風花莉亜
2026-05-24 00:26:57
4470文字
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イマジナリーじゃなくて、恋のキューピットです。


第41回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点で上目遣いについての話。圭ちゃんが割と出張ってます。いつも通り、なんでも大丈夫な方向け

俺の身長がそれなりに高い事から、この学校で俺に話しかける奴は大抵が上目遣いである。
これは目線を合わせようとする人間の基本行動のひとつであり、決してあざとさを出している訳ではない。
いやまぁ、中にはあざとさでやってる奴もいるけどそれは置いとくとして、男女問わず、中には先生だって上目遣いで見てくるから、俺の中では上目遣いは特別でも何でもないものだった。
例えされたとて何の感情も湧かない、と言った時のクラスメイトの反応は『信じられない』といった感じで、そんなん言ったら清峰も同じ事を言うだろと反論したものの、アイツは別枠だと一蹴された。
野球と要にしか興味のない人間だ、そりゃそうかと納得したものの、その要に上目遣いされたら……いや、毎日のようにされてるか。
されていて、何の感情もなさそうだなと諦めた。

「好きな子に上目遣いされたらやべーだろ。心臓鷲掴みされるだろ!!」

とは、クラスメイトの言葉だ。
そんなもんかねぇ、と机に頬杖をつきながら欠伸をし、出てきた涙を拭うくらいには興味がなかった。

「葵ちゃん、正気?」
「げっ」

一番面倒臭いのが参入してきやがった。
少し離れた席にいたはずの要が、いつの間にか俺の席までやって来ていて、こちらも『信じられない』という顔を俺に向けている。
どいつもこいつもよォ、そんなん人それぞれだろが。

「正気だが?」

頬杖をついたまま、目の前で立っている要を睨んでやると、「顔怖すぎ」などと失礼な事を言う。
凄んでいるので正解の反応ではあるが、これも一応は上目遣いになっているのでは?
ほらほら、お前らの好きなやつだぞ。
俺の言いたい事がわかったのだろう、要は可哀想な物を見る目をこちらへ向けてきて、あまつさえ肩をすくめるオーバーリアクションをとった。
ムカツク。
拳を作れば、首をちぎれんばかりに振って暴力反対を唱えた。

「葵ちゃん、カルシウム足りてる?」
「足りとるわ」
「嘘だぁ、沸点低すギルティ」
「誰のせいだよ」

要との茶番が始まった時点で、先程まで近くにいたクラスメイトは蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていた。
待てコラ、逃げンな。
しかし俺達の会話には興味があるらしく、この場からは逃げたものの、遠巻きにコチラの様子を窺っている。
……なんなんだよ。


「俺、ももなっちに上目遣いで見られたら死んじゃうかもなんだけど」
「そうか、一生ないから安心しろ」
「ひどっ!! 夢くらい持ったっていいでしょ!?」
「そーだな」

ヒラヒラと手を振って答えると、わぁっと泣き真似をした要に引っ付かれる。
うぜぇ。
首根っこを引っ掴んで引き剥がそうとするも、どこにそんな力があるのやら、少しも剥がれやしない。
俺に吸引されているのか、はたまたコイツが吸引しているのか。
磁石が引き合うかのように、接着剤でくっつけたかのように、要は俺に引っ付いたまま「葵ちゃんだって絶対に上目遣いの良さわかるってぇ!!」と叫んでいる。
うるせぇ、耳元で喚くな。
パシーンッ、と小気味好い音を立てて頭を叩くと、尚もピーチクパーチク喚いた。
誰かコイツをどうにかしてくれ。
恨めしい目をそこら一帯に投げると、目が合いそうになった傍から逸らされるを繰り返す。
唯一どうにかしてくれそうなヤマはというと、生憎と席を外しているらしく姿が見当たらず、こうなりゃ清峰でもいい、と目立つ姿を探してみるが、こちらも見付からなかった。
野球部どこ行った!?
本当に誰でも良い、と更に目線を動かしていくと、入り口付近で楽しそうにこちらを見ていた眼鏡と視線が合った。

「千早おまえ笑ってンなよ」
「わぁ怖い」

いつからこの惨劇を見ていたのか、もしかしたら最初からだったのかもしれない。
怖いと言いつつも少しも怖がる素振りのない千早は、見付かったのなら仕方ないとばかりに自分の席へと腰を下ろした。
うん、俺を助けるつもりはないんだな。
頬杖をつきながらコチラを見ているだけで、要を引き剥がしてくれそうにない。
自ら面倒事には関わらない主義である千早が、外界からの接触を遮断する為のイヤホンを耳にはめてないだけマシだった。
だって、会話はしてくれそうだし。

「コイツどうにかしてくれ」
「アハハ、ご自分でどうぞ」

試しに声をかければ返ってきた。
返ってはきたけど、素っ気ない。
つーか普通に酷い。
ご自分でどうにか出来ないから言ってンだろがァ!!
マジで助け舟ひとつ出してくれそうにない千早に心の中で叫ぶ。
それを一語一句違わずに感じ取ったのか、大きな目が細まった。

「授業、始まりますよ?」

その言葉を合図に、クラスメイト達が自分の席へと戻っていく。
なにこれ。
統率の取れた動きを見せる教室内に、呆気にとられる。
引っ付いていた要までも呆気なく俺から離れていき……かと思ったら少し屈んで俺の耳元へと唇を寄せた。

「瞬ちゃんに上目遣い頼んでみたら?」
「は?」

バチン、とウインクをひとつキメて「じゃ〜ね〜」と手を振りながら去って行く後ろ姿を引き止める事は出来なかった。
千早に上目遣いを頼んで何になるって話なんだが?
そもそも普段から千早は上目遣いだ。
俺達の身長差から自然とそうなっているもので、アイツだって別にあざとさを出そうとしているものではない。
そもそも俺相手にそんなもん出してどうするって話なのだが。
要の言葉を反芻しながらなんとなしに千早を見ると、バチリと目が合った。
どうやら千早もこちらを見ていたらしくて、「なんだよ?」と問えば、何でもないとさっさと前を向いてしまう。
見といてそりゃねーだろが。
見つめる横顔が少しだけ機嫌が悪そうに見えて、さっきまであんなにニヤニヤしてたのにと不思議だった。
千早はどこか猫っぽい所があるので、性格もそうなのかもしれないと結論付け、授業開始と共に机に突っ伏した。
睡眠学習ってやつだよ。



*****

『瞬ちゃんに上目遣い頼んでみたら?』

要に言われた言葉が時々、頭を過ぎる。
頼んでみたらも何も、普段から上目遣いなんだって、と何度目かわからない返しをイマジナリー要にした。
しかし決まってアイツはこう言うのだ。

『無意識の上目遣いと意識してする上目遣いじゃ全然違うのよ。これだから恋愛ど素人は』

おめェもだろが。
最後の部分いらねーよ、カットしろカット。
そんなやり取りを重ねて一週間、上目遣いがら気になりだした俺は遂に、千早に向かって「ちょっと上目遣いしてくンね?」と頼んだ。
勿論、千早の反応は何言ってんだコイツ、という顔をされるだけではなく、言葉にまでされた。
ついでに「馬鹿なんですか?」というお言葉まで頂戴した。
酷い。

「何で俺に頼むんですか、ソレ」
「ちょっと確かめたいっつーか」
「何をですか……
「そこはまぁ、気にせず」
「気になるに決まってるでしょ」

眉間に皺を寄せる千早に、両手を合わせて「このとーり」と頼む。
俺もなんでここまでしてんのかわからんけど、そろそろこの案件を解決したいのだ。
ここ数日で色んな人の視線を気にして見てみるようになったが、やはり上目遣いの良さはわからないまま。
妹の上目遣いはめちゃくちゃ可愛い事は再確認したが、姉貴のは何とも思わんかった。
そしていつも通りの千早からの上目遣いは、こいつ目ェでけーなぁと言う感想だけが残って、やっぱりそれだけ。
見慣れたものと、要の言う『意識してやる上目遣い』とやらと、何が違うと言うのか。
知りたい。

「なぁ、頼む。一回で良いから」
……最近、駅前に出来たイタリアンのお店のパスタ、食べたいんですよね」
「奢る!」
「そんな食い気味に」
「仕方ないだろ、気になってしょうがねーんだよ」
「理由は?」
「い、言いたくない」
「我儘ですね」

と言いつつも、一回だけですからね、と。
何だかんだ言いつつも了承してくれるのだから、やっぱり千早って優しい奴なんだよな。
意地の悪い言葉ばかりが目立つけど、基本的には人をほっとけないタイプみたいだし。
それはまぁ、自分の内側へと入れた相手のみのようだが。
じぃ、と千早を凝視していると、やりにくいと言われた。
いや、どうしろってンだ、見てないと意味ないんだけど!?

「パスタだけじゃ割に合わない気がしてきた……
「え、他に何をご所望しようとしてんの?」
「バッセンからパスタまで、全部藤堂くんの奢りって事で」
「別に良いけどよ」

多少懐具合が可哀想な事になるが、仕方がない。
つーかこれ、要が全面的に悪くないか?
こんな事を千早に頼む原因になったのは要の一言だし、アイツが変な事言わなければこんな事にはなっていない。
バッセン代はアイツに払わせるべきか、などと腕を組みながら考えていると「藤堂くん」と名前を呼ばれ、そしてその格好のまま固まった。
俺の頼んだ通り、千早は上目遣いでこちらを見ていて、それは普段通りなのだが。
しかし、普段とは決定的に違うのはその表情だった。
どこか恥じらう雰囲気に少し赤い頬、キュッと引き結ばれた唇とここではメインと言っていい、上目に向けられた瞳は普段よりも水分を含んでユラユラと揺れていた。
これが意識的な上目遣いの正解、なのか?
いやこれ、なんかまた違う気がする。
良くわからん、けど、なんか、こう、上手く言えないけど……

とりあえず、めちゃくちゃ可愛い、って事だけは言える。

可愛いとは別にもうひとつ、千早に感じた事のない感情が俺の中に生まれた瞬間だった。
鼓動が速くなって顔に熱が集まって、こんなんまるで……いやいや、待て待て、落ち着け俺!!
違う、これは珍しい千早を見たから、びっくりしてるだけだ。

『葵ちゃん、往生際が悪いよ〜? 認めちゃいなよ〜』

イマジナリー要がウザい。
ニマニマした顔で近寄ってくんな、ぶん殴るぞ。
あーくそ、こうなるってわかってて要はあんな事言ったンか!?
完全にアイツの手のひらの上で転がされている己のアホさ加減に若干の怒りを覚える。
こんな風に自覚させられるなんて思ってなかったし、なんならまだ認めてねェ。
認めてねェからな。

「あの、もうやめていいですか……?」
「へ?」
「ですから、上目遣い」
「あ、あー……うん」

惜しい気もするが、恥ずかしさが限界を迎えてそうだし、これ以上は可哀想だよな。
後ろ髪を引かれる思いで頷くと、くるり、と後ろを向いてしまった。
顔を見たくて千早の腕を引き、こちらを向かせる。
驚いた顔はやっぱり上目遣いで俺を見ていて、けれど先程とはまた違うものだった。
これは無意識なやつ、頭ではハッキリと理解しているが、俺の鼓動は速度を上げた。

掴んだ千早の腕を、ほどけない、ほどけそうにはなかった。


END



やっぱり今回も良くわからん話に。可愛いやつ書きたかったのになぁ