もろみ(もず味噌)
2026-05-24 09:57:57
1161文字
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【供養】FGOイベ時空後特異点は修正されたがクランの死亡は確定しているのでやや病みのオーランドくん

署長はね、こんなに弱くないし、ひたすら市民のために生きるし、前だけ向いて立ってなきゃいけないの(自己免疫疾患により没)

「あ、起きた?」
……………は?」
 ふと気が付くと、目の前に知らない男の顔がある。
 覚えのない振動とエンジン音に慌てて視線を巡らせる。タクシーの後部座席のようだ。窓から見る限り都内ではあろう。すわ拉致か略取かと男から距離を取ろうとして失敗する。当たり前だ。狭い車内、まして丁寧にシートベルトを着用させられている。
「そんなに怯えないでよね。覚えてない? 目の前で倒れたの。びっくりしたよ、ほんと」
……倒れた……?」
「そ。バーで飲んでたのは? 覚えてる?」
 覚えている。
 夢見が悪かった。何度も何度も、何度も何度も何度も何度も、嫌になるほど、あの日の夢とあの日よりもっと前に戻る夢を見る。
 ここ最近まともに眠れたためしなどなく、今夜もまた日付が変わってすぐ目が覚めて、当然何も変わらない部屋に絶望して、逃げるように夜の街へ出た。酒に逃げられるたちではないことくらい自分が一番よく分かっていても、寝酒にもならないと分かっていても、逃げ場などないと分かっていても、逃げたい夜くらいはあるものだ。
「何が目的だって顔してるね? 安心して、財布は抜いてないから」
 心配ならクレカ止めなよね、と男は笑う。その目尻に薄く皺が出来ている。今の今までまともに顔を認識していなかったが、いかにも夜遊びをする若者といった恰好の割にはさほど若いようには見えなかった。三十路くらいだろうか。
 ──ふと過る顔が、いくつもある。
 なんと言ったものか。重い頭で警戒か謝礼かどちらを先に紡ぐべきかを考えているうちに、男がすいと手を伸ばして私の髪を耳にかけた。指先が耳殻に触れる。妙につめたいのは、酒精に熱くなった肌のせいだろうか。
「困ってる? 無許可でお持ち帰りしてるんだから、お礼は言わなくていいよ」
「──それは、面白い冗談だ。このタクシーはどこへ?」
「俺の家だよ、テイクアウトなんだからさ」
 ね? と男がわざとらしく首を傾げると同時に、タクシーはとあるアパートの前に止まった。
 ──のこのこと男の部屋に上がり込んだのは、魔が差したというか、たぶん、本当に疲れ切っていたためだろう。
 まったく気付かなかったが、今夜逃げ込んだバーはいわゆるゲイバーであったらしい。男曰く、あんまり顔色悪かったから皆秋波送るどころじゃなかったよ、とのことだ。その目的語が私ではないことを祈りつつ、朧気な店名を思い出して心にメモした。二度と迷い込まぬように。
「お仲間じゃないってすぐ分かったけどさ。俺は悪いやつだから、弱味にはつけ込むね」
 男は水のボトルを差し出しながら言う。弱味、と鸚鵡返しにすると腰を抱かれた。
「辛いこと、忘れたいよね?」
……いいや。忘れてはいけない」
 耳元で囁かれた言葉に、私はそう返すしかなかった。