遊音。(ゆね)
2026-05-23 19:02:48
7789文字
Public 記憶喪失
 

ふぁーすときす?


kbkが記憶喪失になったtgkbです。『かりそめ。』の番外編になりますが、あらすじをつけたのでこれだけで読めるはず…です。



あらすじ:
トガシは件の日陸後に記憶を失い、カバキに「自分は恋人だ」と嘘をつかれて信じてしまい、そのまま同棲を始めます。後にトガシは記憶を取り戻し、紆余曲折を経て今も二人は同棲を続けています。
ただ、トガシにはひとつだけ悔しさがあります。記憶がない間に関係が進んでしまったため、カバキのはじめてを本来の自分として経験できなかったことです。その思いを抱えながらも、トガシは現在の関係を大切にして暮らしています。
詳細は『かりそめ。』をご覧ください。



オフシーズンに関東近郊の地方競技場で行われたイベントに出たトガシは、帰ろうとしたところでメッセージを受けた。
「海棠さんだ。めずらし……
だいぶ前に連絡先を交換したきり基本連絡を取らないのだが、なにかとメッセージを開けてさらに驚いた。
『緊急:とっととクサシノ練習場に帰ってこい』
「え~、なんだろ……
トガシは少し眉を寄せる。今日は日帰りだし明日はお休みなので早く帰ってカバキと夕飯を食べてゆっくりしたいと思っていたのだが、と思いつつこんなメッセージを冗談で送る人でもないとわかっているので、トガシは『わかりました』とだけ返事をしてクサシノの練習場がある施設に向かった。


「じゃ、あとは任せたからな」
「は?」
開口一番そう言われて示されたのは、医務室のベッドに座るカバキだった。
「え、カバキくん? どうしたの?」
トガシはカバキと海棠を交互に見る。
「練習中に運悪く他の選手とぶつかってな、当たり所が悪かったみたいで、一時的な記憶喪失だそうだ。トガシおまえ、経験あるんだから大丈夫だろ。それじゃ」
「ちょ、ちょ、待ってください。俺は経験があるからってどうこうできるわけでは……
「お前が記憶喪失の間はカバキに世話になってただろうが。恩返しだ、恩返し。じゃ。俺は予定があんだよ」
後はよろしく、と言って海棠が去っていく。
残されたトガシは此処までの会話をじっと見守っていたカバキに視線を落とした。見た目的にはいつもと同じカバキが見上げてくる。
……トガシさん、すみません……色々迷惑かけちゃって」
そう言われてトガシは驚いた。
「え、カバキくん、俺のことわかるの!?」
カバキは頷く。
「記憶喪失っていっても、ここ3年くらいの記憶がないので……
「は? じゃあ、カバキくんはいま何歳?」
「いま、俺は19歳だと思ってますけど……ほんとは22歳なんですよね?」
さっき聞きました、とやけに落ち着いた様子でいる。なんでこんなに落ち着いていられるのか。さすがカバキだとトガシは思う。
「クサシノ入ったくらい、かな?」
「クサシノ入って、1年半くらいだと思ってますけど……
「一番新しい記憶は?」
「世界陸上の代表選手として走りました」
「あー、3年前の……なるほどね」
ほぼ3年くらい前に戻っているということになる。
とりあえず、この医務室にずっといるわけにもいかない。トガシはカバキを連れて帰らないといけないのだが――ここで問題がある。
トガシとカバキは付き合っていて――さらに同棲している。だが正式につきあったのは半年ほど前なので、このカバキは当然自分たちがそんな関係だとは知らない。
悩むトガシは視線をあげて腕を組んだ。
カバキは以前、昔からトガシのことが好きだったと言っていたが、具体的にいつから好きだとは聞いたことが無かった。
この19歳のカバキが自分のことを好きかどうかでこの後の対応がだいぶ変わると思っている。
とはいえ、とりあえず連れて帰らないといけない。
「あのさ、カバキくん……
「トガシさん、今いくつですか?」
「26だけど……
「あんまり変わってないですね」
にこっと笑われてトガシは頭を掻く。
「そう? ありがと……ってあのね、伝えたいことがあって」
「なんですか?」
「今のカバキくんね……実は俺と住んでるんだよね……
カバキの目が大きくなる。猫みたいな驚き方の顔するな、とトガシは思った。
「は……?」
「だから…………一緒に帰ってもらわないと、なんだけど……いいかな?」
「え……俺と、トガシさんが……?」
「そうなんだよね」
トガシが苦笑すると、カバキはしばらくそのまま固まった。


カバキは焦っていた。
自分が記憶喪失だと言われたときより焦っている。
いったい、この3年の間に何があったというのか。
最近、カバキはトガシのことが好きだと気づいた。自分の感情が信じられなかったが、トガシのことを性的な意味で好きだと自覚した。だからこれはずっと隠し通すと決めたばかりだった。ずっと自分の片思いで終わるものだと思っていた。
なのに、記憶喪失の3年の間に何がどうなったのか一緒に住んでいるという。
カバキとしては想定外の想定外だった。
電車で自宅まで帰る間、トガシが何か世間話めいたことを伝えてくれるが、少しも耳に入ってこない。
はたして、このトガシが自分とどういう関係なのかを確認しないといけない。
単純な同居なのか。それともこの3年の間に何かあって同棲するような仲になったということなのか。
話をしてくるトガシはいつもクサシノで会うトガシとたいして変わらないように見えた。
「あの……ほんとに、俺と、トガシさん……一緒に住んで……?」
「え、うん……それ聞かれるの3回目だけど、もしかして嫌……?」
最寄り駅に着いてから再度聞いたカバキは、嫌かと聞かれて思い切り首を振った。
「嫌じゃないです! 嫌では……ないです」
それきり、カバキは黙り込んだ。


トガシは黙り込んだカバキを見てさすがに確信した。
――好き、だよな、俺のこと……
おそらく間違いようがなく、カバキはトガシのことが既に好きらしい。いつもすました様子のカバキの顔と耳がほんのり赤くて可愛らしい。
見た目はいつもと同じだが、中身が19歳だとどこか初々しさがあるのは気のせいだろうか。
――これ、連れて帰っていいのだろうか……
なんとなくいけないことをしているような気分になるのは何故なのか。
まもなく住んでいるマンションが見えてきて、トガシは少し焦りはじめた。
見られて不味いものが結構ある気がしてきた。
「あ、あのさ、カバキくん」
カバキが緊張した顔を見せたので、トガシは刺激しないように微笑んだ。
「あ、あのね。出かけてたから片付けてなくて。ちょっと入る前に片づけてもいい?」
……わかりました」
カバキが頷いてくれたので、トガシはほっとした。
「帰ったら何か作るね。おなかすいてるでしょ」
「誰が……ですか?」
「え、俺がつくるけど……
「トガシさんが……!? 料理できるんですか……?」
物凄く驚かれてトガシは少しだけ傷ついた。カバキの中の自分はどんなイメージなのだろうか。
「それなり、に……
「トガシさんの、手料理ですか……
語尾に明らかな期待が含まれている。そして嬉しそうだ。
「あんまり期待しないでね……たいしたもの作れないから……
「なんでも食べるので大丈夫です!」
思わずトガシは笑った。見た目は同じだが、やはりテンションが少し若くて可愛いと思ってしまった。


トガシは大急ぎで部屋を片付けカバキを家に入れると、先にお風呂をすすめて、その間にありものでご飯を作った。時間がなかったので適当なチャーハンと卵スープになったが、カバキはそれでも感動していた。どれだけ料理が出来ないと思われていたのか、とトガシは苦笑する。
「まぁ、とりあえず……なるようにしかならないから、普通に過ごしてるといいよ」
食後に麦茶を出してお互いにリビングのテーブルに座っていると、やっと落ち着いた気分になってくる。トガシはカバキを安心させるように微笑んだ。
……トガシさんも、記憶喪失になってたんですか?」
カバキに問われて、トガシは驚いて口を開いてしまった。
「え、言ったっけ……?」
「今日、海棠さんが、そんなこと言ってましたけど……経験あるって。しかも俺が世話した、とか……
「あ、あ~……そうなんだよね……
トガシは愛想笑いを浮かべながら後頭部を掻く。どこまで言っていいか悩む。適当にごまかせるだろうか。
「今年の最初の頃まで、俺も記憶なくしてたんだけど、その間、カバキくんが面倒みてくれて、その流れで一緒に住んでるんだよね……
「そうだったんですか……
それを聞いて少し嬉しそうに微笑む。やっぱり自分のことが好きなんだろうな、とトガシは確信する。
うっかり普段の調子で手を出さないように気を付けないと、とトガシは自分に言い聞かせた。
「ま、疲れたでしょ……カバキくんの部屋は右のほうだから」
「左は、トガシさんの部屋ですか?」
隣り合った部屋の扉を見て、トガシはどきりとする。実はカバキの部屋はほぼそのままだが、トガシの方の部屋には男二人で寝ても大丈夫なようにキングサイズのベッドをいれてある。見られるとまずい。
「そう、なんだけど……かなり散らかってるから開けないでくれると嬉しい……
……わかりました。じゃ、おやすみなさい」
「うん。部屋の服とかは自分のなんだから好きにしてね」
わかりました、と少し微笑んでカバキは部屋に入った。大きな溜息をトガシは吐く。
……カバキくん、すごいなぁ……
今のカバキは自分のことも陸上のこともわかっている中途半端な記憶喪失であるのに対して、自分の場合は全て忘れていた。あの時、一緒に住んで世話をしてくれたカバキにあらためて感謝してしまう。
しばらく触れ合えないのは寂しいが、そのうち戻るだろう、とトガシは気楽に構えた。
――少なくとも3年前のカバキくんも俺のこと好きみたいだし。
なんとかなるだろう、と頬杖をついてスマホをゆっくりと見ていたところ。部屋に引っ込んだはずのカバキが戻ってきた。その手に持ったものをみて、トガシは思わずスマホをごとりとテーブルに落とす。
「あの……
カバキの右手にはコンドームの箱、左手にはローションのボトルを持っている。
――しまった、カバキくんの部屋チェックするの忘れてた……
「あ、あのね、カバキくん、それは……!」
「俺たち……そういう関係ですか……?」
トガシは何度か口をぱくぱくさせて、弁明をしようかと試みて――諦めた。頭をガックリと落として目元を手で押さえる。
……そういう、関係です……
恐る恐る顔をあげてカバキを見ると、目を輝かせたカバキがいた。


「なるほど。それでいまは同棲しているということですね」
リビングのソファに一緒に座って、トガシはこれまでの経緯をカバキに伝えた。
「一応、聞くけど……19歳のカバキくんは俺のこと好き……だよね……?」
「好きです」
まっすぐ見つめられて眩しい。トガシは思わず目を細めた。
……ありがとう……
「トガシさんも俺のこと好きってことですよね」
「まぁ……でなきゃ同棲してないね……
頬を掻きながら視線をはずす。相手は同じカバキなのに悪いことを伝えているような気がする。19歳だと思うからだろうか。
「じゃあ、トガシさん。しましょ」
……何を?」
トガシは嫌な予感がした。
「セックス」
やっぱりと思ってトガシは頭を押さえた。22歳のカバキもかなり積極的だけど、19歳はさらに積極的な気がする。
「ダメだよ」
「なんでですか? 俺としてるんですよね」
「それとこれとは別だよ。今のカバキくんは記憶ないわけだし。それに、記憶ないカバキくんに手を出したとか、記憶戻った時怒られそうだし」
「俺ですよ。怒らないですよ、たぶん」
「でも、今の君にとっては俺とは何も経験ないわけじゃない? いくらなんでもいきなりそんな……
「でも既成事実があるなら俺は望むところです」
……カバキくん、自分が記憶失ってる間に俺として、しかもその間の記憶がないとか嫌じゃない?」
「トガシさんは嫌だったんですね?」
……そう、ね……
視線を避ける。過去の自分に嫉妬したのは一度や二度ではない。記憶が戻ってからもやはり別次元の世界のことのようで納得できない自分もいる。
「じゃあ、なおさらしましょう! 体は初めてじゃないかもですが、今の俺には記憶がないですから、初めてです!」
――なんて魅力的なお誘い。
「なんて魅力的なお誘い」
思ったことがそのまま出てしまった。トガシは思わず首を振る。
「いや、でもさ……やっぱりよくないよ。ほら記憶ないし、なによりこういう関係だってことも今知ったわけだし、よくない……
「トガシさん、俺は今なら全部初めてですよ。トガシさんが全部初体験です。したくないんですか?」
――めちゃくちゃしたい。
「めちゃくちゃしたい」
また思ったことがそのまま出てしまい、トガシは口元を手で覆う。カバキはにんまりと笑った。
「しましょ、トガシさん」
「いや、いやいやいや……俺は、19歳の君とは付き合ってないから。それはダメだよ」
「じゃあ付き合いましょう。そしたら問題ないですよね?」
「なんでそんなに積極的なの?」
「22歳の俺は積極的じゃないんですか?」
「積極的……だね……
カバキがソファでにじり寄ってきて、トガシのシャツを掴んだ。
「待って待って……
「わかりました……じゃあ、ファーストキスくれませんか?」
「ふぁーすと、きす……
「あ、わかりません。俺のほんとのファーストキスはこの3年で違う人の可能性があるのかもしれませんけど……
「いや、多分俺だね……
記憶のなかにしかないけど、と胸のなかで呟きながらトガシは頬を掻く。
「じゃあ俺にも! ファーストキスください!」
元気いっぱいに言われて、やっぱり若い、と思う。トガシはうーん、と唸ったあげく、欲望に負けてしまった。
……じゃあ、キスだけね」
ぱっとカバキの顔が輝いたので「……かわい」とトガシは呟いてしまった。
トガシがカバキの顎に手を添えると、はっとしたカバキがキュッと目をつむった。少し睫毛が震えている。
――やばい、可愛い……
トガシがカバキの唇を親指で少し撫でるとびくっとする。トガシはそれに微笑んで、そっとキスをした。ふにっと柔らかく唇が触れ合うと、シャツを掴むカバキの手が強くなった。あまりにも可愛くてトガシはつい舌で唇をなめて、そのまま口腔に入れてしまった。カバキがびくりと体を揺らして、体を離す。
顔を真っ赤にしたカバキが驚いた顔で見上げてくる。
「トガシさん、俺、はじめてなんで……
もっとゆっくり、とさっきまで「セックスしたい」と騒いでいたはずのカバキにそんなことを言われて、トガシのどこかがプチッと切れた。
「カバキくん……やっぱり君の初体験、俺にくれる?」
「え……あ、はい!」
トガシはカバキを抱えあげると、そのまま寝室へ運んでいった。


カバキが目を覚ますと、見慣れた家の天井だった。
「あれ……?」
クサシノに居たはずなのに、何故家にいるのか。疑問を覚えながら隣を見ると、見慣れた顔がすやすや眠っている。
ちらりと布団をあげてみたが、お互い何も着ていないし、腰はだるいし何をしていたかは明白で。
……どうして……
カバキは髪をかきあげて暫く考えてみたが、何も覚えがない。時間もいつも起きる時間と大差ないので、カバキはトガシをゆする。
「ちょっと、トガシさん……
小さく唸って、トガシが何度か瞬きすると、微笑まれる。朝日に当たって三倍くらいカッコよく見えて、カバキは目を細めた。
「あ、カバキくん、おはよ……
起き上がったトガシが、頬にキスしてくる。
「昨日は無理させてごめんね……大丈夫だった? はじめてだったけど、辛くない?」
「はじめて……? 何言ってるんですか、トガシさん?」
「あ……あっ! カバキくん、元に戻った!?」
良かった、とトガシが喜ぶのを、カバキは怪訝に見つめる。
「俺、クサシノに居たはずですよね?」
「あ、そうそう、他の選手とぶつかってね。当たり所が悪くてちょっと記憶障害を……
……記憶障害……で、どういう状況ですか、これ? やりましたよね、まちがいなく?」
「あ、あぁ……そうね……あの、いや、同意の上だよ、同意の上」
「俺が記憶障害おこしてるのに、同意の上で……? ナニしたっていうんですか?」
カバキが睨むと、トガシは視線をはずす。
……やっぱり怒ったじゃん……
顔を背けてぼそりと愚痴る、トガシの耳を引っ張った
「痛いです、カバキさん……
「どういうことか説明してもらえますか?」
「はい……
低い声ですごむと、トガシは全部話してくれた。
……わかりました」
カバキはあまり面白くない気持ちでトガシから顔を背けた。トガシが心配そうな顔で伺ってくるのがわかる。
……怒ってる?」
……19歳の俺は、そんなに良かったですか?」
「いや、まぁ、その……いつものカバキくんも可愛いけど……やっぱ反応がさ、初々しくて……
頭を掻きながら少し嬉しそうに話すので、やはり面白くない。
カバキが眉を寄せてしまうと、トガシは手を慌てて振った。
「いや、ごめん、その、あのさ……
「いんです。別に。俺は俺なんで……ただ……
……ただ?」
「ちょっと……トガシさんの気持ち、わかりました」
しばらく黙っていたかと思うと、意味を理解したのかトガシは声を上げて笑った。
「やっと、俺の気持ちわかってくれた?」
……ちょっとだけ、です。よかったですね、19歳の子と初体験できて」
「それがもう、積極的なのに慣れてないからめちゃくちゃ可愛くて」
思い出しながら鼻の下を伸ばして話すトガシを見ていると、カバキは自分の目が座っていくのがわかる。
……いいですよ、別に。俺の初体験の人もめちゃくちゃ優しくてカッコよかったんで」
……やっぱりそいつムカつく」
「もう記憶あるんですよね?」
「記憶にあるけど、自分だった感じしないんだよ」
トガシも不機嫌な顔になったので、カバキは少し気分がよくなって笑った。
「19歳の俺にも優しくしてくれたんですよね?」
「めいっぱい優しくしたつもりだけど……どうかな」
「覚えてないんで、どうやったか教えてください」
トガシの首に腕を回す。
「じゃあ、キスからね」
唇を重ねられて、ついばむだけのキスが続いてカバキは思わず微笑む。トガシの腕に抱きしめられると、カバキは昨夜の覚えていない記憶を追跡した。



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途中の部分を他でもない私が読みたい!!ってなったので書きました。
相変わらずぬるいですし、キャラ崩壊してますが、それでもいいよ!っ方は良かったら読んでください。
https://privatter.me/page/6a1175125d71a


ちょっと長くなってしまいましたが、カバキくんの方の記憶喪失もかけて楽しかったです!
また『かりそめ。』の番外編というかこの二人の話はSSで書いていけたらいいなぁと思っております。読んでくださってありがとうございました!