hatoko_mzot
2026-05-24 20:25:00
1200文字
Public 傀暮
 

夜は静かに


一緒に眠る🐈‍⬛🐍。
本当にただそれだけ。
とっっっっても短い。

書いてみたいなぁ、と何となく構想を練っている短編集の幕間にサブリミナルのように挟み込む予定だったお話。
書けてしまったので上げます。短編集を書けるかどうかもわからないので……。
季節外れなのは短編集が秋から冬にかけての時期のお話になる予定だからです。
ヴィクトリアの地方都市に部屋を借りてルームシェアしている🐈‍⬛🐈‍⬛🎀🐍✒️の日常を描いた短編集……書けたらいいなぁ……(願望)

あ、そうそう。全ては幻覚です。
お楽しみいただければ幸いです。

 ———ルシアン。
 夜のしじまの中にあってさえ聞き逃してしまいそうなほどに小さく囁かれた己の名に、閉じていた目を開ける。
…………何だ?」
 部屋の明かりを落としてから随分経つが、一向に隣の寝台から寝息は聞こえてこないので起きているのだろうとは思っていた。尤も、あちらもそう思っていたのだろうが。
…………そちらに行っても?」
 どこか虚な、いつにも増してぼんやりとした声が、暗闇の中にぽつりと落ちる。
 返事の代わりに羽獣の羽のたっぷり詰まった上掛けを持ち上げると、微かな衣擦れの後にひたり、と素足が床を踏む音が続き、密やかな風圧を纏った身体がするりと寝台の中に滑り込んできた。
…………。」
 迎え入れた体温は、今の今まで布団の中に入っていたとは思えないほどに低かった。胸元に押し付けられる頬も、ぎゅう、としがみついてくる腕も、落ち着ける場所を探して上掛けとシーツの間を彷徨う長い尾も、どこもかしこも。
 寒い、のだろう。一応暖房はつけているのだが、もっと温度を上げるべきだったのかもしれない。
 ヴィクトリアの秋は短い。斜陽の訪れは日を追うごとに早くなり、金色を帯びた冷たい風の中に冬の足音が大きくなってくるにつれ、備え付けの大分年季の入ったオイルヒーターの稼働時間は長くなっていく一方だった。
 今も夜を徹して老骨に鞭打ちながら健気に部屋を温め続けているオイルヒーターの方に目をやる。
 古びているせいか、時折ぎょっとする様な異音を発したり、スイッチを入れているにもかかわらず力尽きたように冷たくなっていたりと少々問題を抱えた代物なのだが、まさかまた勝手に止まってしまったのだろうか。
 どちらにせよ、少々温度を確かめに行きたい。だが、胴に回された腕を勝手に解いてしまうのは躊躇われた。
「シャレム」
 応えはない。身じろぎすらない。ただ、押し付けられた頬が、絡みつく腕がほんのわずかに力を増し、指先が寝巻きの背を握りしめる。
 つん、と背中の辺りを引かれる切ない感覚に、もしかしたら寒いわけではないのかもしれない、と何故だかそんな気がした。
 では、一体どうしたというのだろう。目と鼻の先に薄ぼんやりと浮かび上がる、黙して何も語らない白いつむじへ問いかけようとして、結局何も言わずに口を閉じた。
 ——やめておこう。夜とは静かであるべきなのだ。余計な問答などするべきではない。
 問いかけの言葉はそのまま胸の奥へと仕舞い込み、代わりに腕を伸ばして強張る身体を抱え直し、顎をくすぐる柔らかな髪に鼻先を埋めて目を閉じる。
 呼吸を重ねるたびに、じわじわと体温の差が埋まっていく。ゆっくりと混じり合い、いつもより僅かに高くなりはじめた温もりに誘われて、ようやく眠気が忍び寄ってくる。それでも、ぎゅっと縮こまった身体が緩み、腕の中から寝息が聞こえてくるまでは粘る事にした。

Fin.