かなざわ
2026-05-24 08:48:34
2206文字
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綿毛はその手に落ちるか否か

よだつかワンライ第7回お題「タンポポ」で参加&投稿作品。作成時間1h40min。
よだ→←つか。関係性が未満の二人がお互いをバチバチに意識してるのが好きでぇ…
この純は、桜の下にいる司を見ても、ヒマワリ畑にいる司を見ても「消えちゃいそうだな」って考えるタイプだと思います。ロマンチストなので。司がそれに対して「いやいやこのでかい男に対して何言ってるんです?」ていうところまででセットです。

 なんだかんだで純の取っている貸し切り枠に恐れ多くも慎一郎共々司も誘われることが日常となりつつあった、とある夜。この日は慎一郎が選手の遠征に帯同しており不参加だった為、純と共にリンクを後にした。
 慎一郎不在の際は司が運転役を担うのだが、マイカーではなく加護の車を借りてきている為、純には車内での喫煙は控えてもらうようにしている。純もそれを理解しているから建物から出るとすぐに煙草に火を付け、紫煙を吐きながらいつもよりゆっくりと歩く司の後をついてくる。
 完全に歩き煙草だが、すれ違うような人間もいない時間帯だ。煙草の煙や匂いが特に気にならない司にとっては、ニコチン中毒って大変なんだなあ、と考えるくらいだった。
 建物から車までのそう長くもない距離で、ふと純が足を止めた。足音が止まったことに気づいた司が振り向くと、純は足元に視線を向けている。
「どうかしましたか?」
「君は、これに似てる」
 これ、と指し示されたのは、タンポポだった。駐車場の端、アスファルトの隙間から顔を出したタンポポの黄色い花と、白い綿毛が細やかに揺れている。
 黄色い花は可愛らしいと言えなくもないが、特に珍しいものでもない。どこにでも咲いている、いわば雑草である。
 そのタンポポに似ていると言われた司は、純の言葉の意味を図りかねていた。褒められたのか貶されたのか、単なる雑談なのかも分からない。
 純はどちらかと言えば寡黙といって差し支えないだろう。本人が必要だと認識すれば口を開くことを厭わないが、普段からあまり言葉を発することのないタイプの人間の出力具合と言えば、まあお察しレベルである。オブラートに包むことを知らない豪速球だったり、意図が相手に伝わりにくかったり、割と事故が起きる。
 今回も今回とて、唐突にタンポポに似ていると言われた司は咄嗟に答えを返せなかった。
 慎一郎ならばこんな時、さっと意図を組んで上手く会話を進めるのだろうか。
 鴗鳥先生、俺には夜鷹純語録はまだまだ理解が及ばないようです……
 脳内で慎一郎の凄さを改めて噛み締めつつ、立ち止まったまま動かない純に直接聞いてみることにした。
「背の高さでヒマワリっぽいと言われたことならありますけど、タンポポは初めて言われました……
「そう」
「ちなみに、どこが似てると思ったんです? 色合いですか?」
「色? ……ああ、そっちも似てなくもないね」
 純は一度司を見やり、再び足元に視線を落とすと一つ頷いた。似ていると思った理由は色味ではないらしい。
「風が吹くとどこかに飛んでいきそうなところ」
「え」
「どこにでも根付けるのに、誰にも捕まらなさそうなところ」
 どこかつまらなさそうな表情で言い、純は足先で綿毛をつついた。白い綿毛が逃げるように飛び散り、足元をふわふわと転がっていく。
 司は純の言葉を聞きながら、この人は誰の話をしているんだろう、と困惑していた。
 そもそもが司の図体を見て「風に吹かれて飛んでいきそう」という感想を抱く時点で独特な感性をしている。言葉を重ねられたことで、純の発言の意図が更に分からなくなってしまった。
「どちらも今まで言われたことのない言葉だったのでかなり驚いているんですが、夜鷹さんの中での俺はそういうイメージってことなんですよね……?」
「うん」
「ええと、それは俺の立ち振舞いが心配をおかけしてるということですか?」
「違う。いや……違わないのか」
 違わない、という言葉を聞いた司は内心でショックを受けた。多少言動が大仰な自覚はあれど、一人の成人男子として常識的な振る舞いを心がけているつもりだったからだ。
 司は純に対して性格が悪いとまでは思わなくなったものの、色々と常識の枠を飛び越えた言動をする相手だと認識していた。その相手に立ち振舞いの心配をされている、となると不安が沸き上がってくるのも無理はない。
「俺、今までも何か失礼なことをしてしまってましたか……?」
「別にしてない」
「え」
「君があちこちにフラフラしてるのは、そういうものだと思ってるし。最近は呼べば来るようになってきたし」
「んん……?」
 困ったことに、純が言葉を紡げば紡ぐほど、理解が追い付かなくなっていく。
 読書家の司にとって、言葉は頼もしい相棒だ。語彙が多いねと感心されたこともある。時には取り扱いを間違えることもあったが、手を変え品を変え、操り方を変えながら先に進んでいくためには必須と言えるもの。
 それなのに、純の言葉はまるきり掴めない。指先に掠めたと思えば、思いもかけない方向へ弾んで逃げていくようだった。
「犬の話してます……?」
「してないよ。ああ、そうか。根付かないなら、繋ぐって方法もあるのか」
 純が独り言のように発する言葉を聞きながら、司は背筋がぞわりと総毛立つのを感じていた。
「根付かせたいなら、根気よくいかないとダメですよ」
「君がいいこならね」
 司の言葉を聞いた純が、ふ、と笑った。
 競技の際にジャッジアピールで見せた表情顔負け、否それ以上に美しい表情だった。
 今すぐに回れ右をして走り去りたい心地を抱きながら、決して逃げたくないという負けん気が同時に沸き上がってくる。
「逃げないでね」
……逃げませんよ」
 逃げたいとも思わない。そう告げたのなら、あなたはどんな顔をするのだろう。