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okanon
2026-05-24 23:06:18
6601文字
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モスファイ
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海に沈む夏空【🍷☀️】②
学パロモスファイ
(三)
翌日、ファイノンはいつも通り登校してきて、昨日のことなんて無かったかのように接してきた。本当にあまり触れてほしくないのだろう。体調が悪くなっていないか気にしつつも、モーディスも変わらず接するようにしていた。
ファイノンが転校してきてから一ヶ月、気温はさらに上がり本格的な夏がやって来ていた。迫る期末試験とその先にある夏休みに、焦って勉強している人、気楽に夏休みの予定を立てている人など、教室の中はこの日も人の声で溢れていた。
「ファイノン、身体の調子はどうだ」
「もう特に問題ないよ。昨日は迷惑かけたね」
「ふん、落ち着いたならそれでいい」
この一ヶ月の間でも、ファイノンは何度か熱を出していた。その頻度は良くて二週間に一度、悪い時は週に何度も発症する時があり、かなりまちまちだ。
その度にモーディスが面倒を見ていたので二人の距離は自然と近くなっていき、今ではクラスメイトから「仲がいいな」と言われるほどだった。
「そういえば、数学の試験範囲が出たけど、ここってモーディスが苦手だったところじゃないか?授業でここの問題解いてる時、よく手が止まっていただろう?」
「貴様こそ、世界史のテスト範囲の広さに顔を青ざめていたと思ったが、違ったか?」
見つめ合う二人の間に火花が散る。互いに相手の隙を伺い、相手を負かす次の一手を読み合っている。
何事かと周りの生徒が固唾を呑んで見守る中、動いたのはファイノンだった。
「
……
モーディス、ここは公平に勝負しないか?」
「ほう、勝負
……
というと?」
「放課後、図書室で互いに勉強を教え合う。そして相手に高い点数を取らせた方の勝ちだ」
「それだとわざと間違えて点数を下げられるのではないか?」
「はは、まさか君はそんなズルをしないと僕に勝てないって?」
「はっ、俺ではなく、お前のことを言っている」
煽り合う二人の強気な視線が絡み合う。答えはもう、とっくに出ていた。
「いいだろう。その勝負受けて立とう、ファイノン」
「絶対良い点数取らせてやるからな、モーディス!」
勝負宣言をした二人を見ていたクラスメイト達は皆思ったことだろう。
——
本当に仲がいいな
……
。
それからほぼ毎日、モーディスとファイノンは放課後になると図書室へ向かい、二人で教科書と睨めっこしていた。苦手分野を教え合い、ペンを走らせること数日。二人の練習問題の正答率は少しずつだが上がっていた。
「
……
おい、この式は何故こうなる」
「そこはこの公式を当てはめるんだよ。
……
ねえ、この戦争ってなんで起きたんだっけ?」
「それはその少し前にこの問題が起きたからだ」
この日も図書室から人気が無くなる時間まで問題と向き合い、気づけば外の日も傾き始めていた。明日は休みだから、早めに切り上げてもいいかもしれない。そう思い片付けを始めたモーディスは、雑談のつもりでファイノンに話題を投げかけた。
「
……
そういえば、お前は週末に何をしているんだ?」
「
……
え?なんだよ急に」
「お前は学校外の話をあまりしないだろう。ゲームもテレビも話が通じないお前に、クラスメイトから泣き付かれたことがあった」
「ええ?そこでどうして君の所へ行くのさ」
「さあな、趣味の話をしないお前が、皆気になっているのだろう」
モーディスがそう言って肩をすくめると、ファイノンは動かしていたペンを置いて困ったように笑う。
「趣味がないわけではないんだけど、人に言うことでもないというか
……
」
「
……
まさか、人に言えない趣味が
……
」
「あるわけないだろ!」
のらりくらりと躱そうとしたファイノンだったが、これ以上はあらぬ誤解をされそうだと溜息をつき、渋々話し出した。
「
……
人探しをしているんだ。今どこで何をしているのか
……
いるのかも分からない、昔の知り合いをね」
「人探し?どんな風にだ」
想像もしていなかった話に、思わずモーディスは前のめりになった。気まずそうに視線を彷徨かせる目を、「ここまで来たら逃がさないぞ」とじっと見つめる。
「ネットで調べたり街を歩いて探したり
……
会って何かしたい訳じゃないんだ。ただ
……
何の心配も憂いもなく、自分だけの人生を生きてるみんなが見れたらなって
……
」
「みんな」、つまり複数人いるということだ。なんの手がかりもない中一人探すだけでも大変だろうに、複数人を同時に探しているということは、本当に趣味などなく全ての時間をこれに捧げているのだろう。
「
……
それは、お前の人生を犠牲にしてまですることか?」
人のプライベートにとやかく言うつもりは無かった。しかし、かけた労力に対して何も求めない姿勢がやけに不安定に見え、気づけばそんな言葉がモーディスの口から零れていた。
「
……
少なくとも僕は、犠牲にしているつもりなんてないよ」
彷徨わせていた視線が、モーディスを捉える。空を思わせる青い瞳の奥に一瞬だけ、暗い海が見えたような気がした。
あっという間に期末試験の期間に入り、モーディスとファイノンは公平かつ真剣に勝負をするために必死にペンを動かした。
そしてテストの結果が出揃ったこの日、二人は決着をつけようと席で向かい合っていた。
「負けても恨みっこ無しだからね、モーディス」
「ふん、さっさと見せ合うぞ」
カサリと一枚のテスト用紙を手に取り、互いに目配せする。それを合図に二人は同時に動き出し
——
『数学:六十八点』『世界史:七十二点』
「これは
……
つまり
……
」
「はっ、俺の勝ちだな」
ファイノンは崩れ落ち、モーディスは得意気に笑う。顔を上げたファイノンは、未だに悔しそうに拳を握りしめていた。
「点数は僕の方が上だし
……
」
「勝負の内容を決めたのはお前だろう、恨みっこは無しだ。
……
まあ、今まで点を落としていた基礎問題はほとんど解けるようになっていた。お前の教え方は悪くない」
「ぐっ
……
、もっと応用問題も教えておくんだった
……
はぁ、今回は僕の負けだ。確かに君の説明はまとまっていて、分かりやすかったよ」
素直に互いの健闘をたたえ合い、目が合うと自然と笑みが出る。モーディスが互いに認め合い、切磋琢磨するファイノンとの勝負にどこか温かさと懐かしさを感じていると、突然ファイノンが声を上げた。
「そうだ!せっかく勝負したんだし、勝者には褒美を与えないとね。何か僕にお願いとかあるかい?」
「は?貴様からの褒美など
……
」
「まあまあ、購買のパンを買うとか、帰りのコンビニで何か奢るとか
……
色々あるだろ?」
「
……
ついでに自分の分も買うつもりだな?」
「あはは
……
小腹空いてきちゃって」
頬をかくファイノンに呆れながら、ふと席の後ろにある黒板に目を向ける。そこには生徒の誰かが張ったのか、花火大会のチラシが張られていた。日程的に、ちょうど夏休みに入ってすぐにあるらしい。
そういえば以前、ファイノンは趣味がないと話していた。
……
夏休みも変わらず、人探しに明け暮れるのだろうか。そう思うと、気がつけばモーディスはチラシを指さしていた。
「
……
なら、花火を見に行くぞ」
「
……
へ?は、花火大会?」
「ああ、そこにチラシがあるだろう」
「いや、知ってるけど。え、君と僕で?花火大会に行くって?」
「そうだと言っている」
ファイノンはチラシとモーディスを交互に見ては、何か言おうと口をパクパクさせていたが、モーディスが冗談を言っているつもりでは無いことが分かると仕方なさそうにため息をついた。
「
……
君ってたまにすごく頑固になるよね。
……
分かったよ、君の仰せのままに」
「フン」
満足気に頷くモーディスにぱちくりと目を瞬かせると、ファイノンは思わず笑いを吹き出してしまった。
「ふふ、そんなに花火大会に行きたかったのかい?君って可愛い所もあるんだね」
「ふざけた事を言うな。お前の人生経験を増やしてやろうと誘っているんだ」
「ぼ、僕だって花火くらい見に行ったことあるさ!
……
行ったのは小さい時だったけど」
テストから解放され賑わう教室に、笑い声がまたひとつ増える。太陽の日差しが強く風は生温いが、活力溢れる学生達の夏休みへの期待は、そんな不快感をも吹き飛ばしていった。
(四)
夏休みが始まり、数回太陽と月が入れ替わった頃、モーディスの部屋にあるカレンダーに付けた印と、同じ日付が表示されているスマホの画面をモーディスはじっと見つめていた。
今日はファイノンと約束した花火大会の日だ。時間にはまだ余裕があるが、花火大会は誰もが楽しみにしている人気行事だ。人も多いだろうし、早めに行って損は無い。
正直に言って、モーディスは柄にもなく浮ついていた。学校で交わすファイノンとの会話は思いの外心地良いもので、彼と話さなかったこの数日を退屈に思っていたのだ。
人混みでも動きやすいように半袖の黒シャツと長ズボンを来て、家を出る。もう一度大会の会場への行き方を確認した後、近くの駅へと歩き出した。
会場の最寄り駅に着くと、駅内は想像以上の人で賑わっていた。人の流れに乗って移動しながらも、すでに駅に着いているはずの白髪を探す。しばらく進むと、柱の傍に立っている見慣れた白髪を見つけ
……
「あ!モーディスいた!」
「ファイ、ノン
……
浴衣を着てきたのか?」
見慣れたはずの彼は、見慣れない着物に身を包んでいた。紺色の着物からすらりと伸びた手足が除き、白い肌と髪を更に引き立てている。
「あはは
……
これ、父さんのお古なんだ。季節の行事が好きな人でさ、僕が花火大会に行くって言ったらわざわざ引っ張り出してきて、僕に合わせて仕立て直してくれたんだ」
「そうか
……
良い父親だな」
「そ、そうかな?でも、君がシャツで来るなら僕もそうすれば良かったよ」
そう言って照れたように笑うファイノンに何故か一瞬胸が熱くなったが、モーディスは気のせいかと気を紛らわせるようにスマホを取り出した。
「会場へ向かうなら出口はこっちだ。はぐれるなよ」
「僕なら平気さ、靴はちゃんとサンダルを履いてきたからね」
「
……
そういう事ではない」
歩いて行くうちに更に人は増え、会場への通り道には屋台がたくさんの屋台が並んでいた。あちらこちらから食欲をそそる香りが漂い、注文する客や呼び込みをする店主の声が道いっぱいに響いている。
「モーディス!焼きそばだ!あ、でもあっちの焼きもろこしもいいな
……
」
「花火が始まるまでは時間がある。ゆっくり回ればいいだろう」
「それもそうだね
……
あ!あそこのスーパーボールすくいで勝負するのはどうだい?」
「ふん、それで俺の連勝記録を止めるつもりか?」
「連勝って言ってもまだ二回だろ!」
スーパーボールすくいに射的、ボール当て
……
屋台でご飯を食べつつ遊んでいると、あっという間に時間は過ぎ、花火の開始時間が迫っていた。
「ふう
……
まさか引き分けで終わるなんてね」
「次は俺がリードするだろうな」
「いや、次も僕が勝って
……
」
いつもの煽り合いが始まるかと思えば、そこでファイノンの言葉が途切れ大きく体がふらつく。何とか足で体を支えたが、額には暑さからではない汗が滲み、息も上がって
……
彼の白髪が、金色に染まり始めていた。
「あ、あれ
……
?なんで
……
」
「ファイノン、まさか熱が
……
っ、帰るまで保ちそうか?」
突然のことに慌てたモーディスは、急いで帰りの電車の時刻を確認しようとスマホを取り出した。しかしその腕を掴み、止めようとしたのはファイノンだった。
「ま、待ってくれ、これぐらいなら無理に帰る必要は無いし、少し休めば治まるだろうから
……
」
「こんな所で体調が良くなるわけないだろう、安静な場所で横になるのを優先すべきだ」
「でも
……
!」
「今にも倒れそうな奴が何を言っている!」
思った以上の声量が出て、ハッと気づいたモーディスは慌ててスマホから目を離し、ファイノンの方を見る。酷く苦しそうなその顔に、モーディスは頭から冷水をかけられたように自分の過ちに気づいた。彼が誰にも心配をかけたくないと思っている事を誰よりも知っていたはずなのに、心配を理由に彼の気持ちを無視しようとしていたと。
先ほどまでよりも冷静になった頭で、今度こそファイノンと向き合う。
「
……
なぜ、そんなにも帰りだからないんだ。体は辛いんだろう」
「耐えられないほどじゃない
……
それに、ずっと楽しみにしてたんだ。
……
君と花火を見るのを。この浴衣だって、断ればよかったのに僕もノリノリで着ちゃってさ」
そう言ってファイノンは自分の浴衣を見下ろした。モーディスが心待ちにしていたように、ファイノンもまた、この日を楽しみにしていたのだ。
「熱が出ているのに気づかないぐらい君との勝負に夢中になってた。なのに
……
こんな風に終わるなんて、あんまりだと思わないか?」
その瞳はしっかりモーディス自身を捉え、その言葉には震えもない。彼の言うとおり、症状はいつもより軽いのだろう。
引き下がる様子のないファイノンに、モーディスは折れるしかなかった。
「
……
少しでも悪化したら、すぐ帰るからな」
「!分かった!」
「
……
なら、人気の無い場所に向かうぞ。そこなら落ち着いて花火も見られるだろう」
そう言ってモーディスはファイノンの手を取り、歩き出した。ファイノンは突然のことに目を見開き、思わずモーディスの方を見た。繋がれた手は、熱のせいかやけに熱い。
「も、モーディス、手なんか繋がなくても歩けるよ」
「フラフラ歩いて、転倒したりはぐれたりしたらどうする」
「そんなヘマしないさ
……
」
拗ねたように言いながらも、ファイノンはその手を無理やり離そうとはしなかった。
少し歩いた場所に人気のない穴場スポットを見つけた二人は、地面に並んで座って空を見上げていた。もう少しすれば花火も始まるだろう。
「花火の時間に間に合ってよかったね。
……
そうだ、今回の花火大会、テーマがあるって知ってるかい?」
「無理に喋ろうとするな。体力を消耗する」
「少しくらい平気さ。ほら、君も聞いた事あるだろ?この星の成り立ちについて書かれた神話のこと」
「
……
元はデータだった星が、人々の記憶に刻まれ星になったという
……
あれか?」
歴史の授業でもやらないような不確かな神話の物語を、遠い記憶から掘り起こす。この話を、一体どこで知ったんだったか。
「そうそう、その話をイメージした花火なんだって。珍しいよね」
「神話など
……
所詮物語だろ」
「あれ、君ってそっち派だったのか?じゃあ
……
こんな話も聞いた事ないのかな。」
モーディスに夢中で話しかけていたファイノンは、そこで視線を空に戻し、その遥か彼方を見つめるように見上げた。今ではなくずっと遠い過去を見つめような眼差しに、モーディスは落ち着かない気分になる。
「星が生まれた時、きっかけになった人物がいるんだ。人々は彼らを"黄金裔"と呼んでいて、終末の世界に希望をもたらしたと言われている。
……
そういえば、彼らの中に興味深い名前の人がいるんだ」
「
……
名前がか?」
「ああ、その人の名前は
……
」
——
ドーンッ
その瞬間、体を揺らすような音が響き渡り、ファイノンの声をかき消していった。神話の話から一気に花火へ目を奪われたファイノンは、続きを話すのも忘れて花火に見入っている。置いてけぼりをくらったモーディスは、呆れながらも花火の光に照らされるファイノンの横顔を見ていた。声としては届かなかったが、彼は見逃さなかった。あの時、ファイノンは確かに人の名を呟いていたのだ。その口の動きを、モーディスが見間違うはずがない。
『その人の名前は
……
"モーディス"』
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