燈 ともしび
2026-05-24 22:40:32
2590文字
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リクエスト12:ぎゆさね【捕まえる】

現役軸の二人のお話です。
🦋さんが出てきますがあまり本筋には関係なく、ひたすら二人がいちゃついているいつも通りの仕上がりです🤤
リクエスト:🌊×🍃でご都合血気術よんでみたいです
リクエストありがとうございました😊

「血鬼術ですねぇ」
 胡蝶ののんびりとした声が逆に神経を逆撫でする。そんなのとっくに分かっている。分かっているからここに来たのだ。教えて欲しいのはそれではない。解除方法、それだけを求めて蝶屋敷まで来たというのに。
 なのに、胡蝶は続けて
「命に関わるようなものではなさそうですし、夜明けと共にたくさん陽の光を浴びて下さい。それしか対処のしようがありません」
 なんて笑ってぬかす。
……それしかこれはどうにもならねェってことかよ」
「あら。よく分かっていらっしゃるじゃないですか不死川さん。なのでこのままお帰りいただいて大丈夫ですよ」
「これで帰れと?」
「お嫌ならここで静養なさいますか? 私はそれでも良いですけれど」
……帰る」
「あら、そうですか。お大事に」

「ああ。歩き辛そうですがお気をつけて」
 診察室を出る時に胡蝶がそう言ったのは絶対わざとだと思う。だって視線は俺と『隣』に向けられていたしずっと笑顔だったのだから。絶対にあれは面白がっている態度だった。

 診察室の扉を閉めて廊下を歩く。いつもよりゆっくりと。
 聞こえても構わないので大きなため息を吐き出す。すると『隣』からも同じように息を吐く音が聞こえた。
「不死川、迷惑をかけて済まない」
「本当にそう思ってんなら黙ってろォ」
……分かった」
 そう。今の俺は一人では無い。隣に水柱である冨岡がいる。いるというよりも、くっ付いている。
 全ては昨夜の任務のせいだ。

 元々は俺が派遣された任務だった。
 柱が派遣されるくらいなのだから鬼も簡単には首を斬らせないような力のある強い鬼。けれど少しずつ鬼の力を削ぎ、あと少しで首を斬れるというところまではきていた。
 これで決める。そう踏み込んだ時、奴の背後からそれまでいなかった筈の子どもの鬼が現れ、弱り始めていた鬼が何故か強くなってしまったのだ。もしかしたら子ども鬼を守りたいという本能が働いたのかもしれない。
 親の鬼と子どもの鬼。二体とも首を同時に斬らないと駄目だ。そう判断したものの、その場にいた隊士達は俺が来るまでにすでに満身創痍になっていて同時に動けるくらい体力が残っている奴がいない。
 クソッタレがァ。どいつもこいつも鍛錬が足りてねぇんだよバカが。そう悪態を吐いてもこの状況は変わらない。
 そんな時、隊士の鴉が近くにいた冨岡を呼んで来たらしく、現着するなりその場の状況を即座に理解して俺と動きを合わせて飛んだ。俺は親鬼を、冨岡は子ども鬼の首を同時に斬る。
 そして、鬼は二体とも消滅した。
……筈だった。

 冨岡がこちらに近付いてくるなり俺の右手を自分の右手と繋ぐ。
「は?」
 思わずそう言葉を漏らした時にはもうがっしりと繋がれていて、そして最悪なことに離そうとしても離れない。
「はァ?!」
 訳が分からず振り回したがそれでも離れない。
「不死川」
 俺は焦っているのに冨岡は真顔で。
「なんだよ! 離せ!」
「すまないが……首を斬る時に血鬼術を浴びたかもしれない」
「はァア?!」
 最悪な言葉を吐き出したのだ。

 鬼の子どもは冨岡に首を斬られる直前、
「お父さん!」
 と叫んだらしい。やはり親子鬼だったようだ。もちろん構わずに首を斬ったのだが、その時に頭の中に
「手を繋いで。怖いよ、お父さん」
 と声が聞こえ、首を斬り終わった後に猛烈に誰かと手を繋ぎたくなってしまったと。
 未熟かよ。しかもよりによってなんで俺を選んだ! そう怒鳴っても今更。
 冨岡と俺は手が離れないまま一縷の望みを賭けて蝶屋敷へ向かったのだ。まあ、無駄足だったが。これでは何のために後片付け中の隠達の興味津々な視線を我慢してまで来たのか分からない。

「不死川」
「うるせえ、黙れ」
「なあ、うちで良いか」
「黙れって言ってんだろ」
 解除が陽の光だけだと言うのなら一刻も早く人目を避けられる自邸に帰りたい。そう思っているのに当事者の冨岡は呑気に話しかけてくるから苛つきが治らない。
「不死川は右手が使えないのだから俺の家のほうが良いと思う」
「どう考えてもテメエの右手より俺の左手のが器用そうだけどなァ」
「確かに」
 冨岡は笑っている。苛つきが治らないので足で冨岡の脛あたりを蹴飛ばしておく。が、右手が繋がれたままでバランスを崩してあまり当たらなかった。更に苛つく。

「不死川」
「黙れ」
……あまり怒るな。元々、うちに来る予定だったろう?」
 バランスを崩されたあと、冨岡は繋がっている手ごと俺の身体をを引き寄せ、耳元に囁く。

 うるせえな。だからだよ!
 それは声に出さなかった。

「陽の当たる場所に布団を敷くから一緒に寝よう。そうしたら起きた時には術も解けているだろう」
……解けてなかったらどーすんだよ」
「なら、俺が責任とって不死川にご飯を食べさせてやろう。鮭大根の骨もちゃんと取るから」
「テメエの箸使いは下手くそだからヤダ」
 冨岡はまたくすくす笑う。耳元で。絶対わざとで。俺がテメエの声に弱いのは分かってんだろ。
 早朝で人目が無いとはいえ、天下の往来で野郎同士が手を繋いで顔を寄せ合ってるなんて誰かに見られたらたまったもんじゃ無い。それなのに元凶の冨岡は途中から反省した様子を見せないし、俺のことを軽々と抱き寄せてくるから苛つく。

「ひとつ、胡蝶に言わなかったことがある」
「ア?」
 凄んだけれど、多分今の俺は迫力なんてないだろう。クソッタレ。   
「誰でも良かったのではないんだ。あの鬼は明確に好きな人と手を繋ぎたいと言っていた。だから戦闘後の高揚感もあって真っ直ぐ不死川に向かって行ってしまったんだ」

 クソッタレ。死ねよ。なんでそれをここで言うんだ。耳がくそ熱いじゃねェかよ。

「不死川、うちで良いよな」
 冨岡は笑ったまま繋いだ手に力を込める。
「俺の意見なんて聞く気もねぇくせに」
 それだけを言い返す。
「まあ、逃がす気はないな。久しぶりなんだ。不死川を抱きしめて寝たい」
……勝手にしろ」
「勝手にする」
 冨岡はずっと楽しそうだ。俺は色々勝手な冨岡に苛つきが治らないってのに。
 でも一番苛つくのは、無意識のうちに冨岡の手を強く握り返している俺の心だったりする。
 クソッタレが。