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mado-ga-las1
2026-05-24 20:08:58
1437文字
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負い目
内容物:醜い感情が割と出ているホエ、ただ可哀想なファウ、思想の滲んだ半ポエム
呼び止められる前から、ファウストはホーエンハイムが尋ねようとしている内容を知っていたらしかった。
「そこまで」
強くはなかったが、断固とした響きで彼女は言った。
「
……
まだ何も言っていない」
「ファウストは言いました。貴方に与える懲戒について議論すると」
「懲戒なぞで研究者の好奇心を阻むことができると本気で思っているのか?」
「以前にも伝えたはずです」
初めからずっと、視線は合わなかった。彼女はホーエンハイムの着ているE.G.O装備の、胸ベルトの上から二番目の辺りを、必要もないのに注視しているようだった。
「好奇心は猫をも殺す、という言葉があります。ご存じでなかったかもしれませんが」
「断言するが、このホーエンハイムという存在がそれで終わるのであれば、私は自分の人生に望外の価値を見出すことができるであろう」
ホーエンハイムは鼻を鳴らした。灰色の双眸が、眼鏡の向こうからファウストを睥睨した。
「私の記憶は間違いなく正しいと確信しているが、君はあの、定期検診の時以上に脅すような表現を使っている。それは私の推測の正しさの
――
」
「ホーエンハイム」
ファウストは軽く顎を引いた。防御姿勢、という言葉がホーエンハイムの脳裏に閃いた。
「喋り過ぎです。感情的になるのは避けてください」
ホーエンハイムの頭のどこか片隅で、冷静なままの彼自身がその通り、とファウストの言葉を肯定する。自制が効いていない己には気付いていたが、もはや止める気も起きなかった。
「ああ。そうか。
……
『君』に言っても仕方のないことだったな」
ファウストはその時初めてホーエンハイムの目を見た。彼女は自分を睨んだのだ、と気付いた時には、ファウストは踵を返していた。
曲がり角の向こうに消えていく背中をホーエンハイムはただ眺め、彼女に言おうとして言わなかったことを思い返していた。
――
研究所への襲撃は、君たちの言う『流れ』の中で最初から予定されていたことだったのかね?
問うたところで、答えは返ってこないと分かっていた。
真理を目指すものはいずれ禁忌に触れる。自分も彼女も、いつかはその因果に相応しい禍を被る。その考えは、この会社に入ってからずっと、予感めいた形でホーエンハイムの中に存在していた。だが、実際に犠牲になったのは無辜の研究員たちだった。自分で最期を選べただけマートンは幸福だったと考えてしまう己の思考に、彼は吐き気を催した。罪に手を掛けておきながら、周囲の人間の無事を祈ることの、なんと身勝手なことだろうか。
それでも、だからこそ、ホーエンハイムは本当のことを知りたかった。より強く彼女を問い詰めたかった。しかし、それはできないと引き留める自分がいる。命惜しさではない。懲戒どうこうに、ホーエンハイムははなから頓着していない。ただ、彼の記憶には、黒い鳥の毛皮を被った己の背に、彼女が投げ掛けた視線が焼き付いていた。
黒い森の鳥の目は、すべての方角を見通す。それは同時に、見え過ぎることの弊害をホーエンハイムに教えた。視界に振り回され、頭の中には常に囁きかけてくる声があり、眠気に押し潰されそうになりながら、それでも立っていなければいけなかった。
もし、すべてが見えるからこそ目の前のすべての光景に心を砕かれ続ける生きものがいるならば。それはどれほどの苦痛を伴って生きねばならないのだろうか。
あの時、彼女の怒りの一端を垣間見た時に、ホーエンハイムの脳裏を過ったのはそんな考えだった。
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