2026-05-25 18:56:26
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巣籠(R-18)

日本国で暮らして数年後にやっと安心した黒様がちょっぴり無体を働く話

 顔を合わせた当初から、作り物めいた笑顔も鬱陶しくまとわりつく様子も本意でないのは知れていた。それぞれの望みを叶えるため異世界を渡る旅を続ける以上、自らはぐれる気こそなかったようだが、思えば途中からは何が起きてもすぐに手を伸ばせるよう、平素よりあの細い腕を視界に入れていた覚えがある。
 面倒なことに長らく魔術師が用いないよう努めていた魔法とやらは、間違いなく黒鋼が自らの手で掴んでいたにもかかわらず、その拘束を躱すことすら可能な代物だった。あれを見せられたからには今後のために仕組みを把握しておきたくはあったが、本人がこれ以上なく錯乱していたときのことだ。おそらく無意識下の行動であり、要らぬ傷口を抉るだけで大した成果は得られないだろう。
 つまりファイは今に至るまでずっと目が離せないうえに、黒鋼であってもその頼りない襟首を掴んでおくのに難儀する、厄介極まりない存在だったというわけだ。





 二人揃ってまとまった休暇を取れたのはいいが、最後の最後にあの姉妹による慰労という名の揶揄い兼暇つぶしに付き合わされたのには閉口した。黒鋼をいいように弄り、魔術師との仲を冷やかし、大層楽しそうに笑っていた二人の笑い声が今なお耳に残っているようだ。
 曲がりなりにも御前であるし、勝手に退出すればより面倒な状況になることを知っていた黒鋼は、額に筋を立てながらなんとか耐えきった。背後に控える蘇摩からは気遣うような視線を向けられたが、あいにく助けになるはずもない。
 ようやく自宅に帰ってきたと思えば今度はファイの様子がおかしいのだから、黒鋼が眉間に皺を寄せるに至ったのも仕方のないことだろう。本人は平常を装っているようが、どうにも違和感が拭えない。
 休暇にあたり玖楼国で暮らす二人に、そして店で過ごすモコナや四月一日たちに連絡を取る予定を立てていたのは事実だ。浮足立って見えるのはそのせいだろうか。だがそれならばこちらに隠す必要はないはずだ。いずれにせよ疑問は残る。

 食事を終えたあと、その疑念は唐突に解消された。
 いよいよ上機嫌を隠さなくなったファイが、訝る黒鋼を置いて厨へ向かう。そして両手で見慣れぬ甕を慎重に抱えて戻ってきた。
……なんだそりゃ」
「これはね、黒様用の自家製生姜酒だよ」
……酒?」
 説明の通り、蓋を開けた甕からは強い酒精と仄かな生姜の香りがする。とぷ、とおそらく黄金色だろう液体が緩慢に揺れた。ファイは大事そうに容器を支えたまま、楽しげに話し続けている。
「果物のお酒はいくつか仕込んだことあるけどやっぱりオレ好みの味になっちゃうから、黒ぽんが好きそうなやつも作ってみたかったんだよね。生姜のお酒があるって教えてもらってやってみたんだけど、一年くらい熟成させた方が美味しいらしいから我慢して待ってたんだよー。ようやく時間が経ったからちょっと味見して、もうそろそろいいかなって。あっ、もちろんお砂糖は入れてないからね。オレにはちょっと辛かったけど、黒たんなら……
 不意に言葉を途切れさせたファイが、目を丸くして黒鋼を見上げる。
……黒様?」
 黒鋼は不覚にも、自分が今どんな顔をしているのかわからなかった。

 一献だけ含んだ酒の味は、ファイが胸を張るだけあって黒鋼の好みに良く合った。
 本人が言うように、執務の合間を縫って細々とした手仕事をこなしているのは知っている。果実酒あたりはおおよそファイが消費しているが、わざわざ作っているにもかかわらず自分では食べられない漬物を口にするのは当然黒鋼だけだ。
 旅の間必要に迫られその役目を担っていたのは否定しないが、そもそもこういった作業は魔術師の性分に合っていたのだろう。ひとつひとつ梅の実のへたを取り、水気を拭い丁寧に改めていると思ったら、魔法で一気に保存容器の消毒を済ませるそのちぐはぐさにも慣れてしまった。むしろそれが黒鋼にとっての「普通」になりつつあると言ってもいい。
 視線の先では、すっかり板についた様子のファイが袖を捌いている。
 もしかしたらこいつは黒鋼が思うよりずっと前に、あの目が離せないかつての魔術師の姿を捨て、この国で己に寄り添っていてくれたのかもしれない。今になってふと、黒鋼はその事実に気づいた。

 腰を上げ、状況をよく把握できぬまま目を丸くしているファイを寝所へ引き込む。細い身体はそれでもすぐに力を抜き、こちらへ身を預けた。灯りも点けずに性急に口づける。温かく濡れた咥内を探り、気が済むまで舌を合わせてからようやく解放した。閉じきれなかった唇の間から、己より薄い舌がわずかに覗いている。
 呼吸を乱したファイは潤んだ目で黒鋼を見上げて、「……からいね」と小さく笑った。何気ない仕草に血が騒ぐような心地がして、いよいよ歯止めが利かなくなる。薄い胸元を覆う衿に自分の手が伸びるのを、妙に落ち着いた思考の一部が他人事のように認識していた。





 肌に触れる敷布は既にしとどに濡れていた。ほとんど意識を飛ばしたファイの呼吸がいくらか整うのを待ってから、再び動き出す。投げ出されていた脚に少しだけに力が入り、湿った布を更に乱した。
 反射的に逃げを打っただろう身体すら許容できず、足首を掴んで挿入を深める。くぐもった音と共に、潤み切った柔らかい最奥へ勢いよく先端が埋まった。視界の端で白い爪先がぴんと伸びる。中で極めたのだろう。普段穏やかに響く魔術師の声は、この行為が始まってしばらくしてからほとんど聞こえなくなっていた。今は声とも呼べない鼻にかかった甘い吐息が時折漏れ出るくらいだ。
 掴んだままだった片足をそのまま肩に担ぎ、懲りずに逃れようとする身体を追いかけ衝動のままに突く。本人はむずかるように首を振っているが、黒鋼を受け入れている内部は抜き差しのたび引き留めるように纏わりついた。
 弱いところを刺激してやりながら、ついでとばかりに露わになった会陰をなぞり、押し込めてやる。弓なりに背を反らしたファイが、小さな悲鳴を上げてまた絶頂した。構わずこちらを搾り取ろうとするかのようにうねる中を突き上げる。跳ねる腰を抑え込み、一番奥へ先端を押し付けながら射精した。

 緩く腰を動かしたのち一度引き抜くと、収まりきらない精液がこぼれた。我ながらどれだけ出したのかと呆れた気持ちになる。敷布だけでなくお互いの身体にも、どちらともわからない体液が飛び散っていた。
 依然として部屋の灯りは点いていなかったが、ファイはともかく黒鋼の視界に支障はない。それに暫くもすれば、自然と陽の光が入ってくるはずだ。
 平素は透けるような白い肌は、長く続く行為のせいで上気しきっていた。真っ赤になった性器に至っては、時々潮を吹き出すだけの器官と化している。

 一つ息を吐き、ぐちゃぐちゃに汚した中へ再び割り入る。こちらを見上げる涙に濡れた蒼い瞳は、下手をするとそのまま溶けてしまいそうにすら見えた。奥は避けて浅い場所を揺さぶってやる。頼りない手が、おそらく黒鋼を制止しようと持ち上げられた。そのまま引き寄せ指を絡めて握りしめる。へにゃりとファイが眉を寄せた。
「くろさま……、ちが、ちがうの、そうじゃなくてぇ……
 掠れた声が甘く己を詰る前に唇を塞ぐ。逃げられないよう脱力しきった身体に体重をかけて奥まで犯しても、一向に興奮が収まらない。本能に促されるまま目の前の細い首に噛みつくと、可哀想なくらい魔術師の肩が震えた。かろうじて血は出ていない。傷口を確認してから、自分自身のとった行動に少し笑った。こんな真似をしておいて今更だ。けれど細い指は弱々しくも黒鋼の手を握り返している。
 ファイが差し出す受容に甘えているのはわかっていた。それでもこの夜が明けきるまでは、こいつの優しさを余さず食い尽くしてしまいたかった。





 すっかり明るくなった寝所で隣に寝転ぶファイは、ほとんど力の入っていない手で黒鋼の頭を撫で続けている。その手首には、誰のものか疑う余地もない指の跡が残っていた。これが自分よりいくらか年上であることは承知しているが、それにしてもこうまで好き勝手に振舞ったにもかかわらず、子どものように宥められているのは非常に決まりが悪い。
……
 魔術師の唇は確かに日本国の言葉でふざけたあだ名を形作ったのに、耳に届くのは囁きですらない息遣いだけだった。思わず顔を顰めると、皺が寄っただろう眉間に軽く口づけられる。意識を失っている間に黒鋼が身体を清めたとはいえ、ファイの身は間違っても表には出せないくらいひどい有様だった。それでも当の本人は随分機嫌が良いらしい。

 纏わせただけの羽織から覗く首筋は、いくつもの大きな歯形がついていた。至る所に散った内出血は言うまでもなく、最中に幾度となく掴んだであろう手首や足首、腰のあたりは黒鋼を執着を示すかのように痕になっている。場所によっては赤紫に変色していて、これが同意の上の行為だったと説明しても納得する者など居ないだろうと、無体を働いた己ですら思うほどだ。
 首から下を覆い隠そうとも、気怠げな様子は誤魔化しようがない。目尻は赤く染まっており、こうして声を出すことにも苦労している。予定していた子どもたちへの連絡は、当然ながら日を改めねばならなかった。

 息を吸ったファイが、背を丸めて咳き込む。起き上がらせ、用意していた水差しから煎茶碗に移したとろみのある液体を差し出した。ゆっくりと喉を潤わせてから、ファイは途切れ途切れの、それでも先ほどよりは明瞭な声で呟いた。
……ショウガだぁ」
「おまえが全部飲め」
「作ってくれたの? あまくておいしい……
 身体中に物騒な痕を残された魔術師は、それでも呑気に黒鋼へ微笑んでいる。
……おまえが作った酒も美味かった」
「ほんと? よかったー」
「来年の分も作れ」
「いいけど、黒様ってば気が早すぎるよぉ」
 心底おかしそうに笑うファイに口づける。触れた唇からは、胸焼けしそうなほど甘ったるい味がした。

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「(過去ポストより)日本国に連れ帰ってしばらくしてから、やっと実感がわいて箍が外れちゃう黒鋼」
リクエストありがとうございました!