燈 ともしび
2026-05-23 14:49:37
1700文字
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ぎゆさね【面倒な大人】

キ学軸の二人です。甘ったれ攻🌊さんと甘やかし受🍃さんのいちゃついているだけのお話です。

「行きたくない」
「いや、行きたくなくても仕事だからな」
 どよーんと真っ黒な影を背負い、泣きそうになりながら荷造りをする成人男性はどうかと思う。

 うちの姉妹校との交流を兼ねた二泊三日の出張。冨岡は明日からそれに参加することになっているのだが、行きたくないとずっとぐちぐち言い続けている。
 そもそも仕事だし、場所は鹿児島だなんて酒や飯が美味くて観光地もたくさんある良い場所だし、それに何よりたかだか二泊三日の出張だ。なにも数年行ってこいと言われているのではない。それなのにぐちぐちが止まらないのだ。
 冨岡は飛行機が苦手なのとあまり知らない人間に囲まれるのが得意ではないのもあるのだろうが、
「不死川と離れるのが一番嫌だ」
 などと堂々と言ってくるから俺はどんな顔をすれば良いのか分からない。俺も仕事後で疲れている中、荷造りが進まないからと手伝っているのに。

 元々、冨岡は一度心を開いた人間にはべったりなところがある。すっかり信じきって心を明け渡してしまうからある意味依存のような態度になるのだ。おまけに、多分。いやきっと。
 少し前に、やっと身体を重ねたのもあるんだろう。

 同性同士なんて初めてで、お互いに慣れていないからそこにいくまで思っていたよりも時間がかかってしまった。
 痛かったし、キツかったし、なにより準備するのとか恥ずかしくて死にそうになったけれど、冨岡は嬉し泣きしながらも丁寧に優しく抱いてくれたから嫌な思い出にはなっていない。
 ただそれ以来、冨岡は俺と離れるのを前よりも嫌がるようになってしまった。俺のことを初恋だと以前言っていたがあれは本気だったのかもしれない。子どもがお気に入りのおもちゃやぬいぐるみをいつでも手放せないように、冨岡はものすごく俺に執着するようになってしまった。
「不死川は俺のなのに」
 と、やたらと口に出すのもその現れだろう。
 俺は俺のものだけどな、と毎回訂正しているが。

 正直、面倒くさい。
 でもその面倒くさい男を好きになって身体まで重ねてしまったのは俺だから仕方ない。執着はされているが大切にされているのも分かっている。だから仕方ない。

 ぐちぐち男の顔を両手で掴んで持ち上げる。力任せにやったので冨岡から変なうめき声が上がるが聞かなかったことにした。痛かったの俺じゃないし。
「仕事だからな。行ってこい」
……うん」
「行きたくなくても仕事だからなァ」
「うん」
 うん、ってなんだ。うんて。成人男性がやっても可愛くねぇっての。
 うそ。可愛いな。俺の目も節穴か。

 ちゅ、と。冨岡の目蓋とおでこにキスをする。ちょっと不満げな顔して上向きになるから、俺は笑いながら唇にもキスをした。
 二度、三度。何度か繰り返しキスしていたら冨岡のスイッチが入ってしまったらしく、逆に俺のうなじを掴んで逃げられないように固定されて貪られてしまった。
 冨岡とのキスは好きだから気持ちが良い。
 でも今はこれ以上はダメだと頭の中でアラートが鳴る。だってまだ支度終わってねぇし、明日朝早いし。冨岡は飛行機で寝られるだろうが、俺は朝からきっちり数学教師をしなくてはいけないのだ。寝不足なんてごめんだった。
 案の定、冨岡の手が俺の部屋着のスウェットの中に入ってきたのではたき落とす。
「おあずけだっての」
「いやだ」
 めげずに今度は頭ごと入れてこようとするから力一杯叩いた。
「不死川のおっぱ」
「胸筋なァ」
……こんなに柔らかくて魅力的なのに」
「変態」
「変態でも良いんだ」
 最後には開き直っていたから耐えきれず吹き出してしまった。
 なら、少しは俺も譲歩してやろう。
 そんな気持ちで、服の上からだったけれど冨岡の頭を胸元に抱え込む。するとすぐに、むふ、なんて満足げなため息が聞こえてきたからまた笑ってしまった。

 本当にこいつは面倒な大人だ。
 そいつを好きな俺も面倒な大人。

 ならお似合いじゃないか。
 いいか、もう。
 もう一度、冨岡の顔を押さえ込んでキスしておいた。
 離れがたいのは俺もなのかも、と思いつつ。