望月 鏡翠
2026-05-23 23:19:56
930文字
Public 日課
 

#2091 にやりと相棒18

#毎日最低800文字のSSを書く/@tmysmst

 僕は見間違いかと思って、波打ち際まで走って行きました。長靴の先っぽだけ濡らして、その先には磯の黒々とした岩があったはずです。僕たちは岩を飛んで、ここまできたんです。
 それなのに、黒々とした岩の崖があるだけで、その下にあるはずの僕たちが乗って歩ける岩がどこにも無くなっていて、波が揺れているだけになっているんです。
「僕、道を間違えていないですよね」
「確かにここだよ」
 相棒も不安そうな顔になっています。
 入江は入り口は一つだけです。間違えようがないはずなんです。端から端に歩いてみても、海を渡ることができる場所はありません。
 僕は海をじっくり観察して気がつきました。
 岩が消えてしまったわけじゃないんです。海が増えたんです。水面が上がっていて、僕たちが歩いてきた場所が沈んでしまったんです。
 原因はわかりました。でもここからどうすればいいのかわかりません。また、あの岩が出てきてくれないと僕たちはお家に帰れないんです。
 それはとても困ります。
 少しだけ、海に入ってみました。でも長靴よりももっとずっと水が深いです。お父さんとお母さんとの約束だけではなく、僕はこれ以上水が深いところまで行くのが、怖かったです。
 波が思ったより強く僕の足を引っ張ってきました。陽が少しずつ傾いてきていました。水の深いところが暗くて、底はどうなっているのか見えなくて、何かとても恐ろしいものがその下にいたらどうしようと思うとすごく怖かったんです。
 とても泳ぐ気にはなれませんでした。
 海に道がなくて帰れなかったら、僕たちは小屋の奥にあるわけのわからない森を通って帰らないといけません。スターみたいに空が飛べなければ、きっと帰り道がわからなくなってしまいます。
「僕たち、どうやって帰ればいいんでしょう」
 どちらの道も選んでも、それはすごく危なくて怖いことのような気がしました。水面は少しずつ上がってきているような気がします。もし、海が僕たちの足元まで飲み込んでしまったら、どうしましょう。
 泳いで元の浜辺まで、たどり着けるでしょうか。
 ライフジャケットは、僕をちゃんと支えてくれるでしょうか。
 もう秋です。
 風が冷たくて、心細くなりました。