時間が合わないので昼はそれぞれ別に食べているが、冨岡がぶどうパンしか食べていないので今週から弁当を作ってやることにした。冨岡は体育教師だし俺よりも体力を使うだろうから菓子パンは流石に、と思ってのことだ。
実家にいた時から弁当を作るのは得意だったし、なんなら妹や弟の為に取得した可愛いおかずや飾り切りもまだ作れる。そこまではやっていないが、今も自分の分は作っているので一つ作るのも二つ作るのも対して変わらないだろうと。
朝練のために早く出ようとしていた時にさっそく弁当包みを渡してやったら切れ長の目をまん丸にして驚いていたから笑ってしまった。そんなにかよ、って。
まあ、そこまでは想定内。
「何やってんだよ……」
弁当初日だし、と理由付けて様子を見に来てみれば、冨岡は何故か弁当をおかずにぶどうパンを食べている。ちなみにこの場合のおかずとは食べるほうではなく、見るだけのほうのおかず、だ。流石にこれは想定外だ。食えよ。
理由を問い詰めたら
「食べたら無くなってしまうから」
とか抜かす。
「いや、弁当は食べて無くすもんだろうがァ」
「だって不死川が初めて作ってくれた弁当だ」
「あのな、弁当は食わなきゃ腐るんだよ」
もう呆れてしまい、ぐだぐたウダウダ言っている冨岡の口に弁当のおかずを放り込んでやった。
初めは抵抗していたけれど、俺が睨んだら諦めて咀嚼している。
「……美味しい」
「いや、泣くなっての」
「だっておかずが減った」
「たった今、テメエの栄養になったからな」
呆れついでに今度は卵焼きを摘んで口に入れてやる。冨岡はまた泣きながら咀嚼している。忙しい奴だ。
「ったく、朝飯と夕飯はちゃんと食うのになんで弁当は勿体無いんだよ」
「朝と夕は不死川がいるから良いが、昼は別々だから寂しいだろう」
べそべそ泣くくせに次のおかずを入れて欲しそうに口を開いて待ってるから、今度はピーマンのおかか和えを入れてやる。俺も大概甘い。
「美味しい」
「そーかい。俺まだ食ってねェからなァ。美味いなら良かったわ」
「不死川が隣にいてくれるし食べさせてくれるからとても美味しい」
「はいはい」
今では慣れてしまったが、俺に対して冨岡はずっとこんな調子だ。
そもそも、初めて冨岡から話しかけてきた内容が
「不死川のまつ毛が抜けたら貰えないだろうか?」
だったからな。犯罪臭しかしねェ。よく俺もそんなのと付き合って、あまつさえ同棲までしたよなァ。多分。いや、きっと。求められたら応えたくなってしまう己の性格のせいなんだろうが。
玄弥が生まれた時から俺は『お兄ちゃん』になり、常に誰かに求められて生きてきた。
なのにいつの間にか弟も妹も元気に成長して、徐々に『お兄ちゃん』が必要とされなくなって。それは喜ばしいことなんだが、同時に寂しくもあった。冨岡はそこにするっと入り込んできたのだ。
病的に俺のことが好きで側に居たがるし構いたがるし、構われたがる。面倒なやつ。
ある意味、共依存なのかもしれないけれど、俺も冨岡のことが好きだし誰にも迷惑をかけていないし別に良いだろ、としか思わない。
何度か食べさせてやっていたら満たされてくれたらしい。考え事をしている間に冨岡は自分で食べ始めていた。
「ちゃんと噛んで食えよ」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして」
頬に付いた米粒を取って食べる。こんなのも気にならなくなった。
「付いてたか」
「付いてるってのいつも。落ち着いて食えよ。盗らねえし」
「……不死川の口に入ったやつ、食べたかった」
「いや流石にそれはキモイ」
「不死川」
「あんだよ」
「今度不死川の身体の上に」
「却下だわボケ」
いや、本当によく付き合ってるな。
「それはやらねえけど、帰ったら夕飯の時にまたあーんはしてやるよ」
「言ったな?」
「言ったわ」
「なら我慢する……今は」
「ずっと我慢しとけやァ」
俺も自分の弁当を食わなきゃなんだが、冨岡が飯を食ってるのを見ていたらなんか満たされてしまって、昼くらいどうでも良いかなんて思い始めてきていた。
やっぱり相性が良いのかもな、俺達は。
真逆に見えて実は根本的なところが似てるのかもしれない。
「お前だって自分の身体になんか載せられてそれを俺が食べたら嫌だろ?」
あ、聞く相手間違えたわ。なんでテメエは顔を赤くしてんだよオイ。
「やらねぇよ」
否定したのに今度はなんで? みたいな目で見てくんなばか。
「冨岡ァ」
「うん」
「良い天気だな」
「うん」
「今夜は上に乗ってやろうか」
「うん」
「!」
食べることに夢中になっていた冨岡が箸を折りそうになったから大笑いしながら側を離れる。そろそろ俺の昼休みも終わる。
溺れてんなァ。なんだかんだで俺も冨岡に溺れてんだ。
恋の沼は深いらしいな。
上等だ。かかってこい。
昼飯を食い損ねたが、心が満たされたからまァ良いかなんて思った。
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