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雨鶴
2026-05-25 09:48:58
2687文字
Public
お題話
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創作(仮)昔話
長次以外の六年生が語る創作昔話リレーですが、何だかおかしな感じ。
初#nkzik_drawwriting品
数ヶ月に一度。上級生が下級生に創作話を聞かせる場を設ける会がある。
これは四年生から外地任務に向かう事が多くなる為、市井の人びとから情報を聞き出す力や、集めた情報を上手く使う機転を養う為でもあった。
それと同時に、下級生は授業の一環として『どの様な話だったか』と、教師達からプチテストを受けさせられる。
これもきちんと情報を汲み取っているかどうかを養う為でもあった。
ちなみに今回は六年生の五人。六年生は任務が多い為、この会に参加する事自体が珍しい。好奇心に満ちた一年生の目が五人へ注がれた。
(
…
順番は小平太、文次郎、仙蔵、留三郎、伊作か)
この修練に関して、図書委員会に在籍する上級生の参加は任意である。
本を読み込み、沢山のお伽噺、民話、口伝などを知っている図書委員会の人間にとって話を創る事は容易い事だ。
それに長次は四年の時分に土井先生と山田先生から、もう参加しなくて良いと言われていた。
何故なら。
「お前が参加すると、他の連中が頼りっきりになる」
「あと、壮大な軍平記にすると終着点を作るのも大変だから。小平太がスゴい悩んでいたぞ」
──と。
それからは、同級生の話を聞いて総評する役目になっていた。
「どんな話しかなぁ」
「楽しみだね」
一年生達が座り並ぶ教室の後ろへ、長次は土井先生と一緒に並び立つ。
「さあ、始めるぞ」
山田先生の声で場が静まり、小平太が話し始めた。
「えぇと、うぅん。昔むかし
…
あるところに男が居ました」
どうやら小平太は昔話にするようだ。
(幼い弟妹が居る小平太なら有り得る出だしだな)
座学が苦手な小平太は続きが思い付かぬようで、そのまま長次が見ているとパチリと小平太と目が合う。
すると、さっきまで悩んでいたのが嘘の様に、いきなり笑顔になった。
「昔々、あるところに男が居ました!男は無口で頬に傷もあって愛想が無い男でしたが、とても博識で心根の優しい男でした。男は毎日、本を読んだりボーロを作って過ごしていました!ハイ、文次郎!」
「はぁ!?何だよ、その出だし!?」
小平太の出だしに六年生はおろか、一年生もざわつき始めている。
「
…
中在家先輩の話?」
「中在家先輩がモデルなの?」
ヒソヒソ話も数が集まれば、結構聞こえるものだ。
(
…
小平太め。いくら創作とは云え、私を使うな。文次郎が困っているではないか)
思っても見ない話の出だしに、やはり文次郎は頭を悩ましているようで、暫く考えた後に口を開いた。
「長次、じゃねえ。えぇと、男は山へ芝刈りに行くと光る竹を見つけて」
(私は『竹取の翁』にでもなるのか)
無理矢理おとぎ話に修正してきたな、と長次が聞いていると。
「男が光る竹を切ろうとすると、白い犬がやって来て筍が沢山這えている場所を教えてくれました。男は筍をたくさん収穫して犬と山を降りました!つぎ、仙蔵!」
「どうしたらそうなる
…
!」
(仙蔵の意見に同意だな。白い犬は神の遣いとも云うが、この場合ヘムヘムかもしれん。色々と話を混同させ過ぎだ)
此処からどう巻き返すのか。こめかみに指を当てている仙蔵へ、長次は視線を流す。
「犬と帰る途中、男は嘆く娘と翁に出会います。事情を聞くと村の掟により、生け贄にならねばならない。それを聞いた男は身代わりを引き受けました」
(
…
ふむ、さすが仙蔵だな。何とか戻したか)
仙蔵も伊達に作法委員長をしていない。
多種多様な文献を調べたり、時には貴族や武家屋敷にも出入りするせいもあって話術も然る事ながら、知識もある。
「心配する二人へ男は言います『困っている人を見捨てては置けない
…
それに、この犬が役立つ事でしょう』と。つぎ、留三郎」
「はあ?犬?犬か
…
」
留三郎は腕を組んで、話の続きを考え込んでいる様子だ。
(犬を出すなら『猿神退治』などを引き合いに出せば、上手く創れるが
…
どうする?)
唇へ指を掛けて思案仕草を長次は取ると、そのまま留三郎を見つめた。
「そうだな。男は生け贄を所望した者達の住み処へたどり着き、悪人達と対峙する。男は得意武器の縄鏢を手にすると、悪人を千切っては投げ、千切っては投げ飛ばしていった!」
留三郎が話し始めた内容に、長次は溜め息を吐いた。千切っては投げる動作はおかしいだろう。
それに縄鏢を出した時点で、ほぼ私の話ではないか!創作話だろ、これは!
「倒れ伏した悪人たちへ男は静かに言います。『人間を拐うなんて悪人のする事だ。これからは性根を入れ替えて真面目に働け。その為にはまず、本を読め』と、言い聞かせました。ホレ伊作」
「ええ!?そこで区切るのォ?」
留三郎が展開した話に、伊作が巣っ頓狂な声を上げた。
それもそうだろう。普通で考えれば《めでたしめでたし》で終わっても良い下りだ。
(
…
悪さをするから悪人なんだろう。私は悪人に諭す様な事などしない。それに、犬はどうした)
留三郎が渡したキラーパス物語に、伊作の眉間はあり得ないくらいに歪んでいる。あんな皺、徹夜明けの文次郎でしか長次は見たこと無い。
「う~ん、う~ん
…
。あっ!男は娘達のいる村へ行き、今後生け贄の心配は要らないと伝えました。預けていた犬と僅かばかりの謝礼を受け取ると、帰りにボーロの材料を買うと、仲間が待つ家に帰りました!オシマイ!」
何とか〆た。と言った感じである。長次は呆れてものが言えない。
(
…
一人暮しだったのが、いきなり仲間が増えた。どっから沸いたんだ、その仲間とやらは)
「
…
く」
ふと、小さな声が隣から聞こえた。そちらに顔を向けると、土井先生が口に手を当てて笑いを堪えているではないか。
「
……
」
長次が再び一年生たちを見遣れば、一年生も必死で笑いを堪えているのが分かる。肩が震えている。
逆に『い組』の生徒は真面目すぎる故、この無茶苦茶な話を考察し始めた。ハッキリ言って無駄である。
こんな物語で、テストを受ける下級生が可哀想だ。
「
…
山田先生、土井先生」
長次が静かに口を開き、二人を呼ぶと「今回の授業は無かった事にして下さい」と伝えた。
「しかしなあ、中在家」
六年生が語る事なんて滅多に無いからなァ、と山田は腕を組みながら考えた。
「
…
後日、披露出来るレベルまで話を叩き込んできます。その時にもう一度」
話終えて和気あいあいとしている五人を、長次の目付きが鋭く捉えていた。
五人は知らない。
これから約1ヶ月近く。長次から多種多様な昔話を、徹底的に聞かされる日が続く事を。
…………………………
創作(仮)昔話 了
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