Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
かなざわ
2026-05-24 08:56:04
1734文字
Public
Clear cache
夜間飛行に連れていって
よだつかワンライ第8回お題「魔法使い」で参加&投稿作品。作成時間1h15min。
同棲中の二人の日常の一コマ。このお題にこのタイトルですが、原作設定の二人です。
タイトルは「私を月までつれてって」のオマージュです。
「魔法が使えるとしたら、どんな魔法を使ってみたいですか?」
司が純にそう問いかけたのは、つい今しがたエンドロールを流し終えた映画が魔法を使える世界を題材にしたものだったからだ。魔法使いの血筋である主人公が魔法学校に通うところから始まる、世界的ベストセラーである児童書を映像化した作品だった。
司の言葉を聞いた純は、暫し考える素振りを見せた。純は原作である書籍を読んだことはないと言っていたから、彼が反芻しているのは今まで見ていた映画の内容だろう。
ソファに背を預けた姿勢のまま、組んだ腕の上で指先がとん、とん、と二の腕を叩いている。
「杖とか呪文とか、面倒そうだ」
「あー、確かに杖で片手が塞がるって考えると、そこは不便そうですよね」
やがて返ってきた答えは、あまりにも純らしいと言えばらしい内容で。その辺りに関しては司も思うところではあったので、素直に頷いてしまう。
便利なところも不便なところもあり、決して万能ではない。そんな世界観に触れて、ファンタジーでも現実と大差ないんだな、と考えたことを思い出した。
「フクロウも可愛いんですけどね、エサ大変そうだなとか、室内にあんなに飛んでたら羽根の掃除どうするんだろうとか、現実的な視点で見ちゃうと思うところは出てきますよね。ファンタジーにそれは無粋だろって話ですけど」
「二十年とか、三十年くらい生きるらしいよ」
「フクロウの寿命ですか? それはまた、家族に迎えるには覚悟のいる長さだな
……
え、純さんなんでそんなこと知ってるんですか」
「
……
引退して、生き物を飼うのを薦められたことがあって。その時に話を聞いた」
何も飼わなかったけどね、と結ばれた言葉を聞いて、純相手にペットを薦めた人間の豪胆さに戦いていた。
氷上の夜鷹純というイメージだけで言うなら、動物を可愛がりそうな空気感はない。乱暴にしそうとも思えないが、進んで動物と触れ合う絵面が欠片も浮かんで来ないのだ。そもそも動物を視界に入れなさそう、というのが一番イメージに近い。
純が非道でも残忍でもない、むしろ根っこの部分が優しい人間なのは司も理解している。だがそれは、純とある程度親しくなってから知ったことであり、表層的にはとっつきにくいタイプなのは間違いない。
「君は、空を飛びたいって言うタイプだろ」
「当たりですけど
……
そんなに分かりやすいですか、俺って」
「出てきた中じゃ、それが一番マシだった。あの競技はともかくとして」
「爽快感はありそうですよね」
「
……
氷の上の方がいい」
「そこを出して来たら、俺だってそっちの方がいいってなるじゃないですか」
それは反則、と言いながら隣に座る純に肩をぶつけるようにもたれかかった。司は上背がありそれなりに筋肉質なのだが、体重をかけられた純はびくともしない。未だ氷上に拘る彼が、毎日きちんと体を調整しているのは、司もよく知っていた。
行儀悪いとは知りながら、ずるずると体勢を崩して純の肩に頭を乗せてしまう。こんな風に気を抜いてもいいのだと思えるようになったのは割とつい最近のことで、甘えながらも少しだけ緊張しているのを自覚していた。
肩の力を抜きたいのと、甘やかされたいのと。気持ちがくるくると、強風に吹かれた風見鶏のように回る。
「君が空を飛ぶなら、後ろに乗せて」
髪に純の指が差し入れられて、後頭部をさりさりと撫でられた。
「純さん、絶対自分で飛んだ方が早そうなのに」
「氷の上以外では省エネでいたいから」
「夜鷹純が省エネって言った
……
」
「僕以外を乗せたら駄目だよ」
言い含めるような口調の後、念を押すようにほんの僅か髪を引っ張られた。
少しも痛くなかったそれに抗議しようかどうか迷っていると、頭頂部に口付けられた感触が伝わってくる。
「いいね」
「
……
はい」
離れていく際にちゅ、とリップ音を立てたのは、絶対に意図してのことだろう。
ずるい、そう思うのについ頷いてしまった。
「今なら月まで飛べるかも
……
」
結局のところ、好きという気持ちを煽られてしまった方が負けなのだ。
負けたのにちっとも悔しくないな、と思いながら、司は赤くなっているだろう顔を手で覆った。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内