復活して何事もなかった。念のため養護教諭からは何か体調に変化があれば病院を受診するように言われたけれど、それだけ。もう授業も終わっていたからそのまま帰宅することにした。
 教室に置きっぱなしにしていたカバンは冨岡が取りに行ってくれたので礼を言う。
「いや、礼を言わなければいけないのも、謝るのも俺の方だ」
 冨岡があまりにも暗く落ち込み陰気臭かったので、帰り道にアイスを買わせた。
「そんなのではお礼にはならない」
 冨岡は焦っていたが、うるせえと黙らせた。

 夕方過ぎで人気の無い公園のベンチに二人揃って座り、無言のまま食べる。くじ付きのバニラ味。当たらなかった。残念。

「なァ」
……うん」
「テメエは生まれつきのDomなんじゃねえの?」
 食べ終わったアイスの棒を口に咥えつつ問いかけると、冨岡はまた目に見えて顔色を悪くした。
「あの、そ、の、生まれつきのDomだ。けれどプレイしたことは今までなかった」
「マジかよ」

 この世には男女以外にDomとSub、Switch、Normalという性別が存在している。
 支配欲の強いDom、支配されたいSub、そのどちらかに変わるSwitch、そしてどれでもないNormal。
 人類のほとんどはNormalだけれど、少数、DomやSubも存在していて俺は生まれつきのSubだった。
 大人になれば少しずつ落ち着いてくるが、Domや Subの欲への衝動は未成年のうちはコントロールが難しいため、治療の名目で国の指定機関で無料でプレイをすることが出来る。むしろ推奨に近いため俺も何度か経験しているし、そのおかげでSub性が暴走することもなく日常を送れていた。その経験があるからこそ先ほどのような暴走に急に巻き込まれても対応出来たのだ。
 それなのに冨岡はDomのくせに一度もプレイ経験が無いとは。

 俺が胡乱げに見つめているからだろう。冨岡は下を向いて視線を合わそうとしない。
「その、分かっているんだ。俺はDomだから定期的にプレイをして安定させなくてはいけないことは。でも、知らない誰かとプレイすることがどうしても苦手で……
「それで暴走したら馬鹿だろ」
「うん。でも俺は信頼出来る相手とプレイがしたいんだ」
「甘ったれェ……
 呆れて容赦なく言うと冨岡はますます凹んでしまった。
 いや、凹むなよ。反省しろォ。
 今回はたまたま俺が対応出来たから良かったものの、これがまだ不安定な新入生とかだったらとんでもないことになっていた可能性もあるんだぞ。ばかたれ。
「ありがとう」
 凹んでいても場を収めた俺への感謝の気持ちはあるらしい。小さな声だったが、何度も感謝の言葉を繰り返す。
「なんか冨岡はちっともDomらしくねェのな」
 ちょっとだけ気が抜けて呟けば、冨岡は少しだけ顔を上げた。
 俺も指定機関でのプレイしかしたことはないが、相手役のDomは割と淡々としている奴か、少しだけ支配欲を滲ませてくる奴。だからDomというのはそんな奴らばかりだと思っていた。
 なのに冨岡はあいつらとはちょっと違うように感じる。上手く言えないけど。なんかロマンチックな奴というか。

「やっぱり、俺は甘いのか」
「甘いだろ」
「そうだよな……

 お礼のアイスは食べ終わってしまったし、クジはハズレだし。もうここに居る理由はないのに、なんでだかここから立ち上がる気にならなくてベンチの上に丸まって座り直す。

「まァ、でもさ、諦めないで探したらいつか現れるんじゃねェの?」
「え?」
「冨岡がこいつとならプレイしたいって Subが」
……
 
 だめだ。冨岡に煽られて俺まで妙にロマンチックな事を言ってしまった。現実主義者なのに。

 今度は俺が下を向く。恥ずかしくて。
 なのに冨岡は俺の顔を覗き込むように寄ってきたから、はァ? って声が出た。

「不死川」
「なんだよ。近けェよ」
「俺は決めた」
……は?」

「いつもなら薬である程度コントロール出来ていたんだ。でも今日はダメで、でも不死川が現れた時、腹の奥がぎゅっと熱くなって無意識のうちにコマンドを言ってしまっていた」
 冨岡は寄ってきただけではなく、俺の両手まで握ってくる。
 離せよ。嫌な予感がする。
 いや、むしろ嫌な予感しかしない。
 それなのに冨岡はますます手の力を強くして離してはくれない。

「俺は、不死川が良い」
……は?」

「不死川とのプレイが忘れられない。甘くて幸せな気持ちだった。もし不死川が許してくれるならこれからも俺と定期的にプレイしてくれないか?」

 さっきまでの死んだような顔はどうした。
 そう言いたくなるくらい、冨岡は目をキラキラさせて俺の手を握りしめたまま力説してくる。

 やだ。
 なに言ってんだ。
 ふざけんな。

 そう言っても良かったのに、いつもと違う距離とか雰囲気とか。あと……多分、プレイした後の変な高揚感とかそんなののせいもあったのかもしれない。
 俺は何故か冨岡の提案に頷いてしまった。
 びっくりし過ぎて固まるくらい驚いた。

 俺が頷いたのを見た冨岡は見たことがないくらいに喜んで、そして。

「不死川、指切りげんまんだ」
 なんて小指を差し出してきたからそれにも指を差し出して絡ませてしまった。