週末のランバド酒場は活気にあふれている。この日は空を始め、スメールの男性メンバーで食事をする事になっていた。事前に予約していた個室テーブルに予定したメンバーが集まると早速酒と食事を楽しむ。酒や食事も進み、盛り上がってきた頃、何かを思い出したようにカーヴェが口を開く。
「そういえば今日なんだけど女性たちが『わからせ本』って本の話題で盛り上がってたんだ。それは何かの流行りなのか誰か知らないか?」
その質問に同席しているティナリと空が顔を見合わせて首を傾げた。
「残念だけど僕は知らないな」
「俺もわからないよ」
不思議そうにしている二人に対し、空の隣に座るアルハイゼンは小さく切った肉料理を少年の口に入れた。ぱく。もぐもぐもぐ。小動物のように可愛らしく口を動かす恋人の姿を見ながら酒に口をつける。
「俺もその本が何をさすかわからないが、おそらくこうだろう」
カーヴェの問いかけに何やら考えていたセノが真剣な表情を浮かべながら口を開く。その様子にアルハイゼン以外の3人が注目する。
「その本はきっと『笑いをわからせ、場を沸かせて笑かせる』わかりやすい本なのだろう」
「はぁ!?」
「
……はぁ」
目を見開くカーヴェに深いため息をつくティナリ。空もきょとんと首を傾げながら口をもぐもぐさせている。
「いや、絶対違うから!」
「なに、今夜は俺がお前たちに俺のジョークをわからせてやろう。ふむ、俺のジョークを披露するのだ、ここは心をひろーく持とうではないか。そうだな、今日のここの勘定は俺が払おう。金を気にせずたくさん飲んでジョークを楽しみ感情を豊かにするといい」
ドヤるセノに、ティナリは頭を抱えた。
「よかったな、今日の勘定はセノが払うらしい。君たちは好きなだけ酒を飲むといい。俺はもう帰る」
それだけ言い残すと、アルハイゼンは料理を食べ終えた旅人の手を引いてランバド酒場を後にした。背後からティナリとカーヴェの抗議の声が聞こえてきたような気がしたが、彼が気にするわけもなく、夜の通りを歩き、自宅へと向かったのだ。
「アルハイゼン、先に出てきてよかったのかな?」
アルハイゼンの部屋に入ると、空はどこか心配そうに恋人を見上げた。
「大丈夫だろう。ティナリもいる。セノが勘定をすると言ったんだ、遠慮する必要などない。それに君も疲れている、先にでても問題ないだろう」
マントを脱いでから、空を抱き上げるとそのまま長椅子にもたれて足を投げ出して座る。自分の腹の上にちんまりとおさまりのよい恋人の身体を乗せて本を開く。カチカチの温かな筋肉に安心したように少年は目を閉じる。アルハイゼンは少年の身体が落ちないように支えながら、ゆっくりとそのふわふわの柔らかな髪の毛を長い指で梳いた。
「ん
……」
1時間程眠っていたらしい空は目覚めると、自分を包む温もりに幸せそうに微笑む。ゆっくり恋人を見れば彼は八重堂の本を読んでいた。そのタイトルは『わからせシリーズ第4巻 つれない相棒に俺の想いをわからせたい!』というものだ。
「アルハイゼンそれ?」
「ん? ああ、最近稲妻で女性たちの間で話題になっている本らしい」
「面白い?」
「それは個人の趣味による。君にはおそらく理解できない世界だろう」
「そうなんだね。でも結局のところわからせって何かよくわからないままだったよ」
「君はどう考える?」
アルハイゼンは本を長椅子に置くと髪を梳きながら尋ねた。
「う~ん」
その時、空の頭にはセノの言葉がリフレインする。
『笑いをわからせ、場を沸かせて笑かせる』
「これかな?」
自分のおさげの毛先を手に取るとこちょこちょとアルハイゼンの鼻、首筋をくすぐる。
「アルハイゼン、笑っていいよ。降参する?」
こちょこちょこちょ。
アルハイゼンはくすぐったそうなそぶりも見せず無表情だ。思ったような反応が来ないので首を傾げると、アルハイゼンはその毛先を奪い取り、空の首筋をくすぐり始める。
「ひゃぁっ!」
思わず悲鳴を上げ身体を捩じらせると、唇に温かな熱が伝わる。
ちゅっ。
静かな部屋に響くリップ音。至近距離にアルハイゼンの神秘的な瞳。ゆっくりすり合わされてからアルハイゼンが空の髪を撫でながら離れていく。
「ううう、なんかかなわない気がする」
赤くなっている空にアルハイゼンは微かに目を細めた。
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