遊悟
2026-05-24 01:33:37
722文字
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夢想


 ―――あぁ、抱きたいな
 夜宵は思う。への字に曲がった口の端で煙草をくわえながら、
 不純だと思う。不毛だとも思う。
 腹の底におりのように溜まった苛立ちを誤魔化すために、あいつ相棒のことを夢想むそうするなんて。
 けれど一度思い浮かべてしまえば、その空想を消すのは中々に難しく。
 ―――あぁ、抱き寄せたい。
 あの細い腰に手を回し、引き寄せて、その頬に触れたい。
 あの陶磁器のように白く冷たく滑らかな肌。きめの細かいその肌に、指を這わせたい。
 どうしたのかと、問われるだろうか。それとも、またかと笑われるだろうか。
 でも、直ぐに唇を重ねたりはしない。
 まずは髪。頬に触れた指を滑らせ、煌めく灰青の髪をひと房絡め取り、それが指の合間から逃げてしまう前に、唇を落とすのだ。
 次は耳。柔らかな耳朶じだに? いや、耳輪じりんを甘く噛むのがいい。ああでも、くすぐったいと身をよじられるだろうか。
 そうして、頬―――と見せかけて、額。とびきり優しく触れるのだ。けれど、本当は喉も捨てがたい。首飾りチョーカーをしていない日ならばあるいは……
 ―――たっぷり時間をかける散々焦らすのだ。
 だって、不思議そうに見つめてくる蜜色の瞳が、どろりと溶けていく様を見たいから。
 自分の熱と彼女の熱が混じり合い、火がつく様を、見たいじゃないか……
―――ああ、やめだ、やめ!」
 夜宵はグシャリと己の髪を乱暴にかき回す。
 あぁ、なんて生産性のない妄想。
 いざ当人を目にすれば、気の利いた台詞のひとつも言えないくせに。
「分かってるさ……ちゃんと言ってやらなきゃ、なんてこと」
 誰に聞かせるでもなく呟く。本当は分かっている、と。