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かなざわ
2026-05-24 08:41:42
1720文字
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前略、薄情者
よだつかワンライ第6回お題「メガネ」で参加&投稿作品。作成時間1h10min。
一期放送の頃に出ていたアニメグッズの中華コスネタで、マフィアの夜鷹と一般人司の話。二人の年齢差は8歳くらい。
「純さんて、どうしてメガネしてるんです?」
「
……
は?」
時は深夜、所は純の寝室。数分前まで肌を重ねていた熱が緩やかに冷めていく、穏やかな時間だった。司が純に向けて何気なく疑問を投げ掛けるまでは。
純が司の恋人の座を奪取して、数ヵ月。まとまるまで、否まとまってからも諸々あった二人だが、ここ最近の司はようやく純と過ごす日々を日常のものとして受け入れているようだった。
無駄に緊張することはなくなったし、何気なく触れても悲鳴をあげたり逃げたりすることもなくなった。恋人関係でなくとも、触れただけで猛獣と遭遇したような反応をするのはどうかと思うが。
行為を終え、純は煙管を手にしていた。司は水を飲もうとして、水差しの横に置いてあったメガネを目に留めたらしかった。そこで、冒頭の質問が飛び出してきたというわけだ。
司は純のメガネを手に取り、器用に手の中でくるくると回している。
「だって純さん、別に視力悪くないですよね?」
「そうだね」
「昼にサングラスしてるのはまだ分かりますけど、それ以外でもメガネしてるから。何か理由があるのかなあって気になってて」
くるくると回していたメガネを戯れにかけながら、司がそう聞いてくる。純が愛用している丸いフレームのメガネは、司が言う通り度が入っているわけではない。昼間にかけているサングラスも同様だ。
純は煙管を咥え、ふうっと些か大袈裟に息を吐いた。吸い慣れた煙が部屋の中をふわりと漂い、ゆっくりと消えていく。
脳裏に過ぎるのは、所謂過去の「思い出」というものだった。
純が少年と言われる年齢だった頃のことだ。なんとなく普段は訪れない区画に足を踏み入れ、そこで純より更に頼りなさげな幼子と出会った。幼子は純の雰囲気に臆することなく近づいてきて、にこにこと話しかけてきた。
幼子はその日一日純について回り、最終的に根負けして手を取られるのも隣に座られるのも好きにさせていた。日が傾き出した頃に幼子が「帰らなきゃ。メガネの兄ちゃん、ばいばい!」と言い残して駆け出していくその時になってようやく、純はお互いに名乗っていなかったことに気づいたのだった。
西日に照らされて駈けていく小さな背中、明るい色の髪が夕日を受けてきらきらと煌めいているその様子を、ただ見送るしか出来なかった。
結局その後純は件の区画に足を向けることはなく、幼子が何故初対面の純にあれだけ懐いてきたのかの理由も分からないままだった。名前も分からない相手と再会できる可能性は低かったし、わざわざ調べさせることもしなかった。あの日のことを誰にも知られたくなかった、というのもある。
確かな事実として、純が日常的にメガネをかけるようになったのはあの日以降だ。成長してからはメガネからサングラスに代えたりもしたが、形はいつも同じものだった。
司がかけているメガネを取り上げると、適当に放り投げる。部屋の隅の方でカシャ、と小さな音が鳴った。
「別に理由はないよ、薄情者」
「なんだ、そうなんですね。まあ似合ってるのでいいとおも
……
なんでいきなり薄情者呼ばわり?!」
「自分の胸に聞くんだね」
「メガネの理由聞いただけで薄情者扱いされる謂れはありませんけど!」
心外だ、と言わんばかりに吠える司に構わず覆い被さる。純よりも上背のある司を見下ろせる時間は、存外愉しいものだった。
純の発言に納得をしていない顔をしている司だが、組み伏せられた姿勢を変えようとはしてこなかった。
「うるさいよ」
「いった、ちょ
……
っと、歯形残さないでって」
無防備に晒されている首元に強めに齧りついた。がり、と鈍い音がして司の身体が跳ねる。
抗議の声をあげた司だが、その手は純を引き剥がすことはなく。代わりに髪に差し入れられた手が、ぐしゃりと髪をかき乱してきた。
あの時に何か目印をつけておけば、もっと早く会えたのかな。
詮無いことを考えながら、司の頬に手を当てた。右頬の黒子を撫でると、司が目を細める。
「じゅんさん」
呼ばれる声は甘い。思い出の中のものより、ずっと。
純は応える代わりに、司の唇に己のそれを重ねたのだった。
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