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orikoriko1125
2026-05-23 20:47:34
4222文字
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カキゼイ
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未遂未完で不確定
キスの日ですよ!!
カキゼイ、キッスしろ!!
「
……
今のは! 違うでしょ!」
折れてたらヤベーな、ますますやわらけーモンしか喰えなくなる。ジンジンする歯を押さえて、見上げたゼイユの唇から血が垂れてるのが見えた。
確かにこれを初めてしたキスにカウントするのは、プリンの耳って三角だからねこポケモンだよねって言っちゃうくらいにゃ乱暴。柔らかそうだなってずっと思ってた唇の感触なんて一切合切堪能できず、ひたすら前歯が欠けてないか指先で確認しか出来てない。
「
……
口、切れてっけど。悪かったな」
拭った指とオイラを交互に睨んで「
……
帰る!」とぶっ壊れそうな勢いでドアを閉めると、更に痛みが痛くなってきた。
アレが起きるまではいい感じだったんだよ。
ゼイユが彼女になってからもう二ヶ月。派手な見た目の割に恋愛は初心者すぎるゼイユは隣に座るだけでも「ちょっと離れて」とか言うくらいで、やっぱりオイラのこと嫌いなんだろと聞けば「
……
意識しちゃうから」なんて真っ赤な顔で呟く。
やっとこさ隣に座れて、手も繋げるようになった。一生なつかなかったらどうしよう、その不安も徐々に無くなってきたとこだったのに。
キスじゃなくてあの事故の日から、異常に避けられてる気がする。そりゃあ学年も活動時間も違うとはいえ、連絡すらもねえもんなあ。面倒くせーことになったな、部室の机に重たい頭を預けてると、目の前にもっと重そうな紙袋が現れた。
「ゼイユに借りたのですが、これから生徒会の会議に行くので代わりに渡しておいて貰えますか?」
「
……
なんでオイラが?」
「この後ゼイユに会う可能性が一番高いので」
どう考えてもクラスメイトで友達のネリネのほうがたけーだろ。あ、週末か。それにゼイユからなんも聞いちゃいねえってことだな。
「それではお願いします」
「おー
……
」
なんて言ったらいいか、考えてる間にブーツの音は遠のく。でも渡すのが会う口実になるならいーか。スマホロトムを呼び出して、渡しに行くとメッセージを送っておく。
持ち上げた袋はホントに重たくて、中身を覗くと漫画本。やたらキラキラした絵に女子が好きなヤツだとすぐに理解できた。
この手の漫画は読んだことねえな、一番上に置かれてたキラキラを掴んでページをめくるとキラキラ女がキラキラ男に壁ドンってヤツをされてるシーン。
ホントにあるんだと要らぬ感動をしてると、キラキラ男が女の唇を奪う。キスっていうかマジで奪う感じの。
もしかしてこういうのが良かったのか? いやでもオイラのほうが背が低いからなあ。更にページを進めると男は女にビンタされ、あーやっちまったなあと読みふけってるうちにメッセージの到着音が鳴った
「
……
なんでカキツバタが持ってくんの?」
「ネリネから頼まれたんでぃ」
数日ぶりに会ったゼイユは、あの避けっぷりからは考えられないくらいいつも通りで、ここに来るまでそれなりに重たかった気が少しだけ、軽くはなった。
「
……
ゼイユはこういうのがいいってか、憧れ? みてーなの?」
「はぁ? 何が?」
「キスだよ、キス」
「は」
真っ赤になって目を剥いたのはほんの一瞬で、その後はしゃがんで大笑い。苦しそうに「あんた読んだの? ウケる
……
」と肩を震わせるのを見下ろす。意外と読ませるストーリーだったんだって。
「こんなの現実じゃあり得ないでしょ
……
」
目尻の涙を拭ってもまだ収まらない笑いが声に乗ってて、こんなこと聞かなきゃよかった。
「そーゆーもんか。
……
ゼイユはあん時、イヤだったのかよ」
「イヤって言うか
……
想像してたのと違うって思った、だけ」
「想像? やっぱ壁ドン?」
「だから違うって!」
今度はちゃんと照れんのか。隠しきれてない左耳が赤くてかわいい。
「だからそれを知りてーんだけど
……
」
「
……
それよ! それ‼」
「は?」
可愛げは一瞬でふきとばしに遭い、妙にイキイキした目にオイラが映っている。この目はよく見んだよ、主に弟をいじめてる時に。
「いいこと考えた!
……
あたしがキスしてもいいかなって思ったらしてあげる」
「はぁ〜⁉」
「あんたって何でも適当じゃない。少しは真剣にあたしのこと考えたら?」
適当、少しどころかポケモン勝負の時以外はずっと考えてるよ、おまえのこと。マジで。こんなにも伝わって無かったことに悲しくなるくらいにゃ。
「考えてるって
……
」
「なら簡単に聞かないで。あんたいっつも自分で考えろって言うくせに」
そりゃあどんなポケモンにどんなわざ覚えさせるのか、自分でやらなきゃ意味ねえし。ん? 同じなのか?
「もっとよーく考えて、あたしがキスしたくなるようなシチュエーションにしてみなさい。けっぱってね!」
いつの間に上級者になったんだ。おまけに渡すはずだった漫画は結局オイラの手元に残ってる。ちっとも参考にならなそうじゃねえか。
面倒くさい課題が増えちまった。
「これ、続きあんの?」
「ない。もう何年も前から休載してるんだって」
壁ドン男は実は地底人だった、あのキラキラ展開からそうなるとは全く予想できない。地底人との戦いで再会する二人、次巻遂に二人の刃が交わるって引きで終わらせられたんだ。そして未完の漫画をわざわざ人に貸す神経はホント理解できない。
「だって自分だけモヤモヤするの、イヤでしょ」
絶賛モヤモヤさせられてるのに、更にかよ。
「
……
ゼイユの課題は答え、あんの?」
「だから聞かないでよ」
「それくらいはいいだろぃ! あるなら引き続き考える、無いなら
……
手当たり次第?」
さっきから隣りにいるのにゼイユがオイラを見ることは一秒もなくて、アカマツと戦ってるスグリの背中から離れない。アカマツが一足先に放り投げたテラスタルオーブの光がスグリに当たる。顔は見えないのに、それはそれは楽しそうに見えた。
「無いに決まってんでしょ。今からキスします〜とか言われてするの、つまんないじゃない」
「そりゃねえ
……
」
でも今ここでするのは大不正解なことはわかる。喩え手当たり次第でも。
「せいぜい考えて? ね」
やっとスグリから外れた眼には、またテラスタルの煌めきが映ってる。ああ、クソかわいいなと思ってる間にバシャーモがボールに戻り、スグリがジャージの袖で額を拭っていた。
「ゼイユは、どっち応援すんの?」
「それ言わないとわかんない?」
大切な弟か、めんどくせー彼氏なのか。
レポートを打ち込むディスプレイの光が眩しい、やる気が出ねえ。端からないけれど。
きっとスグリなのはわかってんだよ。実の弟に嫉妬なんてダサい真似はしねえ。けど彼女が応援してくれないのはそれなりに寂しい。
「
……
こういう時にゼイユがキスしてくれたら頑張れんのにな?」
「うーん、まだまだダメね。
……
それにそんなことしなくても、あんたはこういう時だけは頑張るじゃない」
唇の傷は跡形もなくなって、赤い唇にはいつも通りピカピカのリップが置かれてる。普段あんなに理解の範疇外だと言うくせに、こんな風に思ってることが、柄にもなく嬉しい。
今は部屋で二人。いっそこっちからしてもいいけど、どうせなら正解に辿り着きたい、着けるのか。
「やっぱ、チャンピオンは正規の生徒じゃないとね!」
そう言ってパルデアに帰っていった留学生、そして戻ってきたこの王座。惜しくもなんともねーけど、狙ってるヤツがいるなら簡単に渡すのは面白くはない。
そこに一瞬でも座ってたヤツなら尚更。
向かいのスグリが眩しそうに目尻を下げるけど、すぐに午後の光が映った金の眼が開く。ついでに、おんなじ色の眼の女をその背中越しに確認した。一%くらいはこっちにいてくれると思ってたけど、逆にやる気出るってもんよ。
勝負の運びは初めて負けた日とあんまり変わらない。でも雨粒の向こうで、今にもぶっ倒れそうなスグリから目が離せなかったあの日とは全然違う。手持ちが倒れたって、急所に当てたって、こんなにも全力で笑ってるのがずっと見たかったんだって。
「カミツオロチ! きまぐレーザー!」
「ブリジュラス、いってやれーい! エレクトロビーム!」
運まで味方につけてズルい。そう言ってたおまえが先に急所に当ててくんなよ。すげー悔しいけど、すげー楽しかった。
カミツオロチのテラスタルが一段と眩しくて、ボールを握ったままの手を翳すと、まん丸の目のスグリが覗く。いやおまえ実感ないんかい、五テンポ遅れてスグリの右手がガッツポーズを取って、あの日よりもっと大きな歓声が上がった。
「
……
ありがと! わや楽しかった!」
「オイラもだよっ!」
あっという間にスグリは囲まれてて、ゼイユが観覧席から降りるの見えた。負けたくなかった、じゃあ次はどうしてやろうか。もう次を考えてる自分におかしくなってくる。その前にみんな回復させてやんねーと。
「カキツバタ!」
「
……
スグリんとこ行かねーの?」
「? なんで?」
今この場所であの輪の中にいないのはオイラとゼイユだけ。自慢の弟だろ。
「お疲れ様。
……
あんたは今日も楽しそうだったわね!」
「へっへっ、だろぃ?」
それだけはおまえの弟に負けない自信あんだけどな。今日はスグリのがちょっと、勝ってたのかもしれねえ。長い脚がもう目の前まで来てた。
「目、つぶりなさい」
長いまつ毛が早くしろと言うように瞬くので恐るおそる従う。いやまさかここで?
ゼイユの隣りにいるといつもするりんごの匂い、額に髪がかかってくすぐってえ。やっと当てられた唇は予想よりずっと柔らかいし、そういやいつもなんか塗ってんな。ぺとりとしたおきみやげ。
「
……
なんでだよ⁉」
「もっと嬉しそうにしなさいよ! したかったんでしょ⁉」
驚きの感情がどうしても前に出る。いや、フツーは勝利のご褒美になんじゃねえの? 受付のオネーサンが気まずそうに目を逸らした。
「
……
やっぱあんたはポケモン勝負してる時が一番、カッコいい」
やっとわかった、なんでスグリの後ろにいたのか。オイラを見てたなんて気が付かねえって。読めない展開、予想するだけバカみたいってことかい。
「
……
ゼイユって、マジで何考えてるのかわかんねー」
「あんたに言われたくな
……
」
三回目からはもういつでもいいんだよな。付けられたリップもお返ししねえと。
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