asahito
2026-05-24 22:09:06
4085文字
Public
 

XYZ④

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

洋酒と洋菓子って合いますよね

 来月のカレンダーを早く出してほしいと言われることが多くなる月。そんな月が、もう近づいているというのか。
 今年もあっという間だったなと思うとすぐさま冬の繁忙期が口を開けて私の疲労を嘲笑う。稼ぎ時とは言ったって、その稼ぎには労力が伴うのは避けられない。
 そこを越えてこその静かな年末と年越しがあるにしろ。たかが一週間で様変わりなんて、本当によくできてやがる。
 年越し前に私に挨拶してから、と嬉しい事も言ってくれる常連もいるが。雰囲気に惹かれて初めて来店の客が多いのもこの時期だ。
 暖房を利かせた部屋で、ナイフで氷を丸く削りながら今年あったことをしみじみと思い出してみる。毎年毎年変な来客やら厄介客やら刺激に事欠かない商売だとは思うが。
 今年は特に、変わったカップルがうちの常連になるし。明らかに普段うちなんて来やしないであろうお高く纏った奴が最近は来るし。
 どちらからも私に似た奴が別の場所のどこかにいる様な口ぶりで質問は受けるしで、一体私が何かしたかと言いたくもなって来る。
 世の中には似た人間がいるとは言うが。こんな狭い範囲でいてたまるか。それでもって、あのお高くまとった金髪の方からは似ているがやっぱり違うという褒めているんだか、いや絶対貶してるだろという評価を頂いたわけで。
 あの後何か変わったことや堅気じゃない連中に突撃されたというわけではないが。その情報を得る前の精神ではいられまい。
 案外、魅須丸に聞いてみれば思い浮かぶやつがいたりもするのか。ザク、ザクと小気味よく削っていくと球状の氷が仕上がっていく。
 ひたすら練習して大分綺麗な球が作れるようにはなったが、私の前で手元を眺める奴からはまだまだ真球には縁遠いという厳しい評価を頂いている。
「お待たせ。いつものウイスキーのロック」
……以前の球よりも形がよくなりましたね」
 その厳しい審査員魅須丸は、コースターの上に置かれたグラスを眺めるとその氷の丸みをじっと眺めていた。どうやら、今回の氷は及第点らしい。
「ええ。かなり磨きの技術に力を掛けましたから」
 美しい球とは何ぞや、という蘊蓄をひたすら聞かされていると少しは良くなるのだろうか。褒めて貰えるのは嬉しい。
 だが、グラスの輝きや氷の形も大事にしてもウイスキーの味が確かであることがもっと大事だろう。
 外の気温に反して懐具合が温かい魅須丸は、特に来る頻度が増えたわけではなく。時々ふらりと猫の様に現れてはウイスキーのロックを強請り。私に鉱石の蘊蓄やアクセサリーのデザインについて話したら帰っていく。
 私の発注したアクセサリーについては、凝ったものを作りたいらしく渡すのは年末か年明けになるかもしれないと言っているが。
 別に優先的にしてもらう気はないし。何か貸しのようなものを相手に作らせるのもあまり好きではなかった。気が向いたら、でいいのスタンスが合っている気がした。
 指輪の様に何かの関係性を示すようなものはお願いしてないのだから。それを急かすのも、格好悪いだろう。今だって魅須丸のネックレスは私の首元で光っている。
「精進しているのなら感心です」
 そう言って、魅須丸はウイスキーのグラスに口をつけて飲み始めた。今夜の最初の客は魅須丸。そのほかの客は来る気配がない。
 二人きりになれるのは良いし、会話は尽きることはない。寧ろ二人きりだからこそ聞けることもあるので最近起きた奇妙な事についても聞いてみても良いかもしれない。
「研鑽は日の目を見ずとも無駄にはなりません。石の輝きも冷たく澄んだ水に磨かれてこそ、です」
 自分で調べたりするよりも、質問をつぎ込めば数百倍の知識で回答できるものがあるこの世の中で。悠長なことも言ってられない気もするが。
 まだ魅須丸の言うようにAIが介入しきれない部分はあるのだろう。介入というか、導入するに費用が至らないだけかもしれない。
 相手の気分によって飲みたい酒をAIが選んでくれるような機能は、もう搭載されていて。それを使っている客もちらほらは見る。私に聞かず、機械に聞いて思ったような味にならないときは正直安堵することもある。
 客の体調や仕草、嗜好は肉眼や会話で分かることも多い。その点では私の方が有利だ。それでも、時折。そこまで酒の拘りがない奴にはAIも私も同じかもしれないと諦観に似た思いを抱くこともある。
「なんとか合間縫って腕は磨こうとは思ってるけど。こうやる事が多いとなかなかそれだけに集中って言うのは難しいね」
 おまけに店の経営は酒を出せば終わりってわけじゃなく。支払いやら手続きやらで落ち着けやしない。賃貸の家賃も値上げするかもしれないと通達が来て、引っ越した方を検討する始末である。あそこ気に入ってるのに。
 もうすぐ終わりを迎えようとしてる一年の割に、私は何一つ終わっちゃいない。
 だからせめて来月のクリスマスの時に、魅須丸がうちの店に来てくれるかの確認もしておきたいのだ。そこだけは綺麗に終わりたい。
「忙しい方が山如は好きそうに見えそうですが」
 仕事好きな性分はばれているようだが。図星な部分を改めて言われるのは少し悔しい。
「まあ、何もすることがないよりかはいいけど忙しすぎてもきついって……それより、魅須丸って来月って忙しいかな」
「来月ですか?年末に玉造の集落には行きますがそれ以外は特に何も」
 出た。謎の玉造の集落。全国のあちこちにあるとは言ってるが、具体的に探してもまったくヒットしない謎の集落。
 単に親族の集まりをもっともらしく言っているだけかもしれないが。それにしても情報があまりなく魅須丸からも教えて貰えない。
 クリスマスに何か予定を入れてると言われなかっただけ良いか。というか、クリスマスくらい空けておいてもらえて当たり前なのに何故私がいちいち安堵しなければならないのか。一応付き合ってはいるのに。
「クリスマスはうちの店来るよね」
「ええ。山如が忙しくなければお邪魔しますが」
 クリスマスが忙しくないかと聞かれたら繁忙の中の繁忙の日ではあるが。私だって少しはいい思いしても良いだろう。
 魅須丸は平然と酒を飲んでいて特に照れることもなかったが。一応これでクリスマスは一緒に過ごす約束はできってことでいいのかな。
「店は客次第で早めに閉めるよ。どうせ浮かれた連中だらけだ」
 龍さんとかはクリスマスはあまり来る感じの客じゃないし。クリスマスより忘年会の人だからそっちを楽しむだろう。袿姫たちは家で豪勢モンでも食べてそうだし。
 ユイマンと阿梨夜のことも一瞬浮かんだが。あいつらも家でケーキでも買って仲良く過ごす姿が似合う。来たとしても、長居はせずすぐ二人きりで過ごしたがる。
 浮かれた連中の相手をいつまで自分はするのだろう、と考えると。安定しない自分の立場を嘆きたくもなるが。
 家でゆっくり魅須丸と過ごすプランを考えてもあまり想像がつかないあたり、現時点ではこれが限界ってことか。阿梨夜みたいにちゃんと身を固めてる奴がいる一方、生まれつきの根無し草じゃ金はなかなか貯まらないものだな。
 少し拗ねたような溜息を吐いてしまったのを魅須丸に気付かれたのか。魅須丸は私の顔を見つめて来た。
「そういえば、この近くにある洋菓子店知ってますか?」
「そこなら最近うちに出入りしてるから知ってるけど……そのアソートとかも仕入れた奴だし」
 いきなり何を聞いてくるかと思えば近所の洋菓子店のことか。これからお互い忙しくなるねと冗談は言い合ってるが、あそこに何か魅須丸は感じるものがあるのだろうか。
「この前あそこのショートケーキが美味しいと聞きましてね。アソートの味からも伺えます」
「あー、わかったわかった」
 魅須丸の遠回しのおねだりにすぐに気づき、何とかあの店にクリスマスケーキを注文できないかもやるべきこととして追加された。
 厄介事は、いつだって尽きない。だがそれがある限りは私は何かしらは魅須丸と繋がっている。
 ありきたりだが、クリスマスケーキとうちのとびきり良い酒で祝う夜も悪くはないだろう。
「ケーキは用意しておくからちゃんと来るんだよ。でないと他の客にあげちゃうから」
「私が約束を違えるとでも?」
 冗談めかして来なかったら他の奴に食わせると言うと。眼光鋭く自分の為にキープをしておけと言われる始末。
 言質はこれでお互い取ったという事か。疑うなんてことはしてないよ、と他の客がいないことを理由に魅須丸の顎に手を遣りちゃんと来る前に連絡してねと釘をさす。
 私の店であっても、こういった行為はあまり見られたくない。何人かの客は私と魅須丸両方を知っている以上は。
……来る時間が分かれば、あとは私の方でうまくやるから」
「稼ぎ時に稼げなくてこのお店大丈夫ですか?」 
 要らぬ心配だと言いたくもなるが。いずれ、私たちの関係が阿梨夜たちのようにもしもなったとしたら。必要な心配になる日も来るのだろうか。
「一応毎月黒字は僅かだけど出てますんで」
 将来の一抹の不安が翳り、その不安を振り払うように躰を倒して魅須丸に軽く口づけようとする。魅須丸が動かないのでこのまま行ってもいいかと思い触れようとした瞬間、掌で思い切り唇を制された。
「今夜は読みたい本があったのを思い出したので帰ります」
「え」
 今、絶対に行ける雰囲気だったでしょうが。何を感じ取ったかは知らないがあまりにも生殺し過ぎないか。業務時間にあるまじき行為というのは確かだがこの店は何度も言うが私の店だ。
 もう払い慣れたウイスキーとアソートの代金をちょうどで差し出されると。もう、それを受け取ってレジに持っていくしかあるまい。
「来月はちゃんとお店に行きますので。それまでちゃんと営業続けてくださいね?」
 荷物と上着を纏めて帰る準備をする魅須丸は。ともすれば、何かから遠ざかろうとしているようにも見えた。



続く