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Doyoru
2026-05-24 00:54:19
8545文字
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同高if宮トガ 修学旅行の夜
「トガシ〜、ほんとにいいのかよ?そっちで」
きょろきょろとベッドの上からこちらを窺っているのはバスケ部、バレー部の三名。同じ体育館競技だからかこの三人は仲がいい。そのため、この構図になるのはまぁ必然だったのかもしれない。
五人部屋の自分たちに与えられた備え付けのベッドは三つだけで、残りは和室に敷かれた二つの布団。一日中自由行動をした疲れもあり、皆ベッドで寝たいのは同じだった。そして、誰がこの敷布団を使うのかの勝負は先程ついている。
「まぁ俺、じゃんけん負けたしね」
ケロリと返すトガシの声に不満がないのを察し、その隣の布団をあてがわれた小宮にも念の為声をかける。
「小宮もごめんなー?」
「いいよ、僕も大丈夫」
口数少ないクラスメイトの肯定を確認した鈴木は満足したようにゴロンとベッドに寝転がった。
「明日って何時からだっけ?」
「ロビーに八時」
「やべー、起きれるかな」
「いや、お前朝ごはん係だろ。七時半じゃね?」
「
……
終わった。お前らは朝ごはん諦めてくれ」
「ぜってーやだ」
バッカじゃねーの
先輩に朝ごはん係楽だって聞いたんだよー
お前それ騙されたんだよ
ケラケラと賑やかしい会話へはベッドと敷布団の間に距離があるせいで中々入りづらい。トガシは布団の上に座ったまま、隣で同じように手持ち無沙汰にする小宮に声をかけた。
「小宮くんの班は今日どこに行ったの?」
「清水寺と、金閣。本当は銀閣にも行きたかったんだけど、時間がなくて」
陸上部が班にいたお陰でそこまでひとりぼっちになることもなかった。初めて来た京都の感想は、意外と暑いこと、そして観光客が多すぎる事だろうか。
「え、俺も清水寺行ったよ。じゃあどっかですれ違ってたかもしれないね」
ぐいっと間を詰めて笑いかけてくるトガシに思わず頬が熱くなる。みんなに向ける爽やかで人当たりのいい顔とは違う、屈託のない向日葵が咲いたような満面の笑み。それがいま、ほんの少し腰を浮かせて距離を詰めれば直ぐにでも抱きしめられるような近さで僕の為だけに向けられているのだ。
ドキンっと心臓が跳ねて、次第にどくんどくんと鼓動の主張が強くなる。
「
……
そっ、そうなんだ」
思わず声が裏返った。
彼等にバレちゃいけない、僕たちの関係は内緒にしておくって二人で決めたんだから。
良い奴らだが、あの調子で根も葉もない噂でさえ一瞬のうちに学年全体に回すほどのお喋りだ。布団の上に置かれた指に手を伸ばしそうになるけれど、それも拳を握ってぎゅっと耐えた。
修学旅行に一緒に来れて、同じ部屋になれて、ただそれだけでも嬉しい。トガシくんと寝るまで一緒にいれるなんて、想像しただけでワクワクして前日も上手く寝付けなかったくらいなのに。
十分幸せじゃないか。
ぎゅうーっともう一度手を握りしめた。幸せだ、トガシくんと隣で寝られるなんて。
「それなら俺、清水寺で会いたかったなー小宮くんと」
天井を見上げ、ぽそっと呟かれた言葉は小宮に向けられているようにも、独り言のようにも聞こえた。すらりと伸びた美しい首筋と横顔、トガシくんはいくら眺めていても全く飽きることがない。世界でいちばん綺麗でかっこいい。
「
……
でも、今、会ってるよ?」
ぎゅむぎゅむと指遊びをしながら横を窺った。あんまり望んじゃいけない、これ以上を欲しがってはいけない。
彼を好きになる度に、どこか安全策を取ってブレーキをかけようとする自分がいる。期待したものが得られなかった時の喪失感は何よりも恐ろしいことを、小宮はたった十数年のうちに嫌という程思い知らされていた。それならば最初から、何も望まなければいい。
「僕は
…
、同じ部屋になれただけでも
…
」
部屋という閉じられた空間の中、二人っきりではないとは言えいちばん近い距離で彼の隣にいることができている。じわじわとした嬉しさが常に全身を包んでいて、きっと僕もいつもより少しだけ浮かれている。だからこそ、頭の片隅で牽制の声が鳴り響き、多くを望むなと枷をかける自分がいた。
「まあね〜。それは俺もそう。でもさ、外でも小宮くんに会えたらなんか嬉しいじゃん」
しかし、当たり前のように放つ彼の言葉一つが小宮のそんな葛藤を簡単に吹き飛ばしてしまうのだ。トガシの言葉に想起され、小宮も目を閉じて想像してみた。
ざわざわと人が多い三年坂。どこを見ても外国人や日本人観光客が目に入り、そこに混ざる修学旅行生が視界めいいっぱいに広がっている。
あまり人混みに強くない僕は、案の定少しだけ人酔いをしてしまって、坂の傾斜が一気に脚にきた。照りつける太陽の暑さ、押し返すような人の数、今日一日ふらふらとクラスメイトの後ろを追うことしか出来なかった。
でも、その中にもしトガシくんがいたとしたらどうだろう。人混みの中から、「小宮くん!」と声をかけて寄ってきてくれる彼がいたら、彼と一緒に土産屋を眺めながらゆっくり歩けたら、きっと今日一日はもっと楽しかった。
「
…
ほんとだね。僕も嬉しいと思う」
「でしょ?」
くすくすと顔を寄せて笑うトガシくんの髪からふわりと甘いシャンプーの匂いがして、それだけできゅうっと胸が甘く疼く。
「とがしくん
…
」
僕も君と一緒にいたかった。本当は同じ班が良かった。
明日は、一緒にいてくれる?
修学旅行は三日間しかない。本当は君ともっと一緒にいたい。
本当は、本当はね、僕も
「ん?どうしたの」
何か言いたげな顔をする小宮の口元へ、トガシもそっと顔を近づけて聞き取ろうとした。じわぁっと顔を赤くしながら、小ぶりな口がそっと開く瞬間を見守る。
なにか言おうとしてくれてる気がする、きっと大事な何かを。
「おーい、お前ら。もう消灯時間だぞ。早くベッドに入れ」
見つめ合うこと数秒、沈黙を破ったのは嫌という程毎日聞いている担任の声だった。
「げ、山セン。すいませーん」
「今すぐ寝まーす」
学年主任も務める先生からの指導は鶴の一声になり、ゲラゲラと腹から笑い声を出していた三人も慌ててベッドシーツの間に包まり始めた。それに合わせて小宮とトガシも布団に収まる。
「明日も早いんだからなー。もう寝なさい」
パチンッと容赦なく消された室内はひとつ残らず灯りが消え、視界は一瞬何も見えなくなった。
「
……
なぁ、お前今日隣のクラスの西田さんと話してた?」
「げ、なんで知ってんだよ」
「西田さんに行くのは勇気あるわ」
こそこそと未だ続く会話を他所にトガシもくるりと寝返りを打ち、小宮の方へ向かい合う。
「明日はクラス行動だから一緒に回れるね」
「そうだね」
明日の予定はどこどこだね、こういう体験をするらしいよ
小声でこそこそ会話を続けていると、部屋に響いていた声は一つ、また一つと無くなっていく。
ベッドの方で行われていた小競り合いのような会話は次第に小さくなり、そのペースもゆっくりになり、そしてそのうち途切れ途切れになってパタリと聞こえなくなった。
しかし、そんなクラスメイト達とは対照的に、小宮は一向に眠りにつけそうにない。ふわふわと浮ついた気持ちは未だ落ち着かず、むしろ爛々と冴え渡っている。
ここは学校でも家でもなく、隣にいるのだって家族でも友達でもないトガシくんだ。大好きなトガシくんだ。どくん、どくんと胸の音が布団の中に響いている気がする。
今夜はトガシくんと一緒に寝れるんだ
…
その時、しゅるりとした布擦れの音とともに耳に届く柔らかい音があった。
「こみやくん」
小さな声で、誰にも聞こえないように
向かい合ったまま、そーっと唇が開いて声を作る。
「
……
ね、もうみんな寝ちゃったね」
それは、まるできらきらした宝石のような秘め事を告げる密やかさを持っていた。ふふっ、と小さく笑う吐息混じりの声が届いて、ただでさえうるさかった心臓は一気にどくんどくんと速さを増す。
「
…
ほんとだね」
みんな寝ちゃった。トガシくんとの会話を聞かれてはならないと警戒していた彼等は今眠りの世界にいる。
耳を澄ましてみれば、確かにすうすうと一定のリズムを刻む三つの寝息を拾うことができた。さっきまであれだけ騒がしかったのに、一度黙ってしまえば電源が落ちたようにストンと眠りについたらしい。
部屋で起きているのは小宮とトガシだけ。世界の中に二人っきりになってしまったかのように静寂と暗闇がある。
「僕たちだけだ」
これでやっとトガシくんとおしゃべりできるかもしれない。心はふわっと軽く浮いた。本当はいっぱいある、今日見たものも、明日行く場所も、お風呂上がりの君が凄くかっこよかったことも。
「トガシくん、」
暗闇の中、小宮も改めて声をかけると指先に触れる人肌があった。
「小宮くん、こっちおいでよ」
「え、?」
静寂の中で、トガシの潜められた声だけが鮮明に耳に届いた。非日常がそうするのだろうか、その声はどこか大人びていて色っぽく感じられる。
「ね、俺の布団の中、来て?」
するりとトガシの腕が布団の中に侵入して、導くように指を絡めた。温かくてすべすべした手が体に巻きついてる。
「
……
う、うん
…
」
同じ布団に入るの?隣で寝るってだけでもドキドキするのに?
布団を持ち上げて、ココだよと示すように手をぽんぽん置いているトガシくんの顔はよく見えない。こんなに恥ずかしがってるの僕が変なのかな。トガシくんは、例えばあの人達にも同じことをするんだろうか。
そろりと自分の布団から抜け出し、出来るだけ音を立てないようにそーっと布団の中に潜り込む。人肌に温まった布団と、それを向かい入れるトガシの肌触りの良い腕。
「来て」
たった二文字がこんなにも脳内にくらくらと甘く響くから恋は不思議なものだ。距離を取るように遠慮がちに入ってきた小宮の体を引き寄せ、ふわりと受け止める。どっどっどっと心臓が急ピッチで全身に血液を送り始めた。
静かな部屋の中では、息一つすら彼等を起こす物音と化してしまいそうで緊張と昂りが同時に存在する。
ああ、でも腕に伝わるトガシくんの体温がある
トガシくんの香りが鼻に届く
トガシくんの、トガシくんの息が耳に聞こえる
僕の腕の中にトガシくんがいる
…
他を構う余裕などない。手を繋ぐだけでも未だ震えてしまうような初心な小宮へ降り注がれているその圧倒的な情報量にパンク寸前だ。それでも、背中に回した手はそろりそろりとまるで壊れ物に触れるように優しい。
「
…
とがしくん
…
」
どきどきして上手く息が吸えない。ふわりと香る甘い匂いが鼻をくすぐって、変なことを考えてしまいそうだ。これで寝るなんて絶対に無理。
それでも、腕を解きたいとは一切思わなかった。とくんとくんと触れ合ったところから響くトガシの心音は、確かに彼が今生きていることを実感させられる。その事実すらたまらなく嬉しくて、じわぁ
…
っと全身が温かくなるのだ。
「
…
温かい。小宮くんぽかぽかしてるね」
トガシもまた、触れ合ったところからぎゅっぎゅっと小宮の感触を確かめた。筋肉質な彼の体は、抱きしめるとその大きさも強さもよく分かる。鍛えられた走りのためだけの美しい体躯がそこにあった。
「トガシくんは、ちょっとヒンヤリしてる。きもちいいよ」
ぎゅうーっと身を寄せ合うようにハグをする。さほど身長が変わらないからだろうか、それともパジャマだからだろうか。まるで凹凸がカチリと噛み合ったようなフィット感があり、気持ちがいい。
腕の中にトガシくんがいてすぐそこに顔があって、吐息が頬に当たってくすぐったい。
静かな幸福を何度も確かめるようにぎゅうっと腕に力を入れてみれば、同じだけの力でトガシもまた抱きしめてくれる。
体温が混ざり合い、境目を失って溶け合うような夢想をし始めたところで、トガシが再び口を薄く開いた。
「今日、さ
……
、小宮くん、中山と話してたじゃん」
「そうだっけ
…
?あ、あぁ、うん。そうかも」
「何、話してたの」
ぽそぽそと耳元で響くトガシの声は心なしか暗い。拗ねたような口振りに気づかないまま、小宮はうーん
…
と記憶を再生し始めた。
「別に特別なことじゃなかったような
……
」
思い出すのにも少々のラグが発生した程度の記憶だ。隣のクラスでせいぜい顔を知っている程度の同級生は、今も頭の中でぼやぼやと不鮮明な映像が流れている。
「あ、確か夕飯前のレクレーション係の集合場所を聞かれたんだよ」
こそこそ話を続ける小宮の口調は淡々としている。
問いかけた側のトガシはその呆気なさに思わず呆けたように息を漏らした。
「
…
なんだ、それだけ?」
「うん。なんなら初めて喋ったよ」
小宮くん?だっけ?を第一声に始まった会話だ。お互い顔も碌に知らないままのやり取りが重要だった訳もなく、事務的な会話を終えて以降は特に何もなかった。レクレーション係への明日の連絡の時ですら隣に座ってもいない。
その程度のやり取りしかしていない人の名前が出てくるとは思ってもおらず、トガシを抱きしめたまま何故そんなことを聞くのだろうかと小宮は疑問を抱いた。
「そっか
…
、なら良かった」
「え?」
ホテルに帰ってきたトガシの視界に入ってきたのは、何やら親しげに話す他のクラスの生徒と小宮の姿。あいつと絡みあったっけ?なんて訝しむような視線を向けていると、パンパンと肩を叩いたり顔を寄せたり、心の中にじわりと墨を垂らすには十分すぎる数秒が繰り広げられていた。
「中山くんが、どうかしたの?」
背中に回された手にぎゅうーっと力が込められ、顔がぐりぐりと押し付けられた。
とくん、とくん、とトガシの心音が伝わってくる。
「
……
小宮くんは俺の彼氏なのに、ってちょっとだけ思っちゃった」
静かな部屋にはトガシの言葉だけが鮮明に耳に届く。暗闇が視界を奪い、その声に滲む寂しさを耳は敏感にキャッチした。言葉を紛らわすように強く抱きついてくるこの腕だって、小さな嫉妬を訴えている。
俺の彼氏、俺の彼氏
……
?
予想だにしない言葉に体がピシッと固まった。トガシの口から出た文章の意図が半秒遅れて染み渡っていく。
「なっ、中山くんはそんなんじゃないよ!」
思わず大きな声が出そうになって慌てて口を塞いだ。
だって、そんな事、考えてもなかった。トガシくんがそんなこと、思うなんて
衝撃からあわあわと外しそうになった手を再度慌ててトガシの背中に回し、ゆっくりと摩り始める。
「僕が好きなのはトガシくんだけだよ」
トガシの方が自分よりも断言華やかで人気がある。運動会で歓声を集め、様々なクラスリーダーを任され、それに困ったように笑いながらも何だかんだ成功させる姿を知っている。その姿を見る度に暗いと評される自分との対比は強くなり、影はますます濃くなった。
そんな彼が、たった一場面で心を乱してくれるのだ。悪いとは分かっていても、じわじわと嬉しさが遅れてやってくる。自分だけじゃなかった。自分ばかりが、君の周りにいる人間を羨ましいと思っている訳ではなかった。
ねえトガシくん、僕もなんだよ。
君が笑いかける相手全員を、本当は心の中で羨ましいってずっと思ってるんだ。
「昔も今も、僕はトガシくんの事だけがずっと好き」
ゆっくりと背中を撫でた。手のひらに伝わる体温が、トガシの体に血液を送っていることを感じさせる。同じように笑い、怒り、小さなことに不安を拾う彼もまた一人の人間であることを伝えている。
「分かってるよ、分かってるけど
……
。小宮くんの良さは、俺が知ってればいいから」
「ふふっ。僕も。君のかっこいい姿も本当は全部僕だけが見ていたいよ」
うりうりと頭を擦り付けてくるトガシの体がほんの少しだけさっきよりも高くて、そんな些細なことが嬉しかった。
「ね、トガシくん顔上げて」
さわさわとゆっくり体を撫でていた手を離し、そっと頬に指を添える。ぎゅうーっとしがみつくように抱きついていたトガシが不思議そうな表情で顔を上げた。暗闇に慣れた目は、カーテンの奥から差すほんの少しの街灯の灯りだけでも十分に見つめ合うことができる。
つやつやと光を反射する黒い瞳が夜を写している。長いまつ毛が上下する様子を、世界でただ小宮だけが触れられる距離で見つめていた。
「大好きだよ、トガシくん」
想い合う恋人同士が口付けを交わす理由を、トガシと付き合って初めて理解できた。隣にいてもどこかまだ遠く、指を絡めても頬を寄せても足りない時、もっと近くで深く相手に触れたい時に唇は何よりも雄弁に物を語る。言葉で伝えられない気持ちを乗せることができる。
まん丸な目でこっちを見つめる彼と視線を交じらわせたまま、すっと顔を近づけた。
トガシくんのことが好きだ、大好きだ。あんなたった一場面で不安になってしまう君のことが心から愛おしい。
ふにゅっと柔らかい感触が唇の皮膚に与えられた。ほんの一瞬の、暗闇の中の小さな出来事がクラスメイトも眠る一室で起こっている。
「な、
……
っ、んっ
…
」
暗がりの中、とろりと慈しむような目で見つめている小宮の瞳だけが鮮やかだった。色のない暗い世界の中、小宮が与える感触だけが柔らかくあたたかいものとして唇に残る。
「トガシくんの唇、柔らかいね」
満足気に笑うその顔はなんだかしてやられた気分だ。普段は手を握るだけでもあわあわと顔を赤くしているくせに、いきなりこういうことをしてくるから心臓に悪い。小宮くんは俺が初めてのくせに、この前までキスもしたことなかったくせに。
「
……
小宮くん、こういうのってもっとムードが大事なんじゃないの」
わざとむすーっとした顔を作ってみれば、小宮の顔がみるみるうちに焦りを浮かべていく。
「えっ、ぁっ、ご、ごめん」
触れてくる手は優しく、かけてくる言葉は温かく、それなのにたまにぞくりとするような熱を孕んでいる小宮にトガシもまた惹き付けられているのだ。
「ふふふ。うそうそ。もっかいしよ?」
一言で百面相する小宮くんが可愛くて、ついいつも意地悪をしてしまうのだ。これは多分俺のちょっとした悪癖だと思う。
小宮の頬に手を添え、次はトガシからちゅっとわざと少し音をたてて口付けを交わした。柔らかくふにゅりと沈む感触がじわじわと体に歓喜をもたらす。
「
…
小宮くんの唇も柔らかいよ。ふわふわしてて、きもちいい」
指を絡め、体を抱き寄せ、唇を重ねることがこんなにも世界を幸福にする。すうすうと静かな寝息をたて、時折もごもごと寝言を漏らすクラスメイトを他所目に甘美な蜜を分け合っているという背徳感がこれほどまでに感度を高めているのかもしれない。
しゅるっと布擦れの音がして、小宮の腕がトガシの背中に回された。さっきよりも強く抱き締められる。解けないほどに強く、逃げ場のないほどの距離で。
「トガシくん、もう少し、だけ
…
いい?」
ふつふつと胸の中に湧くこの正体は何だろう。どきどきするのとも、ワクワクするのとも違う、体の奥がそわついて抑えきれない衝動があった。トガシくんにもっと触れたい。もっと近くで彼を感じたい。
もはや許可を取るよりも早く唇を押し付けた。にゅちゅっ
…
と舌を出し、ぐりぐりと隙間へ割って入る。柔らかい、あたたかい、トガシくんの体はどこを触っても甘くとろけているみたいだ。
「ん、
…
、っ」
ぶるっと小さく腕の中でトガシが震えているのが分かるのに、止められそうにない。くちゅっくちゅっと静かな水音を立てながら見よう見まねで舌を動かしてみる。きもちいい、とろとろぬるぬるしてて、あったかくて、トガシくんの中に入ってる。
「ふっ
……
ぁっ
……
っ、だ、め
…
舌、入れ、ちゃ
…
」
ぞくぞくぞくっと背中を走る快感に思わず声も震えた。びくんっと背中が跳ねてしまうのに、強く抱き寄せられているせいで快楽を逃がすこともできない。
「
…
少しだけなら、いいでしょ」
口の中にあるトガシの舌を探し当て、くちゅりと根元から絡めあった。ぬちゅっぬちゅっと柔らかい粘膜を擦り合わせる。
「こ、みぁく
……
」
とろぉ
…
と溶けた瞳が窓から差す月明かりを反射させていた。
ああ、こんな顔を見れるのは僕だけだ。これだけは絶対にそうだと言い切れる。
「
…
かわいい、トガシくん」
みんながトガシくんを称する言葉は、カッコイイとか脚が早いとかイケメンだとか、そんなワードばかりだ。
でも、みんな知らないんだ。トガシくんはこんなにも可愛いって。
「その顔、僕以外に見せないでね」
「
……
っ、見せるわけ、ないだろ
…
」
濡れた唇は僕のせいだ。潤んだ瞳だって僕のせい。
ぞくぞくするような何とも言えない興奮が後押ししてやまない。一番上手くいったレースの時のように、もっと先へ行きたいと全身が叫んでいた。
「大好き、トガシくん」
初めて君と一緒に過ごした夜は、甘くとろりとした思い出と共にある。ぶわりと顔を赤くした君が顔を隠すように抱きついてきて、それを受け止めるように背中を優しく撫でながらいつしかゆらゆらと揺蕩うように眠りについた。 世界で一番幸福な夜だった。
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