ortensia
2026-05-24 01:33:38
2060文字
Public 傭リ
 

良い子の人形(※人格ではなく概念としての良い子)を持ち歩くリとたまたますれ違っただけの傭の傭←リ

scp3991jp。逆に、人間と話すのが苦手なら、人形に話してるつもりになれば、臆せずなんでも言えるし相手の言う事も気にならない最強になれるのかもしれない。

 ジャックはいつも人形に話し掛けていた。だからジャックはいつも人形を抱え、一緒だった。
「悪い。おれがぶつかったから、人形が落ちてしまったな。」
……良い子だから拾って貰えたんですね、流石です。良い子ですから、拾ってくれた彼に感謝の気持ちがあるでしょう。そうですね、もしお喋り出来たならば、彼に感謝の言葉を尽くしたことでしょう。」
「?……まあ、礼なら良いよ。ああ、後でほつれたとかで弁償しろってんなら、そこで小さな便利屋をやっているから、事務所まで来てくれ。」
 ジャックはたまたますれ違った小男とぶつかり、その拍子に人形は転がった。男は人形を拾ってジャックの手に渡したが、ジャックは人と対話をしない。ジャックはいつも人形としか対話をしない。
 しかし、ジャックは男を気に入った。
 後日ジャックは男のもとを訪ねた。勿論、その腕には人形を抱えている。
「よお、よく来てくれたな。人形に何か問題が?」
 男はジャックに気さくに声を掛けるが、ジャックは俯いて腕の中の人形を見下ろしているばかりだ。
「良い子は少々引っ込み思案で大人しいきらいはありますが、それで人に誤解されてしまう事も多いですものね。」
……無事なら良かった。なら、何か別の用事が?」
「ですが良い子はいつもわたしのことを考えてくれていますね。わたしが強引でも、反対に遠慮しいでも、間に立って取り持とうとしてくれて。」
……へえ?」
 男にはジャックの話している内容が読めなかった。しかも相変わらず人形相手に話し掛けているようにしか見えない。
「良い子に優しく接してくれるのなら、わたしとも対話できる相手だと。わたしも良い子がそう言うのなら、そうかもしれないと思えてきます。」
「ん?」
「良い子が感じた掌からの優しさなら、なんでもわたしのことを理解してくれて、いつでもわたしの身方になってくれるはずだと、そう、そう思ったのですね。」
「いや、どうしてそうなる?」
「首を傾げてどうしたのです?優しく拾い上げたのは嘘だったと、そう疑っているのですか?そう見せ掛けて、まさかわたしを貶めるためだったと?」
「待て待て。というかあんた、酷な事かもしれんが、一回その人形じゃなくておれと直接話してくれないか?人形は喋らないだろ?」
 ジャックが話す内容は、男の言葉を聞いているような聞いていないような、いまいち噛み合わないものだった。ジャックが話し掛けている相手はずっと人形なのだから、そういう意味ではおかしくないのかもしれないが。
「良い子は知っていますよね、わたしの友達は人形だけではないと、たくさんいると。」
「そんな話ではないが……。」
「ああ、背中を押してくれるのですね、良い子、拾い手の彼と、わたしはもっと対話の時間を取るべきだと。」
「おれはおまえとこんな事をするための、掛かり切りの時間なんて割けないぞ?」
「わたし達のための時間を引き裂く敵がいると、良い子はそう考えるのですね?」
「そんな奴はいないし、そういう意味でもない。」
 ジャックは自分に都合の良い話ばかりして会話を続けた。それが会話と呼べるのかの答えすら、きっとジャックの中にしかありはしないのだ。人形は当然のように、うんともすんとも言わない。
 そして男は、自分だけが成り立たないと感じる会話に、すっかり草臥れてしまった。
「そうですね、また来ましょう。明日は手土産でも持って、彼も喜んでくれるはずです。」
「明日も来る気か。おい、冷やかしはよしてくれよ。営業妨害してくるなんて、悪人だぞ。」
 男は流石に勘弁してくれと、うんざりと溜め息をつきながらジャックを嗜めた。
 その時初めて、男はジャックと目が合った。
 そして気付けば、男はジャックの腕の中にいた。すっぽりと体が収まり、それどころか一寸も動けない。
 なんだ、男は驚きに声を荒げた、つもりだった。声も一寸も上げられない。
 男は動けないし声も出せない状況に陥った。しかも急に視界が変わっている。今の今まで、人形を抱えた相手と対面していただけのはずだった。
「言ったでしょう、人形の友達ばかりではないと。」
 ジャックは人形としか対話しない。
 ジャックが動いた事で、その腕に抱かれた男の視界も動いた。男の視界には、自分の体が仰向けに倒れていた。
 倒れた体は、まるで人形のようにぴくりとも動かない。
 そして同じくジャックが抱えた人形も、自分から動く事も喋る事もない。当然だ、人形なのだから。全てジャックの思うがままだ。
「良い子、良い子ですね、わたしの人形は。」
 そうしてジャックは、男のもとを訪ねた時と同じように、人形と一緒にその場を後にした。
 ジャックは人形としか対話をしないが、それはジャックにとっての対話でしかない。対話というものが、片一方の認識でも対話だと呼べるのかは、それすらも答えはジャックの中にしかない。なぜならジャックが対話する相手は人形であり、人形はジャックの思うがままだからだ。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。