雪華
2026-05-23 20:55:35
3147文字
Public テリサイ
 

【テリサイ】許せないこと【現パロ】

現パロです。お題箱にいただいたお題で、サイラスがセクハラ電話を受けて怒るテリオンの話です。いだたいたお題はこちら→ https://odaibako.net/odais/2a5890fc-ba5f-49dc-a082-6bdfa97ef349

恋人の自宅マンションを訪ねるのは初めてではないが、それでも、扉が開く瞬間は僅かに緊張する。サイラスはいつも通りの明るい面持ちでテリオンを出迎えた。

「いらっしゃい! 思ったより早く雨が降りそうで心配していたが、降られなくて良かった」
「ま、たまにはこういうラッキーなことがあってもいいだろ。あんたのリクエスト通り買ってきてやったぞ」
「ありがとう。私も飲み物を用意してあるよ、やっぱり定番かと思って、コーラと……酒も少し。アルコールは夜になったら飲もう」
「何本観る気だ……?」

話しながら遠慮なく室内に上がり、ダイニングテーブルの上に買ってきた菓子類を置く。今日は配信されている映画でも観てのんびりと過ごすつもりで、飲食物もそれらしい選択になっている。今にも一雨来そうな曇天の日には相応しいデートだろう。
サイラスはテリオンが持ってきた袋を覗き込み、目当てのものを取り出す。フライパン型のアルミ皿と材料がセットになっていて、自宅で手軽にポップコーンが作れるという代物だ。

「一度やってみたかったのだよ。キミは作ってみたことがあるかい?」
「いや、俺もない。後から味付けしてもいいらしいぞ」
「甘くするか、塩辛くするか悩むね。酒のつまみにするなら後者だが……

上機嫌になって笑みを浮かべているサイラスが可愛らしくて、彼の後ろに立ってさり気なく腰に触れようとする。しかし机の上に無造作に置かれていたスマートフォンが鳴ると、サイラスはするりとテリオンの脇を抜けた。

……おや、知らない番号だ。仕事関係かな」
「聞かないほうがいいか?」
「どうだろう、出てから判断するよ。……はい」

恋人といる時に緊急ではない電話に出ることを是とするか否とするかは、個人差があるだろう。自分達はあまり気にしない方で、それぞれが時と場合に応じて応答するかを決めている。まぁ、よほど良い雰囲気の時であれば、出ないでほしいと乞うてみることもあるが。そんなわがままを聞いてもらった日は、また格別に盛り上がるものだ。

「もしもし……ん? はぁ……えっと、下着の色?」
「は?」

いつぞやの思い出を振り返っていたが、聞き捨てならない単語に顔を向ける。サイラスは困惑を顕にしつつも、スマートフォンを耳に当てたままでいた。

「それが何か、はぁ、ええと、くろ……いたっ」
「貸せっ」

大真面目に応えようとしているサイラスの頭を軽く叩き、スマートフォンを奪い取る。機械越しに犬のような浅い息遣いが聞こえてきて、大変不愉快だ。目を白黒させているサイラスを手で制し、腹に力を籠めて声を荒らげた。

「おいテメェ! 何ふざけたことぬかしてやがる! 次こんな電話かけてきたら、ぶちのめしに行くからな!」
「ちょ、テリオン……
……もう切れてる。ったく、しょうもない……着信拒否しておけよ」

スマートフォンを返すと、サイラスは両手でそれを受け取って呆然としている。変態から電話がかかってきたことがよほど衝撃的だったのかと思ったが、続く言葉にテリオンは自分の行動を深く悔いた。

「二重どころか、三重に驚いているよ……。まさか同性に下着の色を聞く者がいたこと、キミに叩かれたこと。それから、キミが怒鳴るところも初めて見た」
……

しまった、と思った時にはもう遅い。怒鳴る大人や暴力を振るう人間がごく身近にいたテリオンと、ほぼ無縁で過ごしてきたサイラスとでは受け止め方が大きく異なる。だから、猫を被っているわけではないが、自分の中にある暴力的な面や衝動性をサイラスには見せないように心がけていたのに。
先ほど軽くではあったが叩いた頭に手を伸ばし、髪を梳くようにして撫でる。サイラスに嫌がる素振りはなく、テリオンと視線を合わせると眦を柔らかくした。

……叩いたのは悪かった。あんたが答えようとしていたから、止めようと思って咄嗟に……
「驚いて思考が止まっていた私も良くなかったね。そんなに怒ったのかい?」
「いや……確かに苛ついてはいるが、怒鳴ったのは半分くらい演技だ。あれくらいすれば、馬鹿みたいな電話はかかってこなくなるだろ」
「私を心配してくれたのはよく分かるよ、ありがとう。今回のような軽いいたずらには効果があるだろうが、相手によっては逆上する可能性があることも理解していてほしい」
……分かってる」

諭すような声色の中には一片の棘もなく、彼がテリオンのためにそう言ってくれることがよく理解できる。乱暴な手段を杓子定規に否定するのではなく、行動の結果としてテリオンの不利益に繋がることがないよう危惧してくれているのだ。こんなにも思いやってくれる人に、今になってでも出会えたことは自分にとって最大の幸運なのかもしれない。
しんと静かになった空気を払うようにサイラスはからりと笑い、冗談めかして言った。

「それにしても……応答する声で私が男だと分かったはずなのに、どうして下着の色など聞くのだろうね? 世の中には変わった趣味の人がいるものだ」
……そりゃ、誰彼構わず聞くようなら立派な変態だが、あんたを狙ったのなら別だろ」
「どういう意味だい?」

心底不思議そうに問うてくる姿に、ついため息が出る。サイラスは頭が回るくせに、自分のことになるととんと無頓着だ。自身の優れた容姿が他人からどう見られて、どう思われるかということに理解が及んでいない。その無防備さが余計に、こういう輩を呼び込んでいるのだろうか。

……電話をかけてきた相手は、あんたの知人かもしれないだろ。あんたに意識がなくとも、一方的に顔や名前を知られてる可能性もある。サイラスという男に好意があって、自分の欲を満たすためにかけてきたのかもしれない……
「まぁ、確かに仕事柄それなりに顔は広いから、一方的に知られていることはあるだろうが……。そうだとしても、異性ならまだしも、同性の下着に興味を抱くかね?」
「あのなぁ……そういうやつが現にここにいるだろ」

自分がそういう目で彼を見ているからこそ、下心を向ける輩が許せないのだ。今度こそ彼の腰に手を添えて態とらしく撫でてやると、サイラスは僅かに視線を俯けた。瞬きが少し多くなるのは、照れている時の癖だ。

……キミも私の下着に興味があるの?」
「あるに決まってる」
「それは初耳だ……。ちなみに参考のために聞くのだが……どういうのが好ましいとか、あるのかい?」

それはリクエストに応えてくれるということだろうか。まぁ、サイラスの性格からすると、そこまで大胆なことはできないかもしれないが、恥じらう姿を見るのは好きだ。
指先で薄い脇腹をなぞり、反対の手を彼の首筋に沿えて顔を近づけるように促す。素直に近付いてきた形の良い耳に、吐息を吹き込むように囁いた。

「よく履いてるグレーのボクサーが良いな。なんでかと言うと、……
……!」

理由まで教えてやると、サイラスの顔は一瞬で耳まで真っ赤になった。下着を見るどころかそれ以上の接触も散々繰り返しているのだが、未だにこうして初心な反応をされると面白くて仕方がない。にやつきながら相手の出方を窺っていると、サイラスは小さく唇を尖らせた。

……エッチ」
「あんたが言わせたんだろ。映画よりそっちが先でも良いんだぜ」
「今日は違うのを履いているんだが……
「それはそれで興奮するから構わない」
……結局、何でも良いんじゃないかい?」

さすが、察しが良い。相手がこの美しい人であったら、何を着ていようが着ていまいが、結局は夢中になってしまうのだ。答える代わりに唇を寄せると、甘いため息がテリオンの耳朶をくすぐった。





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